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事情聴取業務

お久し振りです。ネタが……ちょっと。

 電気が復旧したので階段を降りたところ、一階の方に人が集められているようで。

 大方点呼とかだろうなと思いながら地下へ降りようと階段を見て、俺は固まった。


「マジか……」


 先程の落下する姿がそのまま貫通したせいで階段が壊れていた。

 別にジャンプすれば届く距離なのだが、戻ってくるとなると少しばかり面倒だと思えてしまう。


 どうしたものかとその場で考え込んでいると、「お客様。こちらへお越しください」と言われてしまったので仕方なく従う。


 夕飯が目的というか、この状態なら食えないだろうとあたりはつけていたので地下へ向かう理由はないのだが、あの時見た落下物と人がなんなのかを見てみない事には安心できる要素がない。だから俺は地下へ向かいたかった。


 まぁすぐに向こうからアクションがあるだろう。このホテルに何もなければ。


 そう結論を下した俺はその件に関して考えるのをやめ、怯えながら周囲の人たちと会話しているお客たちに混ざる。


 そういやエレベーター途中で止まっただろうが今頃あの二人無事なんだろうか。

 今更そんなことに気が付いた俺は柄にもなく辺りを見渡す。

 すると、従業員と一緒にこちらに来るのがみえたので一安心する。


 ……って、べつに問題ないか。なんで俺は安心したんだろうか。


 ひょっとして人間味が増してきたんだろうかと悩んでいると、「ご無事で何よりです勤さん」と安心した様子の綿貫が言ってきた。


「ああ。そっちも無事で何よりだ」

「エレベーター内に閉じ込められただけなので問題ありませんでした……というより、勤さんあの罠は卑怯だと思います」

「まったくだね。なんだってあんなことしたんだい」

「あ? んなもん」

「皆さんご無事で何よりです」


 円谷の質問に正直に答えようとしたところ、燕尾服を着た男の人――このホテルの支配人だろうか――が声を張り上げて喋り出したのでそちらへ向く。


「当ホテルの従業員にも幸い怪我人がおりませんでしたので通常営業をこのまま行いたいのですが、どうやら配電盤を意図的に下ろした人物がいるようなので集めさせていただきました」


 どうやら犯人探しのようだ。ていうか、意図的? なんだってそんなこと分かるんだ?

 他の奴らもそれについて疑問に思ったようで、誰かが「俺達を疑っているのか?」と声が上がった。


「念のため、でございます。皆様をお疑いなぞしたくありませんが、何卒ご協力お願いします」


 そう言って綺麗にお辞儀をする。その様はまるで執事。


 と、顔を上げたその人がチラリと俺の事を見たのに気付いた。

 その視線に対しこちらも視線を向けると、すぐさまその人は視線を外して全体へ向け「それではよろしくお願いします」と言って再び頭を下げた。


「……暇だな」

「そうだね。しりとりでもするかい?」

「希望坂さん。それよりも夕食どうします?」

「……」


 何故か知らないが(片方の事情は知っている)二人が交互に言い出した。

 というより、俺が暇と言い出しただけでこの反応はなんだろうかと疑問に思うのだが、こいつらも暇だからなんだろうとあたりをつけつつ周囲の視線が厳しくなっているのを感じてため息をつく。


 現状は二人が両脇から言い寄っているというもの。俺は立ったままなので二人も同じように立っており、わざとなのか定かではないが胸を押し当ててきている。


 普通の人なら万々歳なのだろうが、生憎俺にはそんな機微が存在しない。


 そんな俺なので反応することなく立っていると、「あの、希望坂さん? どうかしましたか?」と上目遣いで聞いてくる綿貫。


「いや、二人とも近いなと思ってな」

「ダメかい?」「ダメですか?」

「……別にどうでもいいけどよ」


 もはや投げやりに答えて放置する。どうでもいいというのは本心なのでそれ以上の関心はない。


 つぅうかみんな夕飯どうするつもりなんだろうか。階段壊れてるからエレベーターしかないが、そもそもの時間がずれこんで食べれる時間が終わるぞ。

 調書のために一人一人案内されている姿を見ながらそう考えていた俺は、もはや二人の会話などに聞く耳を持っていなかった。



 まったくなんというか。



「希望坂様。どうぞ」

「うっす」


 それから暫くして俺は呼ばれた。というより、最後に回された。来れにはもう、意図的な操作が確信できる。

 ちなみに夕飯だが、エレベーターが正常に稼働しているということで問題ないとのこと。まぁ俺は食っても食わなくてもいいがな。


 従業員の後を歩きながらなんか嫌な予感がするな……と不意に思ったことに対し不安になっていると、「こちらです」と部屋の前で足を止めたので俺も足を止めて部屋に体を向ける。


 それなりに豪華な扉。門に似ている造りである。というかなんでこんなのがここにあるんだ。というかそもそもここはどこだ。ただついてきただけだから記憶もしてないぞ。


 なんだかまた面倒なことになりそうだとため息をついてからドアをノック――しようとしたところで従業員が代わりにしてくれたのでそのまま知らないふりをする。


「希望坂様をお連れしました」

『入れて構いません』


 そんな声が聞こえたと同時に従業員が扉を開ける。

 見えたのは先ほど説明をしていた支配人らしき人物。彼は座っていたところから立ち上がり「お入りください希望坂勤さん」と俺の名前を呼んだので普通に入る。


「では早速停電時にどこへいらしたのかお聞きしても?」


 座る間もなく質問されたのでため息をついて「階段を降りていた。二階から一階へとな」と正直に答える。

 それに「俺一人だからな。証人はもちろんいないが……階段をぶっ壊した奴は見たぞ」と付け加えておく。


「階段を……壊した? 確かに全ての階段の一部が崩れていましたが、そのような事を起こした人物の報告などありませんでしたよ」


 本当に知らないといったような顔をする。

 てっきり防衛する人が派手にやった結果だと思っていたのだがそうでもないらしい。

 これは本格的にきな臭い話になって来たぞと思いながら「それともう一つ。俺の部屋に『誰かが死ぬ』という書置きがあった」と言っておく。


「それは本当ですか?」

「今もあるかどうかは知らないがな」

「……至急調べさせます」


 そういうとすぐさま机に備え付けられた電話で連絡した。

 一言二言喋ってから受話器を下ろした彼は、「それでは今一度お話をお聞かせ願いませんか?」と言われたので分かっている範囲で説明した。


 とはいってもこの場所に着いて、自分の部屋へ入ってからの説明ぐらいしかできない。


 そんな説明を聞いた支配人は目を瞑り考え込んでしまった。


 事情聴取だというはずなのになぜ向こうが黙ってしまったのだろうと考えながらため息をつくと、「……何やら厄介事が始まっているようですね」と深いため息をつきながら支配人が呟いた。


「でしょうね」

「ヒーロー協会専用の免許取得教習所の場ですのでまぁ厄介事には目を瞑れますが、ここまでやられますとさすがに……ですね」

「ん?」


 ……なんか気になる言葉が出てきたような。


「ヒーロー協会専用?」

「ご存じありませんでしたか。我々はヒーロー協会所属の人達で免許を取る人達用の教習所なんです。我々も能力を使えますよ」


 というか、そんな場所だったのかここは。全部貴臣さんが申請したから良く分からんかった。


「ともかくそういう関係なのである程度トラブルが発生するのは問題ないんですが……あなたの報告が本当でしたら色々な意味で非常事態です……この事を誰かにお話ししましたか?」

「いや」

「でしたらそのまま内密にお願いします。我々の方で調査を行いますので気になさらず」

「……分かった」


 そう頷くと「では聴取はこれで終わりとします。ご協力ありがとうございました」と言われたので頭を下げてから部屋を出て、戻りながら気付いたことを呟いた。


「――内通者がいるかもしれないのか」


 なんだかゆっくり過ごせない気がしてきたなここも。

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