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説明業務

「綿貫真里菜様に希望坂勤様ですね。お二人のお部屋はそれぞれこちらになります。まず荷物を置いてからそれぞれ指定された場所へ向かってください」


 建物に入るなりそう言って紙を渡してきたのでそれぞれ受け取る。その所作から見てホテルの従業員であることには違いないだろうが、だからこそ違和感を持つ。


 合宿という目的と、その場所の違いに。


 普通こんな高そうな場所でやらないだろと考えながら受け取った紙をその場で広げる。


「504号室か」

「私は706号室です。離れましたね」

「そんなの良いだろ別に」


 そう言って俺は荷物を持って案内板があるところまで近寄り、自分の部屋がどこにあるか確認する。


 この建物は地上十階地下三階建てのようで、今いる場所が一階。二階から十階までが部屋で、地下一階が食事場、二階がバーなどになっており、三階に風呂場になっているようだ。


 結構広いのにどうしてバーと食堂が分かれているのだろうかと思いながら露天風呂が一階にあることを見てから五階へ向かうことにした。


 まぁどうせ部屋にシャワーとかあるからそれ使えばいいや。


「お待ちになってください」


 普通にエレベーターに乗り込んだら綿貫が慌てて入ってきたのでさりげなく七階のボタンも押しておく。気遣い云々の話ではなく、たんにさっさと部屋に行きたいだけである。

 そのまま閉じるボタンを押してエレベーターが閉まり、上昇したのを確認した俺は、改めてもらった紙を確認する。


 そこに書かれていたのは自分の名前と部屋番号、そして集合場所である。これを配られたのを見ると俺以外にも取ろうとするやつらはいるようだ。

 今時高校生で免許取る奴も不思議じゃないからなと思いながらそこに書かれていた地下二階の意味を考えていたところ、「あの、希望坂さん。MIRAIの正体が私だと、どうして気付かれたのですか?」と質問してきたので紙を見ながら教えた。


「声。あの非常事態宣言に遭遇した時、俺だと分かった瞬間に声のトーンを一オクターブ位あげただろ。その時に俺と遭遇して話したことのある奴だと考えたからだ。変える前の声で判断したというのもある」

「なるほど……そうでしたか。納得いたしました」

「……」

「……」

「……」

「…あの」

「ん?」

「本当にこんなところで免許取得の合宿をやるのでしょうか? なにか違和感を感じるのですが」

「俺もだ。なんとなくだが変な感じがする」


 どうやら向こうも同じ考えのようだ。さすがにヒーローだからか拭い切れない違和感を感じ取れたか。

 しっかしこの違和感の正体はホテルの他にもありそうだな…と思った俺は、五階に着いたので「んじゃ」と先に降りることにした。


 自分に割り当てられた部屋を見つけてドアを開ける。鍵はフロントで渡された。


「しっかし外見通り豪華だな……」


 中まで入って感想をしみじみと呟く。それほどまでに輝かしいのだ。

 部屋はどうやらダブルのよう。ベッドが二つある。

 部屋自体もそれなりに広く、ソファとテーブルもある。

 トイレあるのにシャワールームなかったぞなんて言いたい愚痴をため息で吐き出してから、頭を掻きつつテレビが設置してある台の上に紙があるのに気付いた。


「んだこれ」


 持ってきた荷物を出さずに気になった俺はその紙を手に取り、書いてある文字を読み上げる。


「……『お食事は毎日夕方六時半と朝七時、昼は十二時になっております。なお、バーは八時以降から開いておりますのでご自由にお入りください。バーの代金はその場で払うことになります』ってか。ふーん」


 そこまで酒飲もうと考えないから使わないだろうなと自己完結した俺は、もう一枚あることに気付いた。


 入れ替えてからその紙を読んだ俺は、怪訝な表情をすることになった。


「一体なんだってんだ、おい。ただの合宿じゃないのかよ」


 そこに書かれていたのは、『この合宿中、人が死ぬ』というなんとも物騒なものだった。


 ――こりゃ貴臣さんに話聞かないとな。


 またもや面倒なことが起こるのかなんて思った俺は、それらを置いてあった場所に戻してから集合場所へ向かうことにした。


 もちろん、鍵をかけて。




 地下2階へと移動中。実際にはエレベーターに乗っているだけなのだが。

 人が死ぬという意味を考えながら一人壁にもたれていると、到着の音と同時に扉が開いたので随分早いなと思いながら降りる。

 時間はまだ1時。部屋に荷物を置いてからまだ幾ばくも時間は経っていない。


 他に誰もいないはずだよなとぼんやり考えながら詳しい集合場所が書かれていないのでエレベーター付近で立っていると、「やぁ希望坂君。いや、勤と呼んだ方が良いかい?」と声が聞こえたのでその方向へ視線を向けると、いつぞや世話になった円谷が片手を挙げてそこにいた。


「タクシードライバーじゃないのか」

「マニュアル持ちがいないということで呼ばれたのさ。君以外はいないので安心していいからね」

「安心の意味が分からんが……二週間よろしく」

「一回で免許取れるように教えてあげるよ」


 そう言って微笑むので、頼もしい限りだなと思い握手を交わした。



「実習の前に勉強だね、まずは。乗る前に最低限の知識位は覚えてもらいたいからね」


 場所は移動せず開店前のバーを貸し切ってそう言う円谷の服装は何故か男物のスーツ。確かに似合っていると言えば似合っているのだが、性別をきちんと理解した上なのかは疑問である。


 しかし俺にはどうでもいいので「ふ~ん」と相槌を打ちながら彼女から渡された運転教本をパラパラとめくる。

 ざっと読んでみたが、標識や基本的なことが延々と書かれているな。車の点検とかも書かれていたが。

 一通りめくり終えたので本を閉じ、「そういや俺、スケジュール知らないんだけど」と今更なことを言う。


「そうなのかい? ならそこから教えないとね。えっと……四日で仮免、残りで教習所卒業までやるみたいだよ」

「いくらなんでも詰め込みすぎだろ」

「これぐらい普通だと思うけどね……っと、さっそく始めるよ。座学から」

「うす」


 そこから四時までずっと勉強をし、六時まで運転の練習をした。


 はっきり言おう。MTの半クラ(クラッチを半分開ける。それによりシフトが移動できたり、アクセルを踏むことにより発車できる)の加減が難しい。少しでもずれたらすぐエンストとかシビアすぎだろマジで。


 ……けれどまぁ、出発できただけ良しとしようか。どうせすぐになれるという訳でもないし。


 あ、この旅館から歩いて三分ぐらいのところに教習所とかにあるコースがあってそこで練習できる。AT・MT関係なくな。

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