蹂躙業務
詳細を書いてない理由? ヒントなら今まで出てるからです。
いずれ説明するでしょうけど。
――ピシリ、と罅の入る音が聞こえた。
「なに?」
それを聞いた彩夏は音がした方――つまりリビングへ向かう。
基本的に彼女だけが暮らしているこの部屋だが、勤の家でもあるので彼の物は少しでもおいてある。
注意しながら音源を探してみると、最近行った旅行の際に撮った写真立てのガラスに罅が入っていた。
「え?」
思わずそれを手に取り彼女は確かめるが、罅が入っているのは変わりない。
途端に彼女はどちらかによからぬことが起こっているのじゃないかと不安になり、まずは姉である麗夏に電話を掛ける。
『もしもし彩夏? どうしたの』
「お姉ちゃん大丈夫!?」
『私? 別に大丈夫だけど……それより彩夏は?』
「私も大丈夫……って、なんでそんな事聞くの?」
『私が普段使っているコップに罅が入ってね。そういうそっちは?』
「写真立てに罅が入ってたのよ」
『となると残ったのはやっぱり……』
「そういえば勤さん広島に行くって!」
『知ってるわよ。連絡つかないけど』
「え……」
サラリと出されたその言葉に、彩夏は自分のスマホを落とした。
一方その頃現場では。
「ふははははっ!! 見事な死体のオブジェだ! これはぜひとも協会に送りたいぞ!!」
白衣の男の視界の先にロクな防御をしなかったことにより、片腕は損失、腹部は貫かれ、左目もなくなり、左半身が焼けた勤がただ沈黙して立っていた。
血は大量に彼の下に溜まっており、もう大量出血で死んでもおかしくない、いや、傍から見たら死んでいることは確定的だった。
――白衣の男が、あることに気が付かなければ。
「――おい」
彼は見てしまった。
「なんだよそれは」
流れ出ている血がもぞもぞと動いているのを。
そして、
動くのがおかしいはずの首を、
ゆっくりと回したことを。
「なんなんだお前は!?」
勤に対し男は叫ぶ。だが勤は答えず、先程の彼には想像できない低い声で「――殺す」と呟く。
ゾクリ、と男の背筋が凍る。冷や汗は流れだし、膝や指先などは震えだした。
「な、な、ななな、ななん、お、おお、ま」
「コロスコロスコロスコロスコロス殺す殺す! コロスコロスコロスコロスコロス殺すコロコロコロコロコロコロス!!」
そう叫びだすや否や彼から流れ出た血が呼応する。
溜まっていた血がまるで生き物のように各々伸びていき、好き勝手に暴れ始めた。
その光景を見た男はあまりの恐怖にへたり込み、放心状態に陥る。周りにいた洗脳された人達は、良い様に吹き飛ばされていく。
が、それも最初だけ。すぐさまその血の動きは止まり、今度は彼の元へと戻っていく。
ギリギリのところで助かった男がゆっくり立ち上がろうとすると、今度は少し彼にしてはハスキーな声が聞こえた。
「やれやれ。また暴走させるところだった。誰も望まない結末なんて、悲しいだけだしね」
「ひっ」
驚き息を飲む男。それに気が付いた声の主――勤は残っている右腕を上げて挨拶をした。
「やぁ。時間がないから手っ取り早く終わらせる。ああ安心して。君だけは拘束するだけにするから。他の人達には――」
そういうと勤は、
足元に戻ってきた血を右手の手のひらに集めて球体を造り、
倒れている奴らを見渡して。
「――この間の記憶を削っておくだけだから」
そういうと同時に血は宙へ放出され、雨となって降り注ぐ。
男にかかった血は拘束具となり身動きをとれなくさせ、洗脳された人達に降り注いだ血はすぐさま消えた。
そんな光景を笑いながら見ていた勤は、「――まだ、いるみたいだね」と呟きその体の状態でその場から煙のように消えた。
その間わずかに三十分の出来事だった。
次に彼が現れた場所は役所前。そこには先ほどと同等の人数が存在しており、まるで誰かを守るかのごとく配置されていた。
そのわずか数メートル前に来た勤はいつの間にか直っていることを気にも留めずにスマホで電話をしていた。
「研究員ぽいのを拘束しといて洗脳中の記憶を削っといたから。あとは残りを削るさ」
『……大丈夫のようだな。今のところは』
「まぁね。今境目である僕が出ているから。『俺』に戻れば完全に掌握したことになるよ」
『残りは二時間十五分だ。手早く頼む』
「まぁ僕達としても困るからね。必死さ。『彼』はどうか知らないけど」
『そうか』
その言葉を聞いた勤は電話を切り、スマホを鞄に入れてから上体を反らしてから息を吐き、鞄を持って「行きますか」と役所へ正面突破を仕掛けに向かった。
「血は生物に流れている活動の源」
ゆっくりと前へ進みながら勤は言葉を紡ぐ。その間にも洗脳されていた人たちは倒れていく。
十人単位ではなく、百人単位。百人単位ではなく千人単位。段々と慣れてきたのか数を増やした結果。
「故に血を媒介にすればすべては掌握できる……っと。調子が上がってきたところで終わったね。全体的に一時間はかかったけど」
スマホで経過時間を確認した頃には誰一人として立っていなかった。
――否。彼と、もう一人だけが立っていることができた。
スマホを仕舞い、勤は覚えているもう一人に声をかけた。
「ねぇ君だよね。洗脳の手伝いをしていたのは」
「あ……」
立っていたのは身長が百四十ぐらいの女性。最近では慎重で年齢が分からないことが多いので年齢は不明。ただ、彼女が怯えているのはつい先程目の前で前触れもなく倒れた人たちの後に現れた彼が不気味過ぎているからというだけ。
それに気付いているのだろうが勤は笑って告げた。
「もう君の能力は終わりだ。洗脳されていた奴らは全員その記憶事消し去ったし、主犯格は最初に捕まえた。そんでもって起きているのは俺とお前だけ。ちなみにだが、俺には洗脳の類は効かない」
「!」
雰囲気が変わったのを直感した彼女。それに対し勤は「悪いが、これだけの大事になったんだ。ただで済むと思うなよ」と進めていく。
「もう応援は呼んだ。いくら子供だろうがそれ相応の罰は与えられる。それだけは忘れるなよ」
「あ……」
彼が背中を向けて歩き始めたところ、少女が声をかけたので立ち止まって振り返る。
「なんだ?」
「効かないって……本当なの」
「ああ。色々あってな。洗脳も効かない」
「そうなの……」
なにやら思案顔の彼女。こいつは十を越えてないとやらないぞきっと。
女の歳訊くのタブーだから絶対にやりたくないからこれ以上話したくないんだがなと思いながら大人しく立ち去ろうとしたところ「もう少し待ってなの」と呼び止める。
「んだよ」
「殺してほしいの」
「やなこった。捕まりたくないからって楽な方に逃げるなんて」
「そうじゃないの」
「あ?」
そう聞き返すと窓ガラスが唐突に割れたのでそのまま突っ込んでその女の後ろに適当に殴る。
「あう!」
そんな声とともに姿を現したそいつはそのまま落下。落下音が聞こえなかったところからすると途中で勢いをそいでどうにかしたのだろう。
まぁともかく大丈夫だろうな。拘束した奴はどうか知らないが。
そう思いながらその女をそのまま縛り「行くぞオラ」と促した。
女は俺をちらっと見てから顔を伏せてそのまま歩きだした。
――まぁそんな感じで、この騒動は幕を下りた。
しかし殴った奴誰だったんだろうか。
これで一区切りついた感じですが、まだ続きますよ




