二日目業務
続いた結果です。
とりあえず空き家があったのでそこにお邪魔し、ガスも電気も通ってないのでさっさと寝ることにした。飯は買って来てないので食べることはない。どうせ食べなくとも死ぬことはないからな。
そんな感じで朝日で目が覚めた俺は伸びをしてからため息をついて荷物を持っていくことにした。
「……しっかし誰もいないな」
起きてみてのんびりと歩いてみたが、人っ子一人会うことはない。少しばかり離れたというのもあるが、それでも近くに人の気配すらしないというのはかなりおかしい。
一か所に集められでもしているのかなんて思いながら昨日人を見つけた場所まで向かおうとした矢先、昨日と同じような格好をした奴が道路を歩いていた。
どうすっかなーと思いながら立ち止まって見る。
ついていけばいいのかもしれないがただ徘徊してるだけのようにも見える。
それについていくということは下手をすると関係ない場所へ行く可能性を示唆する。
かなりのギャンブルなので自分の考えを却下し、再び屋根の上へ飛び本格的にどうするか考える。
「どこにいるか分からんからなぁ……」
屋根の上に座り込み、こちらを見ていないことをいいことにぼやく。
そもそも場所が特定されていない中来ているのだ。分からないのは当然。
こっから自力で探しだないといけないとは骨が折れるな全くとため息をつくが変わらないので素直に立ち上がる。
どうしたものかと考えたがいい考えなど当然でないので、行き当たりばったりだなと天を仰いでから人の多そうな通りへ向かうことにした。
が、いかんせん地理が分からないのでどこへ向かえばいいのか見当がつかない。
こりゃ人の後ついていった方が早かったなと後悔しつつ屋根の上で途方に暮れていると、スマホが鳴り出したのでその場に座って電話に出ることにした。
「はいもしもし」
『どうやらターゲットを見つけられて無いようだな』
「どうせなら補足してから連絡を寄越してほしかったぜ」
『ついさっきまで居場所が捕捉出来なかったのだ。理由は不明。おそらく相手側にこちらの捜索を欺く手段がある』
「……それで? 見つけられたのか?」
『まぁな。なぜか知らないが居場所を補足できた。その座標を送ろう』
「ありが……!!」
視線を感じた俺はスマホをつなげたまま立ち上がり、鞄を持って屋根から飛び降りる。
『どうした?』
「誰かに見られたかもしれん」
『かえって好都合だろ』
「それはそうかもしれんが……!」
誰もいないところに降りたはずなのに感じる視線。それを感じた俺は咄嗟に上を見上げる。
そこにいたのはバンダナを頭に巻いている男女のペア。
それの意味することが分かった俺は、何も言わずに電話を切りダッシュで道へ出る。
その時にはすでに、両脇を固められていた。
生気のない目、というよりはどこか濁った眼をしている異様な集団。
恐怖心すら抱かせるその光景に俺は冷静に行動を開始した。
「ふっ」
T字路を直進して塀にのぼり、そのまま屋根へと飛び移る。襲いかかってこなかったというのが大きい。
飛び移った屋根から後ろをちらりと見ると、挟んでいた集団がこちらを見ており、屋根の上にいた男女のペアは動き出す準備をしていた。
それを見た俺はサングラス越しに笑って挑発した。
「いいぜ、捕まえてみろよ」
その言葉が皮切りだったかどうか知らないが彼らが身をかがめたので俺はさっさと飛び移って逃走することにした。
なぜ逃走するかって? 捕まったらどんな目に遭うか分からないからだよ。
そんで軽く三時間追いかけっこをしている。
追手は段々と増えているが捕まる気配はない。なぜなら向こうが移動に手間取っているのもあるが、時折俺は身を隠して何とかやり過ごしているからだ。
土地勘のない俺がどうしてできているのかははなはだ疑問だが、何らかの命令を実行するに当たり視界に入るという条件が付いているのではないのかと推測して納得している。
現在は送られて来た座標に近づきながら追っ手を撒こうと移動している途中である。
何も食べていないが基本的に空腹ごときで何となるわけではないので問題がないと言えばない。
俺をどうにかしたいならこのぐらいじゃ無理だぞと思いながら屋根を飛び回っていると、急に両脇へ攻撃が加わった。
丁度俺を挟んでだったので避ける事はせずにそのまま突き進む。
いよいよ攻撃が飛んできたなと思いながらも突き進むと、人海戦術がいよいよ効いてきたのを実感した。
「……こりゃどうすっか」
立ち止まらざるを得ない状況に立ち止り、現状を見て呟く。
現状:最初に逃げ出す時と同じように塞がれている。ただし全方向。
俗にいう包囲されているのだが、俺は特に何も感じずここからどうして逃げ出そうか考えていた。
こういう状況に精神が揺れないというのもこの身体になってしまったからなのだが、それが別なことでも発揮されるので何とも不便か分からない。
まぁ良い事でもあるだろうと思いながら立っていると、囲んでいる集団の中から一人の男が出てきた。白衣を着ているところから察するにマッドサイエンティストだろうか。
どうしてそう言えるのかって? 雰囲気で分かるんだよそういう奴は。
その男はその集団の一歩前に出て来て立ち止まり、拡声器のようなものを使って声をかけてきた。
『この空間に侵入して来た勇者よ。だがその蛮勇が貴様の最後となる原因だ。おとなしく降参しろ』
降伏勧告のつもりか絶対的な自信ゆえの言葉か。ともかく自分が優位に立っているからこその行動なのだろうと考えつつ、俺はスマホを取り出して電話した。
相手はもちろん、本部長である。
『なんだね』
「囲まれてる。”あれ”を使うのでよろしく」
『……自分が何を言っているのか分かっているのか?』
「何とかするさ。『削る』だけなら“暴走”はしないだろ」
『……いいのかね。暴走したら今度こそ君は戻される』
「構わんよ。未練は特にないからな」
『……他の本部には事後承諾にしてもらうとする。三時間で終わらせろ』
「了解」
『今更助けを呼んだって無駄だ! 貴様はここで死ね!!』
その言葉を皮切りに色とりどりの球や槍などが飛んできたが、俺は防御せずに直撃した。
――さぁ特と味わえ、絶望を。




