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捕縛業務

と言っておいて実際まだそこまで行きません

 燃料とトイレ休憩のために立ち寄ったSAから出発し更に二時間ぐらいが経過。

 今は広島県内。廿日市市へ向かっているところだが、肝心のその地域が閉鎖空間になっているので近くまでしか行けないだろう。

 だが近くまで行ければ俺は問題ないので円谷さんにはそう言ってあるが、彼女が行く気満々だったためどうなることか分からない。


 むしろ普通に通れそうで怖いなと思いながらスマホに入れていた音楽をイヤホンで聞いていると、「ちょっと希望坂さん! 聞いてるのかい!?」と声が聞こえたので音楽を止めてイヤホンを外し「なんだよ」と訊ねる。


「音楽を聞いてたのかい」

「悪かったな。そんで? 一体何の用だ」

「用というともうそろそろ廿日市市付近に着くよ」

「もうそんな経ったのか」


 時計を見たら二時間半ぐらい経過していた……って、三十分で近くまで来たのか。すごいなまったく。


「そういえばどうして非常事態宣言なんて出たんだい?」

「いくら協会の回し者でも気軽に教えられるか。俺はこれでも守秘義務は守っているんだぞ……というか、そんなものテレビとかでやってるだろ」

「生憎車を改造しすぎてテレビやラジオを搭載してないんだ。無線や携帯電話はあるけど運転中にはあまり使えないし」


 なんだろうか……とても言い訳めいている気がする。

 一応最低限の情報を協会の方で公表しているはずで、先程のSAのテレビでも流れていたのを見ている。

 更に言えば信号で止まった時に無線を使えば状況を把握できるだろうに、それをやっていない。

 そこから察するにじかに聞こうという魂胆なのだろう。当事者で関係者である俺に。


 しかし俺にも立場上守秘義務というのが存在する。というより、俺の特性自体が守秘の項目に当たるので迂闊にしゃべる事なんてできないし、どんな悪影響を及ぼすか考えられないので結婚とか付き合うとかいう事は考えない。


 考えたところで己の立場が邪魔をするというのもあるが、そもそもそんなことを考える気は全くないのだ。死んだら死んだで途絶えるだけ。そこに何ら不満はない。どうせ俺の親族はいないのだから消えたところで血族がどうのという問題はない。あってもそこに意味などない。


 ……大分思考がそれた。思考を蹴るために息を吐いた俺は、「詳しいことは話せません」ときっぱり言っておいた。


「…そうかい。それなら仕方ない。終わるまで聞かないでおくよ」

「聞かれても答える気はないからな」

「君のその性格もポイントが高いよ」


 何の? と訊いたら面倒なことになるんだろうなと思ったのでスルーし、そろそろ着くんだろうなと道路標識を見て考えた。



「すまないね。ここからは関係者以外立ち入り禁止の様で僕には無理だ」

「逆にここまで連れて来てくれてありがたかったよ」

「そういってもらえると嬉しいよ。それじゃ、僕はしばらく近辺を観光しているから」


 終わったら連絡をしてね。語尾に☆がつくような口調とウィンクを合わせたその言葉を最後に彼女は俺を降ろし、走り出した。

 壁の前に置いて行かれた俺はサングラスを掛け、周囲を固めている警官に入れるよう事情を説明することにした。




「――さて」


 警官に話をしてすんなり通れた俺はゴーストタウンと見間違う街並みに警戒心を抱きながらスマホで連絡する。


 コールしたところ、すぐに相手が出た。


『なんだね』

「現場に到着したぜ」

『そうか。で、どうだね』

「入った限りでは人の姿が見えないな。どこかに集まっているんじゃないか?」

『なるほど……それはそれで厄介だ。逆にチャンスだ。その中心にターゲットがいる』

「了解。何とか探してみる」


 そういうと相手が勝手に切れたので、たいして気にせずスマホを仕舞い近くにあった電柱をよじ登ってから近くの屋根へ飛び移る。


「よっと」


 軽々と上って辺りを見渡す。しかしこの周囲に人影が映ることがない。

 人の屋根に上ったまま、俺はどこに集まっているのだろうかと考える。


 一番わかりやすいのは何かしら火の手が上がっていたり歓声が聞こえたりするのだが、そんなものが聞こえないというか少なくともこんな端っこで集まっていないのだろう。

 しっかしなんだってこんなところに来たんだか。動かずに考えても埒が明かないので屋根を跳び移りながら考える。


 基本的に出現するパターンとしては巨大化。次が計画した通りに物事が進んで手遅れになりかけるもの。他に考えられるとすれば他国から逃亡してきたデリャージャが暴走したとか、無自覚に振りまいた結果。

 一番最後の結果だけは面倒なんだよなと思いながら屋根を跳び続けること約二時間。

 息を整えて立ち止まっていると、見た目で洗脳されているのが分かる奴が道路を歩いていた。


 なぜならそいつの頭のバンダナにハートマークがあるから。だいぶ痛い奴だ。


 気配をなるべく消して降り立った俺はそのまま後を追うことにする。

 近づいてないのでどんな状況か分からないが、両手をだらしなく下げてフラフラと歩く姿はゾンビを連想させる。


 封鎖されるにはそれなりに条件がある。今更だがそれを説明しよう。


 非常事態宣言を発令された地域はまず住民に避難を促す。防御系の能力者が責任者だった場合は矢面に立って被害を抑えるために近くへ向かう。この時まだ封鎖されることはない。

 能力者ではない場合は住民と一緒に避難及び社員に偵察を指示する。

 そこで被害状況が他の地域に及ぶ、もしくは隔離しなければ未曾有の大災害に発展する場合に限りその責任者が封鎖宣言を発令。その旨を協会本部に一言添えてから発動させる。


 そうすると後で報告書やら始末書を細やかに書かなくてはいけないのだが、その宣言をしないため被害が広がった場合は責任者が即刻首になるし、無駄に発令させた場合支給金が減額されるので責任者の判断が重要になる。


 また、もう一つの条件としては単純に協会本部が判断した場合。こちらは何の宣言もなしに起こるので逃げ遅れる。


 この地域はどちらの条件だったのだろうかと思いながらついていくこと数分。


 嫌な予感がしたので電柱に足をかけて塀を登り、屋根へと飛び移る。

 そのまま見下ろすと、そいつが仲間なのか同じバンダナをつけてる奴らと集まって何やら話をしていた。


 段々近づいてるんだろうなと確信しながらゆっくりと反対側の屋根へ移動した俺はため息をつく。


 かれこれ五時になる。寝床を探さないと危ない時間帯だ。

 野宿でもいいが、こんな住宅街の中で野宿なんてどこぞの崩壊した世界の後の話ではないのだから目立つ。


 そうなると宿か空家にお邪魔するしかないな……まったく長期戦になる予想はしていたが、失敗した。

 そう考えながら、出来るだけ離れるように行動を開始した。

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