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移動業務

 法定速度をブッチし、昔やっていたと言われるゼロヨンでも出さないんじゃないかと思われる速度で高速道を走り四時間。


「ここらで休憩入れましょう。もうすぐSAですので」

「そうしてもらえるとありがたいです」


 通常広島まで行くのには八時間前後かかる。警察が干渉してこなかったところを見ると本部が交渉してくれたのだろう。そのおかげで四時間で広島近くまで来ることができた。

 目的地の廿日市市まで残り少しなんだが……このタクシーいい加減に性能が普通のタクシーじゃないことを聞いてみたい。


 というより運転手もまたおかしな精神構造だ。ここまでずっと鼻歌交じりで運転し続けるなんて離れ業をしている。

 今はSAに立ち寄るようなので速度を落としているが、ここまでは本当にすごかった。燃費とかどうなっているのかも気に成る。


 ということで、世間話程度に訊いてみた。


「すいません」

「なんです?」

「このタクシー、一体どうなっているんですか?」

「……まぁ別に知られても構いませんよ。あなたとは今度も付き合いがありそうなので」

「は?」


 本気で聞き返すと、その人は「ははっ。燃料も底を尽きかけていたので休憩がてらに話しますよ」と疲れを一切感じさせない声で言った。

 この人は俺とは違う意味で化け物だなと思いながら後部座席でただ座っていたので暇だった俺はメーターをちらりと見て値段が見たことないことになっていた思わず声を上げた。


「どうしました?」

「いや……タクシーで来るもんじゃなかったなと」

「ああ料金ですか。まぁ普通に十万近くになっていますからね。普段じゃありえませんよ」


 SAの駐車場に止まり、外に出てきた俺達はトイレへ向かいながら話をした。


「改めまして自己紹介をさせていただきますよ希望坂勤さん。私の名前は円谷美佐子。しがないタクシードライバーです」


 そう言って帽子を外す。見えたのは整った顔立ち。ボーイッシュである。だがしかし、名前から察して女性である。

 どうして俺の名前を知っているんだろうかと思いながら「女性の方ですか」と問いかけると「ええもちろん。れっきとした女性ですよ。なんなら、胸でも触ります?」と言ってきたので無視する。


 その反応に肩透かしを食らったのか彼女は「つれませんね」と言ってから説明してくれた。


「なぜあなたの名前を知っているかというと、協会の回し者です。事前に外見などの情報をいただきましたので一目でわかりました」

「ふーん」

「続いてこれからもお付き合いするという話ですが、こちらは私情も挟まれてます。ここまで顔色一つ変えなかったのはあなたが初めてですので」

「まぁ結構飛ばしてましたからね……」


 スピード感に対する恐怖というものは実のところあまりない。何故かと言われると俺が死ぬことができないからというのもあるが、戦闘機に乗せられて海外の本部に護送された時のGのかかり方が半端ないせいでまったくなくなってしまったのだ。


 なので警察のご厄介になるかどうかに対してのみ心配していたのだが、やはり協会の手が警察に回っていたとみて良いのか。


「まぁ行き先は知ってるし私は邪魔にならない範囲で観光しているから終わったら連絡で。これ、連絡先ね、私用の」

「公用を渡せよ」

「いやー私気に入った人しか渡さないから私用しか持ち合わせないの」

「ああそう……ならあとでもらうから」


 そう言って俺はトイレに入った。



 トイレから出た俺はそのままSAの店内に入り適当な食券を買って席に座る。

 呼ばれるまで水を飲んで待っていると、「何食べるんだい?」と声をかけられたので顔を上げる。


「どうしたんだ」

「どうしたんだ、って。私も昼食を食べるんだよ」

「ま、そりゃそうだよな」


 当たり前のことを質問してみたが、何の面白味もなかった。これで会話が終了。

 まぁ良いかなと思いながらグラスの中の氷を回していると、ポケットのスマホが振動したので取り出して確認する。


「どうしたんだい?」


 彼女の声を無視し俺は電話に出る。


「もしもし」

『ちょっと勤さん!? なんで広島なんて行くの!? あそこ今非常事態宣言出てるのよ!』

「仕方ねぇんだよ。メールでも送った通りだ」

『だからって……!』

「つってももうすぐ近くにいるから戻るのは無理だな」

『えっ!?』


 ここから長くなりそうだと思った俺はそのまま電話を切る。

 その時丁度俺の番号が呼ばれたので席を立って取りに行く。

 戻ってきた食べようとしたところ、「心配されてる様だね」と笑顔で言われたが無視。


「いただきます」

「私が食べ終わらないといけないってこと理解してる?」

「ああ。食べ終えてから散歩して待ってる」

「ふ~ん……」


 さらっというと納得したようで、彼女もいつの間にか持ってきていた料理を食べていた。

 急がないといけないんだが、腹が減っては戦はできぬ。別に俺は大丈夫だが、彼女はそうはいかないだろう。送ってもらう立場としては考慮するぐらいの分別はある。


 と、黙って食べていたところ、「それじゃぁ少し私も散歩に付き合おう」と言い出したので「少しは寝てろ」と言っておく。


「私に気を遣ってくれるのか。嬉しいね」

「事故られても困るだけだ」

「安心しなよ。私は事故を起こさずに目的地へ向かうから」

「信用できん」

「確かに……まぁ君とは帰りも一緒なんだ。頑張って解決してください」


 ……なんつぅか、またとっつきにくい人だな。


 全体的な評価を今下した俺は、彼女の言うとおり今回から付き合いが長くなるなら面倒事が増えていく一方じゃないかとため息をついた。



 結局二人で散歩し、さて行くかとタクシーに乗り込む俺達。

 そんで燃料を入れ(俺が金を払った)再び出発。


「廿日市まででいいのかな?」

「止められたところまででいい。終わったら戻ってもいいし」

「なら観光でもしようかな。君が終わったらさっき渡した番号に電話してくれればいい」

「気が向いたらな」


 段々速度が上がっていく中も余裕の表れなのか喋る俺達。

 ちなみにだが彩夏が連絡をしなかった理由はテスト勉強だからだそうだ。まだあるからしばらくは連絡しないと言っていたが、俺にとってはどうでもいいので流した。


 んで、改めて俺は今回の件について思い出すようにつぶやいた。


「精神操作、か……」

「何がだい?」

「今回出張ることになった原因だ」

「そういえば君はヒーローではないんだよね? どうして現場に行くんだい?」

「秘密だ。あんたの事も良く聞いてないからな、俺は」

「仲良くなったものの特権だよ素性を明かすのは」

「だったら詮索するなよ。俺はまだ仲良くなったつもりはないからな」


 そういうと墓穴を掘ったことに気付いたらしい彼女。

 なにやら言い訳めいたことをいいだしたが聞くことはなく、脳内でここに来る前に送られた情報を思い出す。


 廿日市に住むほとんどの人間(ヒーロー問わず)が洗脳されてしまったため現在封鎖地域となっている。その解決と共に主犯の捕縛を命ずる。


 顔写真ぐらいしか送られてこなかったからそれ以外は自分で調べて来いという事だろうなとため息をつきたくなる。

 一応捕縛用の縄などは荷物として持ってきているので大丈夫だが、所属のヒーローたちからパッシングを受けないか不安である。俺以外にいないのか精神操作無効出来る人間は。


 平穏に暮らしたんだ俺はと今更なことを思い出し、今度こそため息をついた。



 タクシーはお構いなしに目的地へ近づいていくがな。


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