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非常事態業務

もうすぐ六十ポイントになります。嬉しいです。

 弁償がなくてホッとしてから数日。

 元の調子に戻ったらしい綿貫真里菜の礼を電話で受けながらいつもと変わらぬ仕事をしていると、机に備え付けられている電話からアラームが鳴り始めた。


 それを聞いた俺はすぐさま引き出しから赤いボタンを取り出し、叩きつける。

 瞬時に建物内に鳴り響く警報。それと同時に俺の机にマイクが出てきたのでそれを持って叫んだ。


「非常事態宣言だ! 全員仕事はいったん中断し、各々の行動に移れ!!」


 それだけ言ってから俺はマイクを置き、面倒だと思いながらもサングラスを引き出しから取り出して装着して部屋を出た。


 非常事態宣言。これは、この地域内に巨大な敵が出現した場合に多く発令される。言っておくと被害が甚大な時に発令されるもので、顕著な場合がこれである。


 ちなみにどこからかというと、協会本部から。そういう部署があり、アラームで伝達する。

 アラームを受けて俺は宣言し、社員はみな貴臣さんに決められた場所へテレポートして避難の手伝いをする。

 残った俺は何をするかというと、サングラスに転送されるその敵の場所と敵の格好を記憶しながらその場所へ向かう。


 他の支社でどうなのかはわからないが、ここでは俺がその場所に赴いてその周辺に壁を出現させて被害を少なくする為である。

 そのお蔭で何とかこれまで被害が少なく出来たと思う。うぬぼれる訳ではないが。


 走って現場に向かう。道路を走ると呼び止められかねないので、屋根の上を頑張って。

 フリーランニングを無理にでもやらないといけなくて助かったと安堵しながら走っていると、近くに爆撃音が聞こえたのでその方へ進行方向を変える。


 しっかしフリーランニングやってて良かったな。屋根に飛び移りながらそんなことを思っていると、巨大な植物が見えてきたので能力発動を確認してみるが、しない。


 これまでから鑑みるとどうやら俺の命にかかわる事態ではない限り発動しないようだな…。


 なんとも面倒な条件になったんだと思いながら更に近づくと、植物の大きさが理解できる。

 全長約十メートル。樹木ではなく花であり、茎が何本も集まって強度を高め、根っこで地上を、花弁が触手の様に動いて空中を攻撃してる。

 次々にどうやら家が壊れていくのが移動中に分かった俺は、近くに生えていた根っこを思いっきり殴る。


 とんでもなく固かったせいで殴った方の拳から血が出てきた。痛みの方はあるが段々と引き始めている。


 するとその根っこが枝分かれして俺を突き刺そうとする。


「ウオッ!」


 咄嗟に跳び上がって能力を自分の周りに発動。俺が箱の中に閉じ込められた形であるが、根っこの攻撃から身を守れたので問題はない。

 ため息をつきたかったがまだ早いと思った俺は、そのまま目をつぶって意識を集中させる。


 範囲は半径二キロ圏内に。自分の能力で守れる最大範囲に自分がイメージした壁を一斉に発生させる。

 イメージは建物をすっぽりと入れる箱。規模によってまちまちなのだが、そこはずっとここで働いていたおかげで明確にイメージできる。


 ここからが本当の意味での戦いだ。そう自分に言い聞かせ、全方向からの根っこの攻撃と爆発音などの恐怖に耐え忍ぶことにした。





 どのくらいこうしているだろうか。密封空間でこうしているため酸素が薄くなり視界がぼやけてきているのが分かる。

 しかし、それでも集中力は変わらない。どれだけ自分を追いやっても死ぬことがないというより、やらないと俺達の仕事が増える。

 そのため俺はこうして体を張っているのだが、未だに攻撃を続いてるのが分かると倒せていないのかと落胆する。


 前回通り魔の事件でヒーローが出てこなかった理由みたいなのだろうかと思うが、それはないかと思い直す。


 現にツタのような根っこが周りに巻きつく中で盛大な轟音の数々が響き渡っているのだから。


「……っと」


 頭がクラクラしだした。本格的に酸欠状態になり始める前兆が来てしまった。

 このままだったらあと十分でぶっ倒れるなマジでとぼんやりした頭で考えていると、急に俺の周りを囲っていた根っこが跡形もなく吹き飛んだ。

 必死に維持しながら呆然としていると、カツンと響く足音が。


「大丈夫です……か?」


 何故か最後の方裏声で聞かれたが、「辛い」と一言言うとその彼女――ヘルメットをかぶり、黒のドレスを着ているというミスマッチな服装――は俺から視線を外して近くの根っこを浮かび上がらせて潰した。


「――終わらせます」


 一言。その中に含まれている怒気を感じ取った俺は安全になったことを確認して自分のところを解除する。


「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」


 建物に関しては未だかけた状態で地面に伏せながら息を整える。

 危なかった……あと少し遅かったら俺がぶっ倒れていた。あの人に感謝だな。


 と思ったが不意に聞いたことがある声だと思って記憶を探っていたところ、誰か思い出したと同時に植物は悲鳴を上げて爆散した。


 そんな悲鳴を聞きながらよろよろと立ち上がった俺は、次第に戻っていく体調と共に能力を解除してから電話を掛ける。


 相手はすぐに出た。


『どうやら、終わったみたいですね、社長』

「ああ。防御系のヒーローが住民のそばにいるんだ。さっさと被害状況を確認して報告書作ってくれ」

『了解しました。ところで社長は?』

「一足先に戻って少し寝る。さすがに疲れた」

『分かりました。では終わりましたら持っていきます』

「ああ」


 電話を切り、段々と引きながらもまだ残っている頭痛にため息をつきつつ、大きく伸びをしてからさっさと会社に戻ることにした。


 無論、道路を歩いて。





「社長。起きてください社長」

「…………あ? 貴臣さんか」


 のんびり歩いて仕事部屋に戻ってきた俺は椅子に座り目を瞑ったところ、どうやら爆睡していたらしい。貴臣さんの乱暴な起こし方で目が覚めた俺は時計を見てそう思う。


 終わったのが一時ぐらいで寝たのが二時ぐらい。で、起されて六時だから……ざっと四時間も寝ていたのか。記憶がないから結構深く寝ていたな。

 欠伸と伸びをした俺は冷静に分析してから書類の束を見て「すまんね」と謝ってから作業に取り掛かる。


 そのまま作業をしていると、貴臣さんは「いやー社長の能力があったおかげで被害が少なくてよかったですよ。というより、良くあんな長続きしましたね? 爆睡してたのでどれほど疲れていたのかは想像つきますが……」と言う。


「本当の無理をしたからな」

「……麗夏さんに怒られるんじゃないですか?」

「だろうな。けどまぁ、仕方ないだろ」

「まぁそうっすね……」


 俺は書類を見ながら、貴臣さんは天井を見上げながら。互いにしみじみとした口調で終わったことをかみしめる。


 と、ここで俺は休憩を兼ねて貴臣さんに質問した。


「なんであの植物が出現したんだ?」

「それですか。まぁまだ公式な情報が出回ってないようなので正確ではないのですが、あの植物改造されて放置されたらしいです。誰が放置したのか分かっていないというおまけつきで」

「まじか。これからそんな事件増えるとしたら面倒だぞ」

「ですよね。誰が置いたか分からない、どんな植物でもなれたらそれこそ恐怖の塊ですね」

「だよな」


 こんなことが毎日起こったら俺の身体が持つかどうかわからんしな……。

 そんなことを考えながら作業を再開していると、「毎日なんて起きてほしくないですよねまったく」と同じことを考えていたことを口にされたので書類で顔を隠して笑みを浮かべながら「まったくだ」と同意した。


 書類転送の際麗夏さんにやっぱり怒られたのは言うまでもない。あと電話で彩夏にも。


 ……お人よしが多いな全く。

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