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研修目前業務

なんか人数があってませんでしたので修正しました。3/26

 それは突然の話だった。


「そういえば社長」

「なんだ?」

「うちに新しく来るそうです。他の支社からの変わり者が」

「……なんだ、うちは厄介払いの場か?」


 ゴールデンウィークになると毎度の如く被害が多いので徹夜してでもその日に書類をまとめて転送する作業を四日ほどやっていた時の事。

 思わず作業の手を止めてため息をつきながら一番若いのは確かにうちなんだが…と考えていると、「というより、首都東京の本部では研修できず、その近くにあるうちが研修場になってるんですがね」と返ってきた。


「何時までだっけか」

「例年通りならば今月中旬から来月上旬までですね……まぁそこは変わらないでしょう」

「で、人数は?」

「十人程度ですね……まぁ関東限定ですのでこのぐらいでしょう」

「どうせ今年もここに人はいらないしな」

「まぁ、ぶっちゃけて言えば退職する年齢に近い人がいる訳でもありませんしね」


 俺達が話す研修とは、新入社員勉強会という、ごく普通の会社が行うものである。

 ただし、各支社から「問題あり」と判断された連中のみ回ってくる……ここに。

 ふざけた話だが俺が新入社員をとる方針がないため周りの連中から『どうせ募集をしないなら問題児を送りつけとくか』という圧力で決まった。

 で、送られてくる奴ら全員を面倒見ないといかず、また問題児なので全員を矯正して送り返すと成績が一番上に立つというサイクルが出来てしまったらしい(貴臣さんが秘書のつながりでそんなことを聞いたらしい)。


 正直周りの奴らが悔しがっているのが目に浮かぶがそんなのどうだっていい。所詮歯車の一つ。自分の損得勘定で会社のトップに立てるほど、この業界は甘くない。

 私利私欲に走った結果上司に怒られるのはお前らなんだぞと思うが口にする気に成れないので放置しているが、ここ二年で十人ほど関東地方の社長が変わったのを耳に挟むとため息をつきたくなる。

 そういえばここだけだな近年社長が変わらないってのもなんて思いながら仕事を続けていると、「今年も社長は会わない気ですか?」と質問してきた。


「うちに欲しい人材がいる訳じゃないからな。それに、書類の確認が忙しいし、貴臣さんが指導する間は俺が自分で書類を取りに行くし」

「まぁ例年通りですよね……いつも通りにしますか」

「……」


 貴臣さんに指導の一切を任せているのだが、来た時酷い奴が終わる頃には一社会人になっていたのを目撃し何も言えなくなる。どうやっているのか聞きたくなるが、聞いたら戻れなくなりそうなので聞けずじまいである。


「ほれ。書類の確認終わった。あと、建設報告もな」

「その建物は実際に行かせて事細かに調べてもらってます。ちゃんと管理してる人に許可をとってますので」

「それぐらいは当たり前だろ……」


 許可もなく家に入ったら警察のご厄介になるのは周知の事実。そうなったら俺は助ける気なし。

 ここにいる奴らはそういう部分を知っているからか、逐一報告してくる。

 ……前回調べてる時に泥棒と遭遇して壊さずに捕まえたら表彰状貰った奴いたなそういえば。

 あいつ行くと半々で何か起こってる気がするな……と思いながら研修内容について考えてる貴臣さんに気を遣って自分で書類を戻すことにした。



「直しが必要な書類持ってきたぞー」

『社、社長!?』


 二階に降りて仕事部屋を開けて言うと、俺の姿を見た連中が全員驚く。


 二階は仕事部屋と以前説明したが、この階は少し特殊である。


 俺が書類を持ってきた部屋にいる奴らは『被害計算係』。建物の損害と補修にかかる費用をまとめる奴ら。ここが一番人数が多く、三十人ぐらいいる。が、いつも三十人いる訳でなく、有給をとる人間が日によって五人ぐらいいるので、夜間を除くと常時二十人ぐらいいる。

 それとは違う部屋は『建設視察係』。新たに建設された建物の図面やら置物の配置やらを管理、実際に行って描画してくる奴ら。十人はここで、ここは大体半分の人間がいる。

 では残りの八人は何をしているのか。それは、一階で受付及び市民もしくは管理人の相談を受ける仕事である。清掃もいるが、暇なときは相談を受けてもらっている。


 色々あるのだ本当に。必要な保険やら補修する際に必要な事やらを聞きに来る奴らは。

 文句をいう奴はここで聞いたことはない。他ではあるらしいのだが、俺がここで働きだしてから聞いた覚えはない。言わないだけかもしれないが。

 常日頃完璧ではないにしろそれに近い仕事をさせているからだろうかと思ってみたくもなるが、うぬぼれるとロクな事にならないのでこの際そんな思考はしない。


 一人一人に書類を渡していると、「そういやもうすぐ研修が始まるんですね…」とため息をつく声が聞こえた。


「マジかったりぃな」

「飲みに行こうぜ早く終ったら」

「いやーカミさんいるから早目に帰るわ。……終わればだけど」


 だよなぁとため息をつくところまで聞いてると、それを皮切りに始まる研修に来る奴らに対する不満。

 それを黙って聞きながらやっぱりこいつらも嫌なんだと考えつつ渡し終えた俺が咳払いをすると、途端に黙った。


「……別に言っていいぞ? 俺だって心底嫌だからな」

「マジっすか。社長がそんなこと言っていいんすか」

「周囲の奴らが知らず知らずの内に貸しを作ってくれてると思って何も言わないだけだ」

「あっ、なるほど」

「あとその辺も加味されてボーナス時は増えてるらしいからな」

「よっしゃぁ! 研修来たらいっちょ真面目に指導の手伝いするぞ!!」

『おお!!』


 一転して盛り上がってくれたようなので、「まぁ頑張れよ」と言って戻ることにした。




『そろそろ研修ね、勤君』

「ボーナス事情とか少し漏らしたらやる気に成ってもらいましたよ……貴臣さんは相変わらず笑顔で鬼のような指導を考えてます」

『それならいいけど』


 いいのか……なんて考えてから、まぁ矯正だからなとしみじみ思いなおす。


『ところで勤君。今度はいつ休みを取るのかしら?』

「俺は暫くとりませんよ。この時期忙しくて」

『別に今月中の話じゃないわ。来月でもいいし』

「……そういえば俺、自分の休暇決めたことないんすよ」


 すごい今更な事を思い出していうと、麗夏さんが『それは別に大丈夫よ』と言ってきた。


「そうなんすか?」

『ええ。だって貴臣さんが大丈夫な日にちにするから』


 ……本当すごいな、貴臣さん。俺なんかより。

 裏事情を聴いた俺は貴臣さんに尊敬の念を抱いていると、麗夏さんは書類を眺めながら『まぁ考えてくれればいいわ』と言ってから映像が切れたので、なんだかなぁと思いながら俺は欠伸をして部屋を出て宿泊室へ戻ることにした。



 その日夢を見た。


 最近見ることのなかった、あの頃の夢を。


「!!」


 その一端を見た瞬間俺は瞬時に目を覚まして体を起こす。背中から汗がじんわりと流れ、眠気は吹き飛び、呼吸は苦しくなる。


 一体どうしてみたのか。そんなこと夢について詳しいわけじゃないので分かるわけがない。


 ただ、完徹することが決定した瞬間だった。

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