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1日1日  作者: eee
1/1

spring

切ない…。物語になる予定です。


瞬間、瞬間。

一瞬、一瞬。

1時間、1時間。

半日、半日。

1日、1日。


少しずつ、少しずつ。

あなたの事を忘れていく。





-------------------------


誰かに肩を揺さぶられて、フッと我に返った。

目の前に座る友人が、わたしの肩に手を置き、怪訝な顔でこちらを見ていた。


『遠い世界にいってたけど、どちらへ?』

嫌味っぽく言われ、ははっと愛想笑いしか返せなかった。


『ハルさ、何かあったの?何回呼んでも上の空だったよ。

なんか…最近多いよ、一緒に居ても心ここに在らずって感じの時。』

友人のシイナが、少し呆れながら言った。


『ごめん、ごめん。』

シイナの機嫌を取る様に、彼女の方に身体の向きを直し、胸の前で掌を合わせて謝る。

『向かいのお店のショーウィンドウのディスプレイがすごく素敵でね。

見惚れてたら、心が飛んでっちゃったみたい。』

笑いながら答え、本当に素敵なんだよ。と、向かいの店のショーウィンドウを指差した。

本当だね。と、シイナも向かいの店の方を見て納得してくれた様だ。

あとで見に行ってみようか。と、シイナが笑った。

言い訳を信じてくれた友人の言葉に、わたしは安堵する。


本当はショーウィンドウに見惚れてなんていなかったから。


近くに見えるショーウィンドウよりも、もっと遠い記憶になろうとしている、大切な人の事を思い出していた。



3年前の春、わたしは彼に出逢った。


年度末と年度初めで仕事が立て込み、休日も無く働いていた。やっと仕事が落ち着き、上司から急遽、平日の休みを取る様にと言われた。

せっかくの休日。何処かに出掛けたくても捕まる友人も居らず、数少ない友人に連絡をしては振られ続けた。


結局、誰も友人は捕まらず、1人で家にこもっているだけでは勿体無いと、特に計画もたてずに外へと出掛けた。

春の日差しが心地良く、外を歩いているだけなのに、ワクワクしてきている自分がいた。


平日の昼間だからか、街を歩く人の数は少なく、いつもよりも静かだった。

忙しく速足のサラリーマンを見かけ、ゆっくりマイペースに歩く事の出来る自分の時間を嬉しく思った。


春の鮮やかな色味の服がショーウィンドウに並び、春の街をより一層華やかに彩っている。春色の洋服は、女心をくすぐる。見ているだけで、無条件に洋服が欲しくなってしまう。

ショーウィンドウの硝子に映る自分の姿を見て、頭を傾げる。黒いカーディガンに、グレーのロンT。ボトムのスキニージーンズは濃い目のインディゴ。春を感じさせる色味の無い自分の格好が情けない。

はぁ…。溜息と一緒に軽くうつむく。すると、硝子の向こう側に桜色のパンプスが見えた。もう目が離せなかった。一目惚れをしてしまったのだ。

気付いた時には、お店のドアを開けていた。


桜色のパンプスは、わたしの足にピッタリとフィットした。見た目も履き心地も申し分ない。足元の薄いピンク色が、さっきまで春が無かった自分の格好を、春色に変えた気がした。可愛いパンプスの値段は決して可愛い物では無かったが、迷わずに購入を決めた。

そのまま履いて行きます。と、店員の女性に頼み、自分が履いていた靴をお店の袋にしまってもらった。


春色の靴を履いただけなのに、不思議と足取りを軽くした。

コツコツとアスファルトを踏む足音が、妙に心地良い。

素敵な靴を手に入れただけで、こんなにも楽しくなるなんて、自分の単純さが笑えた。

軽やかな足音は、気持ちも軽やかにする。今まで出来なかったことをやってみようと思えた。

歩みを止めると、映画館が見えた。これまでの人生で、映画を1人で観たことなどないのに、今日は出来そうな気になってしまう。映画館の方へ歩みを進める。


ロングヒットしている話題の映画を、ずっと観たいと思っていた。しかし、仕事が続き、タイミングを逃してしまったら、大ヒットの時期は過ぎてしまっていたことに気付き、もしかしたら上映終了になってしまうんじゃないかと内心ハラハラしていた。とても話題になった映画の為、周りの友人は既に誰かと観に行ってしまっていて、一緒に映画を観に行ってくれる人はいなかった。

『おひとり様で映画も悪くないかもね。』

この機会を逃したら、もう観に来れないかもしれない。おひとり様映画デビューを決めた。


上映5分前。平日だからなのか、シアター内は空いて居た。わたし以外の観客は、1番後ろの列の中央の席に男の人が1人だけ。

そこに座るのね…。心の中でため息をつく。昔から映画を観る時は、1番後ろの列の席と決めている。しかし、2人しか観客が居ないのに、後ろの席に並んで観るのはどうなのだろう。頭の中で並んで座る図を思い浮かべてみる。

『違和感あるなぁ…。』

けれど、1番後ろの席は譲れない。意を決し、男の人の右隣3席空けて、1番後ろの列に座った。男の人は少し驚いた様に、こちらをちらりと見たが、すぐに正面向いて座り直した。わたしが席に着いて間も無く、シアターは暗くなり映画の上映が始まった。





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