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子分

少し投稿が遅れてしまいました、ごめんなさい。

「……あれ?」


 エルフリーゼが目を覚まして、一番に見えたのは見覚えのある天井だった。

 当然、それは彼女の家、彼女の部屋。


「何で…………?」


 これがいつもの朝だったなら、彼女も特に疑問を覚えなかっただろう。

 木窓を開けてみれば、燦々と輝く朝日。

 しかし、それはおかしい。

 自分の右腕に目を落としてみても、そこには傷一つ無い。

 だけど、確かに私は右腕を怪我したのに。街道で倒れたのに。


「……リーゼ、入ってもいいか?」


 エルフリーゼの起き出す音が聞こえたのか、ヤンヴォルフがノックとともに声をかけてくる。エルフリーゼは、自分の姿を見下ろし特に問題ないと判断し父を部屋に入れた。


「……うむ。無事なようで何より」


 ヤンヴォルフは彼女を一通り確認し、頷きながら安堵の声を漏らす。


父様(ちちさま)…………?」

「……何だ?」

「私は、なんで家にいるんですか……?」


 エルフリーゼにも、なんとなくは分かってはいたのだがはっきりと答えが欲しかったので父に疑問を投げかける。


「私とアントン……と、ヘイゲンスが助けたからだ」

「……ヘイゲンス?」


 アントンは確か従士の一人で、治癒系の魔法が得意であったと思い出すことができた。しかし、エルフリーゼはヘイゲンスという者についてすぐには出てこなかった。

 思い出そうとしている娘の頭を掴み、自分に向けたヤンヴォルフは声のトーンを落として話しかける。


()()()()()()

「は、はい……」


 父の増した威圧感に後退りしようとしたが、頭を掴んだ手がそれを許されなかった。


「お前は、まず言うことがあるのではないか?」


 基本娘に甘いヤンヴォルフが今までに見せたこと無いほど真剣な表情をしながら、エルフリーゼに語りかける。


「……ごめんなさい」

「何がだ?」


 自分が怒られている。それを理解したエルフリーゼは謝罪を口にする。しかし、ヤンヴォルフが即切り替えしてきた。

 彼女が、怒られたから謝っただけだと見抜いたからだった。


 今まで怒られることこそないわけではなかったが、謝ればすぐ許されてきた。

 でも今、何に対して謝ったのかを問われて、彼女は混乱した。

 怒られたから、謝るのではないだろうか。


「怪我したのは、お前の自己責任だ謝る必要はない」

「…………」

「助けるのに私とアントンに手間をかけさせたのは、住民を守ることも我々の義務だから特に必要ない」


 ここまで言って分からないか、と視線で問われる。

 この問いに答えられなかったら、見捨てられるかもしれない。そう彼女に思わせるほど、父は厳しい表情を浮かべていた。


「……い、言いつけを破って村から出てごめんなさい」


 絞り出すように謝罪の言葉を述べるが、父の表情は晴れない。


「それだけか?」


 答えが間違っていた。

 何を謝ったらいい、何を私は間違えたの、何がダメだったの、何が、何を、何で……。

 目尻に涙を浮かべ始めた娘を見て、ついついヤンヴォルフは表情を緩めそうになるがそれでは彼女のためにならないと威厳のある声を意識して語りかける。


「お前は、村の子供を連れて外に出たな。彼らは私たちが、庇護する者たちだ。騎士とは、貴族とはなんだ?」

「……”護る者”です」


 エルフリーゼの答えは、祖父から父からいつも言われていることだ。

 最下級の貴族である騎士だが、むしろ、だからこそ最大限の力で持って、民を護らなければいけない。

 護るからこそ、彼らの上に立つことができるのだと。


「では、分かるな」

「はい……」


 エルフリーゼは何で怒られていたのかを、やっと理解するに至る。


「お前は、守護するべき村人を危険な目に合わせた。”護る”とは危難から助けることだけではない。危難に合わせないことが、一番重要だ」

「……はい…………」

「確かに魔物という危難から、お前は彼らを助けたのかもしれない。しかし、村から彼らを連れ出さなければそんな目にあわなかったのではないか?」

「……そのとおりです……」

「しかも、お前は自分に力があると驕っていたな。一旦は護れたのかもしれん。しかし、そこで手傷を負い、彼らが助けを呼びに村まで街道を駆けてきた。たまたま運が良かったが、村まで戻る間にまた魔物に襲われたかもしれない。その時に倒れてしまったお前には護ることはもうできなかった」

「……うぅ……ぐすっ」

「護るなら護り切れるほどの力を手に入れろ。自分すら護れないなら、騎士など目指すな」

「……う゛ぁい……」

「今言われたことを忘れないなら、それでもなお騎士を目指したいならしっかりと稽古をつけてやる」

「…………え゛……?」


 今まで涙を流しながら自分を省みていたエルフリーゼは、父の声が突然優しくなったことに驚き顔を上げる。

 そこには、いつもより穏やかな顔をした父がいた。頭を掴んでいた手も、今は乗せているだけだ。


「お前は、騎士を目指したいか?」

「はい……、はい!」


 しゃがみこみ娘と視点の高さを合わせたヤンヴォルフの問いに、エルフリーゼは返事をし、涙をぬぐい再度、一回目よりもはっきりと諾と返答をする。


「そうか。よし!よく生きて帰った!今回のことは、決して忘れるなよ」


 娘を抱きよせ、頭をぽんぽんと叩きながら、眦を下げたヤンヴォルフが染み込むように娘の耳元に声をかける。

 自分が何をしてしまったか、父に心配をかけた、もしかしたら生きていなかったのかもしれない、そういった諸々を再度実感したエルフリーゼは大きな声を出して泣いた。



 ヘイゲンスが目を覚ましたのは、事件の日から三日後、エルフリーゼが目を覚ましてから二日後だった。大人でも、魔力の枯渇で倒れることは珍しくない。それに加えて、連続での枯渇となると経験している人間などほとんどいないため、両親はもう目を覚まさないのかもしれないと焦燥していた。

 しかし、家に担ぎ込まれたときこそ土気色だった肌も、一日、二日と経つうちに赤みが刺していき、呼吸も落ち着いていった。


「おなかがすいた…………」


 いつもの朝のごとく目を覚ました、ヘイゲンスは寝床脇におかれた水差しから水を一気飲みしたあと空腹を訴えながら両親の笑顔で泣く姿を目にするのだった。


 当然ながら、ヘイゲンスも両親に叱られることとなったのだが、今までそこまで危険度を説いてこなかったこともあり、厳しく怒られることはなかった。

 ヘイゲンスも心配かけたことなどを詫びたあとは、いつも通りの本を読む生活に戻れるものだと思っていた。

 しかし、エルフリーゼを助けたことは村中に知れ渡っており、また彼の評価は一変していた。

 もっとも、大人たちは魔力の連続枯渇という苦しみを繰り返しながらもエルフリーゼを助けたことを評価していて、彼を魔法使いとして評価していたわけではなかったので、また村の外から人が押し寄せるようなことにはならなかった。

 一方の子供たちからは、魔法使いとして見られるようになった。しかも、自分たちのボスであるエルフリーゼを助けたこともあって彼の評価はうなぎのぼり状態だった。


「おっ、魔法使いのヘイゲンスだ!」


「エルフリーゼを助けたんでしょ!ありがとう!!」


「騎士と魔法使いなんて、絵本みたい」


「魔法使って、魔法!」


 外を歩ければ、今まで無視されていたのに子供たちが寄ってきて自分に群がるのにヘイゲンスは全然対応できない。


「え、え?ちょっと待って?え?」


 自分ができることをやっただけとしか思っていなかった、ヘイゲンスには状況が全く飲み込めなかった。


「魔法は、……使えるけど、気絶しちゃう、から、使()()()()んだ」

「どういうこと?」

「でも、エルフリーゼを助けたんでしょ?」

「ど、どうなんだろう?自分でも、き、気絶して、目を、覚ましたら、ま、魔法を使ってって、してたんだけど……、と、途中から、よく、覚えていな、いんだ」


 あまり今まで会話ということをしてこなかった、ヘイゲンスはつっかえながらも自分が何をできて、何をして、と覚えている限り囲んでいる子供たちに説明していった。


「そ、それに、たぶん、練習すれば、みんなも、簡単な魔法は、使えると、思うよ」

「本当!?」

「練習って、どうやるの?」

「それはね……」


「ちょっといいかしら」


 ヘイゲンスが、周囲にどんなことを”先生”に教わってきたか伝えようとしたところで、囲みの外から声がかかる。

 みんなが、そちらを見ればエルフリーゼが少し眉間にしわを寄せて、腰に手を当てて、仁王立ちをしていた。


「そこの…………、そう!ヘイゲンスとかいったかしら?」

「……は、はい」


 エルフリーゼの威圧感に、しり込みしながらも返事をして彼女を見る。


「ちょっと、用があるの。それに、父様(ちちさま)が呼んでいるの。来てもらっていいかしら?」

「……え?……は、はい!わ、分かりました。行きます!」

「そう……」


 何で呼び出されるのかも分からなかったが、領主からの――ただ偉い人という意識しかないが――呼び出しを断れるわけでもなく、諾の返事を返す。

 それを聞くと、彼を待たず歩き出すエルフリーゼを慌てて追いかける。

 どこか、いつものエルフリーゼの様子と違いに首をかしげながら子供たちは二人を見送る。



「あんたって、魔法使いなの?」


 仏頂面で無言でしばらく歩いていたのだが、突然エルフリーゼが話しかけてくる。


「い、いいえ。()()、魔法使いじゃないです」

「……そう」


 そこで、また会話が途切れてしまう。


「魔法使いになりたいの?」

「はい!」


 しばらく無言だったのだが、またエルフリーゼから話しかけてくる。


「”先生”がいろんな、魔法を見せてくれたんだけど、すごいんだ!」

「……そ、そう」

「こう、火が飛び出てバーン!ってなったり!風でスパッって切ったり!あとね、あとね、雷がドカーン!とかも!」


 今までびくびくしていたヘイゲンスが突然饒舌になって、色々と語り始める。エルフリーゼはそれに若干引きぎみになってしまう。


「それでね、それでね……」

「ちょ、ちょっと、止まりなさい」

「……あ、ご、ごめんなさい」


 ヘイゲンスは自分がベラベラと話していたことに気づいて、少し恥ずかしくなってうつむく。


「いいわ、そんだけ好きだってことでしょ」

「はい……」

「あのね………………」

「……?」


 エルフリーゼが、言いよどむ様子に首を傾げながらヘイゲンスは次の言葉を待つ。


「私は、私はね……。騎士になりたいの」

「はい…………?」


 エルフリーゼが棒を振り回していたことは、聞いていたのでそこまで疑問を覚えなかったが何を言いよどんでいたのか分からず首を傾げる。


「騎士には、家来がいるのよ!従士っていう!!」

「は!はい!」


 突然、声を荒げるエルフリーゼに驚きながら返事を返す。


「そう!だから!あんたを、私の子分にするわ!」

「…………はい?」

やっと、ヘイゲンスが話し始めた……。

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