#3
六月十八日。
この日も授業が終了し、僕は七川と帰路を共にしていた。
「でさ、どう思う?零威」
「は?」
「だから、俺たちこれから大学進学するじゃん。その時の学費って、自分で払うもんなのかって思って」
「さぁ…?てかなんでいきなりその話?」
「別に、進路相談みたいなのがあったから」
「ああ、あったねそんなの」
「考えてみたんだけど、塾の講師って儲かるらしいじゃん。やろうかなって思ってさ」
「補習すらマトモに出ない奴に言えることか…?それ」
「無理か」
「無理だろ」
「ならファーストフードか?」
「よせ、給料以上に働かされるよ。勧めはしない」
「いらっしゃいませ、こちらでお持ち帰りですか?」
「無理矢理返そうとするな。店で食うのか先に聞け」
「御一緒にポテイトゥは如何ですか?」
「何でネイティブなんだよ」
「御一緒に甘藷は如何ですか?」
「甘藷は薩摩芋じゃないのか?」
「ふうむ」
七川は困ったように顔を下げる。
「アルマイトは俺には不向きなのか」
「アルマイトなら大向きだよ、お前」
そういう謎の事はこいつ得意だからな。
「第一、何でいきなりそんなこと言い出したの?」
「だってさ、大学生活マトモに送りたいじゃん」
「先に学校生活マトモに送れや」
「大学生活ってアパート暮らしが主流じゃん」
「そう…なのか?別に自分の家から通ってもいいんじゃないの?」
「そこで将来俺はここに住むことに決めたんだよ」
「ん?」
七川が指差す方向を見ると、そこには灰色の布で覆われた物が建っていた。
「ああ、建設中のアパートね」
「そうだ」
てか今までのコレは振りかよ。
さすがに長いよ。
「しっかし長い間建設してるよね。いつになったら完成するの?」
「え?一時期建設ストップしてたじゃん。知らねえの零威?」
「は?」
知らないぞ、そんなこと。
「あれ見ろよ」
「?」
示された方向を見ると、そこには電柱が一本地面から突き出ていた。
「この電柱がどうした?」
「そこじゃねぇ、下の方だ、よく見ろ」
「………あ」
視界に入ってきたのは、
「…花束?」
一輪の、花束。
献花台…ではなさそうだが。
「交通事故…?」
「理由は知らないけど、ここで最近事故があって人が死んだんだってさ。それで建設会社の奴らが疑われて、参加月くらい建設を自粛してたんだと」
「そ、そうなのか?」
全く知らなかった。
「ま、大方酔っぱらったおっさんが頭ぶつけて死んだとか、そんな感じじゃないの?」
「そんな仕様もない理由で花束設置されるか…?」
「ま、どっちにしろ関係ない話だけど。んじゃな」
「ああ、それじゃまた明日」
僕は七川と別れ、路地へ入って行った。
「………?」
視界が眩しい光に包まれた。
「なんだろう…これは」