テスト開始
にっこりスマイルの、マリアさんがデビルに見える………。
「んじゃ、もう質問はねェな?」
とっとと行け、と続けながら希奈さんが、顎で階段を指す。
急かす、希奈さんを背に、俺達が階段に一歩脚を置くと、マリアさんの声がした。
「階段を上り終わったら、テスト開始ですわ。見事、最上階まで上ってこれたら、終了です。でわ、お気を付けて……」
俺達が振り返ると、マリアさんがペコリとお辞儀した。
すると、開いていた、壁が音を立てながら、閉じだした。
途中、希奈さんの「ビビって、しょんべ垂れながら、帰ってくんなよ」と言う声がした。
壁が完全に閉じると、ほとんど無音……。
聞こえるのは、俺と律の足音だけ。
俺達の会話は一切聞こえない。
と、言うか、さっきの喧嘩(?)からか、全く会話がない。
いよいよ、次の一歩で、階段を上り終わるところまで来て、やっと俺が口を開いた。
「……お前、先に行け」
「何でだよ!火景が先に行け!」
「馬鹿!俺が怪我したらどうする!」
「僕が怪我したらどうすんだよ!」
二人で少しの間、騒いだ結果、一緒に、上ることになった。
「……行くぞ?」
「ああ」
「「せーの!」」
一歩脚を踏み入れると、どこからか、ブザー音が鳴り響き、俺達は肩をビクつかせた。
"――これより、プランD開始します――"
又、ブザー音が聞こえたと思えば、床が動き始めた。
最初は、歩いて防げる程度の、速さだったが、その内走らないと、突き当たりの壁にぶつかってしまいそうなぐらいに、速くなっていた。
「また、走んのかよ!」
そう言いながら、走り出す。
走っている俺の肩を、同じく走っている律が叩いた。
横目で見れば、指で後ろの方を指している。
仕方なく、首だけを回して、後ろを見れば、壁から無数の鉄針が俺達の方向に突き出ていた。
「――!!止まるな!走り続けろ!」
それを合図にか、針が出ている壁が、俺達の方向に進みだした。
足下のスピードも、速くなる一方で、壁と俺達の距離は、どんどん縮まっていく。
鉄針が、ギラギラと光り、俺達の血を吸うのを、楽しみにしているように見えた。
「おい!あれ見ろ!」
と、律が指差した先に、先端に赤く丸いとってみたいなものが付いた、レバーがあった。
「あれを、押せば止まると?」
「そんな感じしない?」
ああ、確かにそんな感じだ。
だが、ここから、レバーのある位置まで、およそ……1500mぐらいある。
「仮に、止まるとして……どうやって、そこまで行くんだよ!」
「そうだな…………床の後ろに進む速さが、約分速70mとして、僕達の走る速さが、約分速85m……=1分間で僕達が進んでる距離は、約15m……そんでもって、壁が進んでる速さは、約分速90mぽいから……壁が1分間で進んでる距離は約20m……僕達と壁の距離が、約2700mぐらいだから、壁が僕たちに、追い付くのが…………」
「――ごちゃごちゃ、うるせぇ!つまり、俺達は、鉄針に串刺しにされなくて、済むのか!済まないのか!どっちだ!!」
いい加減、訳のわからない、計算を聞かされるのに飽きた俺は、律の言葉を遮った。
すると律は、俺の方を見て、ため息をついて
「現実上、不可能……」
と言った。
こんなにも、脱力感を味わったのは、小学生のころ、柄にもなく期待していたテストが、0点で返ってきた時以来だろう……。
なにより、少し期待を持たせて、その期待を裏切られると言うのは、俺を更に、追い込んだ。