今日は、貞子さん
「おい、どこにあんだよ、そのバイト先!」
「え~と、確かここの、角を曲がったところだから………………あった!ここだ!」
結局、胡散臭いと思いながらも、もし本当なら、儲け物だと思い付き合っている。
で、そのバイト先に着いたのだが、想像以上にデカイ。
「マ、マンション?」
「え?でも、なん号室とか書いてないよ?」
そんなわけあるかと、律から紙を奪い取ってみるが、本当に書いていない。
だが、こんなデカイ、マンションが、一つの家とは思えない、よっぽどの……金、持ち……。
…………そうか、金持ちだからか。
だから、時給10万円と言う、桁違いの額が出せる。
成る程、これで辻褄が合う。
俺が一人で納得する中、律は馬鹿デカイ家に向かって、すたすたと歩いていく。
その後ろを追って、俺も歩き出した。
暫く歩いて、家の近くまでいくと、扉の隣に受付のような、窓口を見つけた。
「ここか?」
「すみませーん!誰かいませんかー!」
俺と律は、窓口の窓を開けて、叫びながら中を、キョロキョロ見渡す。
その中は、真っ暗で、人がいそうな気配は微塵もない。
どうしようか、悩んでいると、誰かに肩を叩かれた。
律かと思ったが、律も肩を叩かれたらしく、俺の方を見ている。
俺と律は、お互いに目線を後ろに向け振り向いた。
振り向いた先には、物凄く髪が長く、前髪も顔が隠れるくらい、長い女が立っていた。
俺は180度、体を回転させて、一気に走ろうとしたが、時給10万円の言葉を思いだし、又、180度回転して、女に向き直った。
「あの、僕達怪しいものじゃなくて…………これを見てきたんです」
サッと、律は手に持っていた紙を女に見せる。
すると、女はじっと、紙を見てから、紙を手に取り窓口の扉の鍵を開けて、俺達に手招きをした。
何故、こっちの扉から入らないのか、疑問に思ったが黙ってついていく。
窓口の中に入ると、足下は開けっぱなしにしていた、扉から少しだけ光が来て見えていたが、奥に奥に行く内に、その光も届かなくなり、本当に真っ暗で足下すら、見えなくなった。
イダッ!と、律がなにかに、躓いて転んだが、そんなの関係ない。
気にしてたら、俺まで転んでしまう。
助けろよ!と言う、律の叫ぶ声も無視だ。
気がつくと、女は別の扉を開けていた。
そこからは、微かに光が見え、女の後ろを追って中に入ると、目がチカチカした。
段々目が慣れると、女が何やら電話を掛けて、小さな声で会話している。
俺が、電話が終わるのを待っていると、転んだ律が追い付いた。
それと、同時に女の電話も終わり、再び俺達に手招きをした。
長いローカを歩いていると、さっき俺が、疑問に思った、扉とそっくりな扉があった。
多分、この扉はさっきの扉で外に続いているだろう。
なんだ、使えそうなのに、なんで使わないんだ?
と、じっと扉見ていたら、先に歩いていた、女が気付いたらしく、さっき律から取った紙を、丸めて投げた。
その瞬間、投げた紙は、どこからか飛んできた矢に一突きされ、そのまま床に落ちたと思えば、壁から放射された火により、丸焦げになった。
「なぁ、僕恐くなってきた」
俺の服の袖を引っ張りながら、小刻みに震えている。
女か!お前は!と、突っ込みたいが確かに俺も、人を殺そうとしているような、この仕掛けが怖い。
普通、こんな仕掛けを見たら、帰りたくなるもんだが、この間の河原戦車爆走事件&爆発事で、肝が座ったせいか、そんな事微塵も感じなくなった。
それに、もしかしたら、大金が入るかもしれない、仙台一隅のチャンスだ。
それから、何も言わずに長いローカを歩いて、何分たっただろう。
俺が、いつまで歩かせる気だと、イライラしだした頃、やっと目的地に着いたのか、突き当たりの部屋の扉を、女が静かに開いた。
「どうぞ」
俺達に、初めて喋りかけたと思えば、何て言っているのか、聞こえないくらいのボリュームで、言う女。
やっと着いたと、小声で言いながら、部屋に入って行く律。
俺もその後を追う。
ふと、気になって案内してくれた、女を見ると、前髪で隠れていた目が、片方だけ見え、口角がつり上がり、ニヤリと笑いながら、こちらを見ていた。