奇妙なバイト
夏休み、初日。
ゆっくり、眠れると思っていた、俺の考えは、鳴り終わらないインターホンに、
打ち砕かれた。
無視しして、二度寝を極め込もうとしたら、姉貴にベットから、叩き起こされた。
クーラーが、ガンガンに効いた部屋からでると、一階に続くローカはムシムシ暑い。
暑いなか、俺が眠い体をずるずる、引っ張りながら、玄関の扉を開けてみると、
「やぁ!おはよう火景君!」
超笑顔の律が立っていた。
その笑顔は、なんとも言えない、嫌なオーラを放っていたから、俺が思わず、開けた扉を閉めようとしたら、あと、数センチと言うところで、律の足に阻まれた。
「なんだよ、せっかく数少ない友達が、遊びに来たって言うのに」
「アリガトウ、トモダチ、サヨナラ、トモダチ」
「なんで片言なんだよ!
そして閉めるな!コノヤロー!」
二人で、フンヌヌヌヌヌと扉を開けたり閉めたりしていると、突然、俺の頭に激痛が走った。
「扉、壊れる」
見上げれば、姉貴が真顔で、客用のスリッパを持っていた。
スリッパで叩かれたら、こんなに激痛が走るなんて、今日、初めて知った。
そんな事を考えていたら、律が玄関の扉をくぐり、姉貴に挨拶し出した。
「お久しぶりです!お姉さん!相変わらず綺麗ですね!」
「知ってる」
素っ気ない返事をして、リビングに続く扉を開け、中に入っていった。
こんな、姉貴の素っ気なさも相変わらずで、これにも、めげない律も相変わらずだ。
「で、何しに来た」
用件を聞けば、そうそうと、思い出したような口振りで、ポケットから、1枚の紙きれを出してきた。
その紙には、アルバイト募集中!と書いてある。
この時点で、俺には嫌な予感しかしていない。
「まぁまぁ、上がって話でもしよう?」
「お前の家か!ここは!」
しつこく、上がらせろと言う、律に負け。
仕方なく、俺の部屋にあげると、今度は、お茶をだせと、図々しい事を言い出す。
こいつは、俺を執事だとでも、思っているんじゃないだろうか。
余りに、しつこく言うから、そろそろ殴ってやろうと、拳を作って準備したら、部屋の扉が、勢いよく開いた。
そこには姉貴がいて、手に、お茶を乗せた、お盆を持ちながら、「茶」と一言言うと、お盆を机に乱暴に置いて、部屋を後にした。
愛想が良いのか、悪いのかよくわからない姉貴。
これを世間では、ツンデレと言うのだが
俺は、姉貴にはそんなハイカラな、言葉は不釣り合いだと常々思う。
姉貴が出した、お茶のお陰で、静かになった律に
再度用件を確認する。
「で、バイトってなんだよ」
「聞いて驚け!なんと、時給10万円のバイトを
見つけたのだ!」
そんな都合の良いバイトがあるかと、興味のないへー、と返せば、律が机をバンバン叩き出す。
何を興奮しているのか、必死に訴えてくる律。
別に俺は、反対してるのではない。
俺は、こいつの母親じゃない、やりたければ、やれば良いと思っている。
が、こいつの話を多少聞いていると、俺もやれと、言っている様に聞こえる。
一応、確認のため、「俺も?」と聞けば、「当たり前だろ?」と言う、なんともふざけた、返事が帰ってきた。
昨日も言ったが、こいつが言うことは、大体が馬鹿げた事だ。
だが、今回は違う。
一見、馬鹿げた事を、言っているようだが、律の目は、本気の目をしている。
ああ、さっきの嫌な予感は、これだったのか、俺は、嫌な予感がした時に、逃げなかった事を、後悔した。