別れて
走っている、俺達を狙って、休みなく弾が、飛んでくる。
ふと、後ろを見ると、俺達が走ってきたところは、戦争を思わせるような、弾が落ちたあと、やけ縮れた草、逃げ待とう通りがかりの人々。
ホントにヤバイ、姉貴に何て言われるか…………。
走りながら、自分の頭を両手で覆った。
普段、女には紳士的な律も、今回ばかりは、女に大きな声で叫んだ。
「おい! 君! 何とかしろよ!」
律の言葉に、あ"ぁと、鋭い目を向けるが、直ぐに前を向く少女。
それでも、めげずに叫び続ける律だが、女はシレっとした顔で、自転車をこぎ続けている。
そろそろ堪忍袋の緒が切れた俺は、女を睨み付けて口を開いた。
「いつまで、シカトしてやがる! 俺達は無関係なんだよ! 人の迷惑も考えやがれ!」
叫んだ俺に、再び、鋭い目を向けて来たが、ケンカ無敗のこの俺が、たかが女ごときに、ガン飛ばしで負ける訳がない。
鋭い目と目がぶつかり合う。
隣に居る律は、もっと言え!、言いながら息を切らせて、走っている。
しばらく、俺と女の睨みあいが続いた。
だが、根負けした女が、俺から目を反らした。
「ちっ、うるさい奴等だ。これやるから、後は自分達で何とかしろ。」
そう言うと、ズボンのポケットをガサゴソと、あさって、手の甲を上に向けて差し出してきた。
もともと、お前が蒔いた種だろ! と、言おうとしたら、我慢してくれと言うように、律が肩を掴んだ。
不本意だが、俺は、律に免じて許してやろうと、黙って女がくれたものを受け取った。
「……………………手榴弾じゃねぇーか!!」
「ちょっ……本物?それ本物?」
「当たり前だ。この状況で偽物出す奴が、どこにいる?」
出来るなら、嘘であって欲しかった。
そして、この状況で本物出すのは、世界でお前だけだろう。
その前に何故持っているのかが、疑問だ。
心の中で、軽く突っ込んだ俺は、疑問を打ち砕くほどの、恐ろしい事が思い浮かんだ。
今、俺の手の中にある手榴弾を、もし落としでもすれば、全員死ぬ。
俺は、身体中の血の気がひくのが、わかった。
チラッと横目で律を見ると、俺より先に理解していたらしく、既に青ざめていた。
「その手榴弾で、ぶっ飛ばせ」
「河原が焼け野原になるわ!」
「どうせ、時間の問題だ」
確かに、ずっと、発砲している戦車のせいで、殆ど半壊してるが、さっきのサッカーしてた、子供がまだいるし、犬の散歩してる人もいるし、夕日に向かって、走っている人もいる。
何より、戦車があるってだけでも、問題なのにその上爆発まで起こせば、明日の朝刊の1面は、間違いなくいただきだ。
そんな事を、考えている俺に対し、女は黙って自転車を、漕ぎ続けている。
と言うか、ドンドンスピードが上がっている。
気づけば、女と俺達の距離は走っても追い付けないほど、遠くなっていた。
「あの野郎、このまま逃亡する気だ!」
律からの返事が返ってこないのを疑問に思い、横を見ると半目で、ゼェゼェと言う声は聞こえず代わりに、ヒューヒューと言う声で、走っている律がいた。
文字通り、死にそうな顔だ。
正直、俺の体力も限界に近い。
ピンチの時いい考えを出す律も、こうなっては、腐った考えしか出さない。
そんな事を、考えている内に、戦車との距離は、ドンドン縮まってきた。
パニック状態の俺の肩を、顔色の悪い律が叩いた。
「…………火景、その手榴弾貸せ」
「なにする気だよ、お前」
嫌な予感がしながらも、律に手榴弾を渡した。
それを受け取った律は、無理矢理作った今日一番の笑みで、親指を立ててこう言った。
「暑いから、水浴びでもしようぜ」
その瞬間、律は戦車に手榴弾を投げつけ、俺の手を引っ張りながら、もの凄い爆発音と、ともに川に飛び込んだ。