第一関門、クリア!
「じゃあ、どうすんだよ!」と、聞けば「無理なもんはムリ!」と、物凄い剣幕で、言われた。
俺は、無能な頭を、捻らせた。
昨日から、俺は必死に頭を、捻らしすぎだと思う。
いくら捻っても、腐った発想しか出ないのは、わかっているのに……。
きっと、人間と言うのは、究地に追いやられたとき、頭を働かさずには、いられないのだろう。
くるっと、後ろを見れば、まだ鉄針が俺達を追って、前へ前へ進んでいる。
俺は、それを見てチッと舌打ちしてから、今度は隣の律を見た。
「おい!律!何か考えろ!このままじゃ、俺達あの鉄針の餌食だぞ!」
「心配ないって、僕達採用されてるんだから、どっかから見てる、マリアさん達が、助けてくれるって」
まるで、萎れた花のように、力のない笑いをしながら言った。
確かに、俺達が鉄針に串刺しにされる、ギリギリの所で、マリアさん達は助けてくれるだろう。
だが……。
「そんなことになったら、俺達は絶対、あの男女に馬鹿にされるぞ!」
「男女って……ああ、希奈さんの事か……良いじゃん別に、胸張っていれば…………」
「馬鹿!しょんべ垂れで、胸張れるか!」
「良いじゃん、垂れなきゃ………………」
「垂れても、垂れなくても、あの女は、絶対俺達を、馬鹿にする!」
なんなら、賭けてもいい、と大声で続けると、律はこちらを見てハァと、溜め息を吐くと、自分と俺の顔の前に、律が人差し指を立てて口を開いた。
「1つ、方法がある」
おおっ!と声に出して喜んだのも束の間。
又、律が溜め息を吐いた。
「……やりたくねぇ……」
「?何でだ?」
「……僕が怪我するから…………」
「説明してくれるかな?律君」
嬉しさを隠した真剣な顔付きで言うと、律が鬼っと言ってきた。
どうやら、怪我をすると聞いて、喜んでいるように見えたらしい。
何故わかったんだろう。
多分、俺が嘘を吐くのが下手だったからだろう。
ニヤッと、口角を上げて笑えば、少し目を細めて、律は話し出した。
「火景の馬鹿力で、僕をレバーのところまで、投げると言う、実に低レベルで、猿でも……いや、最早、下等生物でも出来そうな、馬鹿げた方法だよ」
「お前、俺に人一人、あんなところまで投げる、力があると?」
「あるだろ?柔道黒帯、得意技背負い投げの、日向火景君」
チラリっと、こちらを見る律。
やっぱりこいつは、追い詰められたとき程、悪い考えを出すことはない。
俺は鼻で笑って、律の後ろの襟首を持った。
「ちゃんと、受け見とれよ!!」
そう言って、俺は思いっきり、律をレバーがあるところ目掛けて、放り投げた。
まぁ、期待はしていなかったが、投げられた律は、受け身もとらずに、顔面から地面に落ちた。
それから、しばらく立っても、ピクリとも動かない律に、さすがの俺も心配になり、叫んで安否を確認したら、律がむっくり立ち上がり、レバーを下に下げた。
すると、律の言った通り、壁の鉄針が停まり、床の動きも徐々に停まっていった。
俺は、走って律に駆け寄り、再度安否を確認した。
「大丈夫か?思いっきり、顔面から落ちてたけど……」
「……顔面は、問題ないんだけど……」
俺が駆け寄っても、ずっと下を向いていた律は、やっと俺の方を見て、右手の手の甲を見せながら、震えた泣きそうな声で呟いた。
「反射でだして、中指突いちゃった」