推しの売れっ子作家は隣にいる
まったりしたラブコメ。
「あちぃ…」
こりゃ30度くらいあるんじゃないのか?
早く冷房つけよ? 5月だけど。
などと思いながら放課後、特進の教室から『先輩』の普通の教室へ歩いて向かい中。
そして、
「先輩」
「…!」
「帰りましょ、一緒に」
「うん。うん、そうだね」
小動物みたいに首をコクコクコクと縦に何回も振る。
そして、周りをキョロキョロと確認すると再び僕に顔を向け、
「帰ろ、一緒に」
髪で目が隠れてるから顔は少ししか見えない。
僕はなんとなくリスを想像してしまった。今の動作が餌を手にしたリスみたいだったんだ。
「そういや、今日発売でしたね」
「2人きりだから敬語はやめて、幼なじみだよ?」
「? はあ」
幼なじみだけど先輩だよね? 僕が高1、先輩は高2。
いつも思うけど何か理由あるのかな。
まあ、いいけど。
「や、やり直しっ」
「今日、新刊出るよね? 風鈴先生の」
「…!」
「本屋寄っていい?」
「心の準備させて」
と返し、謎に深呼吸を開始する。
すう、はあ、と陰キャな先輩は深呼吸を何回もする。
「いいよっ」
「…はい、いや、うん」
なんか興奮している。
何のための準備だろう?
ああ、この少女も風鈴先生のファンだったな。
風鈴先生は17歳と若いけど人気なライトノベル作家。ライトノベルといったら異世界系が主流だけど、僕の好きな、いわゆる推しの先生は、大人びた落ち着いている作風で現代の高校生を主人公にした作品が多い、てかそれしか書かない。
ライトノベルだけど小説みたいだし、まるで真夏の昼、風にそよがれチリンと鳴る風鈴みたいに、気持ちよくて本当に落ち着くから、人気がある。1番人気のライトノベル作家だ、推しだからじゃなく、年間ランキングで毎年のように1位を獲るから。
まあ、若者の読書離れでか、ライトノベルを読む僕以外の高校生は、この先輩しか知らないけど。
僕はデビュー直後ファンになったけどね。
―本屋
「すご…風鈴先生の新刊、売り切れか」
『人気のため風鈴先生の作品は売り切れです』と、ポップ。
「よしっ、よしっ」
小さくガッツポーズを陰キャ先輩は何回もする。
買えないのに嬉しいのか?
まあ、推しだしな。
「アイス、アイス買って。アイスアイスアイス」
「凄い喜びようだね…」
壊れたように『アイス』を何度も高速詠唱。
「先輩命令」
どこかうっとり。
「いいよ。買おうね、アイス。暑いもんね」
コクコクコク、素早く首を縦に振ってくる。
よくわからないけど本当に小動物だなこの先輩、と苦笑するのであった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!




