ランとラナと空飛ぶ亀たち
これは、ランくんとラナちゃんが、お隣のおじいさんのお店をはじめて訪れたときのお話です。
「さあ、二人とも元気にあいさつしてね」
お父さんとお母さんに連れられて、二人は引っ越してきたばかりの新しい家の隣にある、赤レンガのお店にやってきました。中からは、とっても甘くて美味しそうな匂いが漂ってきます。
二人は顔を見合わせて、ドキドキ……。
お店の扉を開けて、「すみませーん」
中に入ると、棚には大きなドーナツや、赤や黄色にキラキラ輝くアメが並んでいました。
「わあ、美味しそう!」
「お母さん、これ買って!」
「本当、美味しそうね。後で買いましょう」
すると、店の奥から丸いメガネをかけたおじいさんがやってきました。
「いらっしゃい、何にしましょう?」
「今日からお隣に越してきた森です。ほら、二人ともあいさつして」とお父さん。
「「こんにちは!」」
二人は緊張しながらも、上手に言えました。
ふと見ると、お店の壁に大きな亀が張り付いていました。
「うわあ、あれ何?」
「か、亀だ!」
「亀がいるー!」
二人はびっくりして、お母さんに飛びつきました。その亀はとても大きく、茶色の甲羅はピカピカと光っています。しかも一匹だけではありません。壁一面に、たくさんの亀が張り付いていたのです。
「怖いよぉ!」
「大丈夫だよ。この亀たちは飾り、置物なんだ。動かないから大丈夫だよ」
おじいさんが笑って言いました。お母さんも「まるで本物みたいですね」と感心しています。
「はじめて見た人はみんなびっくりするけれど、動かないから安心していいよ」
おじいさんの優しい言葉を聞いて、二人はホッと胸をなでおろしました。
ところが、二人がもう一度亀を見上げたときです。一番大きな亀の手が、バタバタと動いたのが見えました。
「動いた! お母さん、あの亀、動いたよ! 手をバタバタしてる!」
二人は大きな声で叫びましたが、お母さんは「二人とも静かに。亀は動かないわよ」と困り顔。おじいさんも優しく「動かないよ」と言うばかり。大人が見上げたときには、もう亀は止まっていました。
「本当にさっき動いたんだから!」
「手を振ってたんだもん!」
「ははは、本物みたいに見えるから、そう見えたのかもしれないね。触ってみるかい? 置物だってわかるから」
「いやだ、怖いもん!」
「僕も触らない、帰る!」
「私も!」
二人はまた怖くなって、お母さんの後ろに隠れてしまいました。
その日の夜のことです。二人はどうしても亀のことが気になって、なかなか眠ることができませんでした。時計の針はもう十二時を過ぎています。
「眠れないね」
「目をぎゅーっとつぶったら、眠れるかな?」
二人がそう話していた、その時です。外から「カサカサ、ゴトゴト」という音が聞こえてきました。
窓から外を覗くと、なんと、隣のお店から亀たちが一列に並んで出てくるではありませんか! 全部で十匹。よく見ると、亀の背中には小さなカゴがついていて、中に何かが入っています。
二人は中身が見たくて、静かに窓を開けようとしました。
――ギギギー。
静かな夜に、窓のきしむ音が響きます。二人は慌ててカーテンに隠れました。
「どうしよう、聞こえたかな?」
「もう一回、覗いてみる?」
そーっとカーテンから顔を出すと、そこには足をバタバタ動かして、二階の窓まで空を飛んできた一匹の亀がいました。
「君たちも参加するのかい?」
亀が話しかけてきました。二人はびっくりして大きな声で叫んでしまいました。だって、ここは二階の窓。亀が外に浮かんで話しかけているのですから。
「しーっ、静かに。他のみんなが起きちゃうじゃないか。それに急いで。もうすぐ『お花見』の時間だよ」
「二人とも、僕の背中に乗って! 今日は忙しいんだから」
亀はそう言うと、甲羅の上にあるカゴを前足で指差しました。
二人がカゴの縁をギュッとしがみついたのを確認すると、亀はゆっくりと夜空へ泳ぎだしました。
「飛んでる……!」
「泳いでるみたい!」
カゴの中は少し狭いけれど、体はふわふわと浮いているような、不思議な心地よさでした。
「さあ、急がないと遅れてしまう」
「何に遅れるの?」とランくんが尋ねると、
「何って、桜のお花見だよ! 今日は竜宮城でお花見があるんだ。君たちも参加するんだろう?」
二人はびっくり。
「僕たち、お花見なんて聞いたことないよ!」
「えーっ、君たち、招待されていないのかい?」
亀が驚いていると、前を泳いでいた他の亀たちが笑い出しました。
「あーあ、またタントが勘違いしてるぞ」
「本当にタントはあわてんぼうだなぁ」
二人を乗せている亀は「タント」という名前でした。タントくんは顔を手で覆いながら、「あちゃー、また早とちりしちゃった。二人ともごめんね、僕の勘違いで……」と謝りました。
二人はニコニコして答えました。
「いいよ、タントくん。僕たちも早く言えばよかったよね」
「でも、竜宮城のお花見なんて楽しそうだね!」
「タントくんたちは、これから竜宮城に行くの?」
「そうだよ。あま〜いお菓子や、甘ーいお酒をたくさん運ぶんだ。海の中には甘い食べ物がないから、海のみんなはこれを本当に楽しみにしてるんだよ」
「いいなあ、行ってみたいなあ」
二人が残念そうに言うと、他の亀たちが急かしました。
「こらタント、おしゃべりはそれくらいにしなさい! お花見に遅れるぞ」
「本当だ。先に二人を家に送っていくよ、みんなは先に行ってて!」
「わかった。そうだタント、大事な『桜の木』も忘れるんじゃないぞ」
お菓子やお酒をどっさり積んだ九匹の亀たちは、夜空のさらに高いところへ、まるで流星のように舞い上がっていきました。
「さあ、二人ともお家に戻ろう」
「ねえ、タントくん。『桜の木』ってなあに?」
「海には桜がないから、ここの桜を持っていくのさ。見ててね」
タントくんが、大きな桜の木に鼻先を「ちょこん」と当てました。すると――。
――パーン!
不思議な音がして、あんなに大きかった桜の木が、みるみるうちに小さくなってタントくんのカゴに収まりました。大きさは二人の足のサイズくらいです。
「すごーい! 桜が小さくなった!」
タントくんは得意そうな顔をして、もう一本の桜も「ちょこん」と魔法をかけました。
「えへん! 僕だってこれくらいはできるんだよ」
二本の小さな桜を乗せて、タントくんは二階の窓まで泳いでいきました。
「もう帰っちゃうの? あーあ、もっと飛んでいたかったなあ」
「また今度も乗せてくれる?」
「いいよ。でも、このことは『秘密』だよ。誰にもお話ししたらいけないよ」
「わかった! 秘密だね」
二人は慎重に窓からお部屋に戻りました。
「さあ、早くベッドに戻っておやすみ」
タントくんはそう言うと、高く舞い上がり、夜空の彼方へ泳いでいきました。二人はその姿が見えなくなるまで、ずっと窓から見送っていました。
「早く起きなさい、もう朝ですよ!」
お母さんの声で目が覚めると、二人は慌てて窓の外を見ました。そこにはいつもの大きな桜の木が、何事もなかったかのように春の風に揺れていました。
「元に戻ってる!」
二人は急いで着替えると、お隣のおじいさんのお店へ走りました。扉を開けると、壁にはいつものように亀たちがいます。
「一、二、三……あ! 一匹足りない! タントくんがいない!」
「どうしてタントだってわかるんだい?」
「タントくんの甲羅には、お花の模様がひとつあったんだもん。ここにいる亀さんたちには、お花がないよ!」
ランくんが必死に説明しました。
「寝坊したのかな?」
「まだ竜宮城にいるのかな?」
「迷子になっちゃったのかな、大丈夫かなぁ……」
二人は心配でたまらなくなりました。
その時です。
――ガタガタッ!
窓の方から音がしたかと思うと、一匹の亀が猛スピードで壁に向かって泳いできました。
「間に合ったーーっ!」
そんな声が聞こえてきそうな勢いで、タントくんが壁に張り付きました。そして、心配そうに見つめる二人に向かって、一度だけ手をバタバタと振って見せたのです。
「カサカサ……」
壁の上で、タントくんは静かに置物に戻りました。
「よかった……! ちゃんと帰ってきたね」
「うん、やっぱりタントくんだ!」
二人は顔を見合わせて、今日一番の笑顔になりました。
朝日を浴びた十匹の亀たちは、昨日よりもずっとピカピカと誇らしげに輝いています。二人は、おじいさんのお店がもっともっと大好きになりました。
だって、ここには世界で一番素敵な「空飛ぶ友達」がいるのですから。
(おしまい)
文章をAIに少し手伝ってもらいました。




