地獄の時間は突然に
「……おい、渚史。ちょっと面貸せよ」
昼休み。俺の机を囲んだのは、クラスの男子カースト上位組の面々だった。
彼らの目は、昨日「全財産で友情を買おうとした不審者」を見る軽蔑に加え、今朝「相模美冬の肩を揉んだ大罪人」を即刻処刑しようとする、純度の高い殺意に満ちている。
「いや、あれは、その……手が勝手にというか」
「手が勝手に女子の肩にいくわけねーだろ。お前マジで終わってんな」
机を叩く音が響き、クラス中の冷ややかな視線が突き刺さる。痛い。もはや教室に俺の居場所はない。今すぐこの教室の床が割れて、そのままナポリまで続く地底湖にでも沈みたい。そこで一生ピザの生地だけをこねて、陽気なおじさんとして余生を過ごしたい。
だが、無情にも視界にクソシステムはが浮かび上がった。
{[「彼女は俺の女だ。手出しは許さん」と宣言する]}
{[「靴を舐めるので許してください」と土下座する]}
{[「実は相模さんは俺に金を借りているんだ」と嘘をつく]}
……出たよ。クソシステムめ、今日も絶好調に俺を破滅させようとしてやがる。
2番目を選べば俺の尊厳はナポリの海の藻屑と消えるし、3番目を選べば俺の社会的な評判は「美少女を脅す金貸し」にジョブチェンジして一生戻ってこれない。
消去法だ。これは、生き残るための、血の涙を流しながらの消去法なんだ。
「…………おい、お前ら」
俺は震える足で立ち上がり、クラス全員に聞こえる大声で言い放った。
「……相模に、気安く触れるな。彼女は……俺の、女だ。手出しは、一切許さない」
――瞬間。教室から音が消えた。
男子たちは口を半開きにして固まり、女子たちのドン引きのささやきすら凍りついた。
終わった。俺の平和な日本での生活は、今この瞬間にナポリの火山に飲み込まれて全滅した。
そう確信して天を仰ごうとした、その時だ。
「……っ、な、渚史くん……っ!?」
背後から、ひっくり返ったような、情けないくらいに可愛い悲鳴が聞こえた。
恐る恐る振り返ると、そこには顔を耳の先まで真っ赤にし、驚愕の表情で俺を凝視する相模さんの姿があった。
「な、何、を……。みんなの前で、そんな……っ。そ、そういうのは、もっと、その……っ!」
ん?なんか相模さん変な方向に照れてない?ちょいまずくない?俺消されるかも
私は今、愛の告白を受けた私が少し席を外して戻ってきたら渚史くんが私を俺の女だと言った聞いた時平常心を保とうとしただが私には無理だった前は隠せた赤くなった顔はクラスのみんなにも渚史くんにも見られた
私は恥ずかしさから教室を飛び出した
うん、終わった姉にいじられる前に俺はこのクラスに消されるシステムよ消える時は共にだそしてシステムよ来世は常識を学んでから俺に選択肢をくれ
俺はその後血の涙を流した男子どもに殺意を向けられながら授業を受けたのだった
放課後唯一の安心の時間である寝正月ならぬ寝放課後をしていたところ足音が聞こえたまた殺意の高まった男子だろうかと思い足音の方向を向いた
「俺の女と私のことを言ったからには責任取ってくださいね」
俺が殺意を向けられる元となった声が耳元で聞こえた恥ずかしいならそんなセリフを言わなければいいのに文字だと普通に言ってるように見えるだろう?実際はブルブルマシーンかよってくらい声は震えてるし裏返ってる
あ、そういえばまだ誰か言ってなかったもうわかってるだろうが相模だ俺は耳元で囁かれて平気なのかって?ううんめちゃくちゃ心臓がうるさいのだよ
廊下に逃げていったであろうそんな足音が聞こえた
「…帰りますか、どうせ俺の家なのにねーちゃんはいるだろうしからかわれるんだろうなはぁ、めんどくさい」
憂鬱であったため俺は寄り道をしながら家に帰った正直適当に言った市場であまりだからってマグロの切れ端をもらうとは思いもしなかった
重い玄関のドアを開けた瞬間。そこには、俺を仕留めるためだけに存在しているような、極上のニヤニヤ顔を浮かべた姉貴が立っていた。
「あ、おかえり独占欲くん♪ いやー、お疲れ様。学校から家まで、耳まで真っ赤にして歩いてくるなんて、あんた分かりやすすぎじゃない?」
「……なんで知ってるんだよ。お前、俺の後ろにドローンでも飛ばしてるのか?はい、あとマグロ」
マグロを手渡しつつ俺は姉を睨む
「ドローンなんて原始的なものいらないわよ。美冬ちゃんから『渚史くんにとんでもないこと言っちゃいました!』って、今にも爆発しそうな声で電話があったんだから」
姉貴は俺の肩に腕を回すと、スマホの画面を突きつけてきた。
「見て。これ、美冬ちゃんが送ってきた自撮り。『恥ずかしくて死にそうです』だって。……ねえ、何したの? 何をして、この清楚な美少女をここまでオーバーヒートさせたの? お姉ちゃんに詳しく、一語一句逃さず話しなさい」
スマホには、布団に顔を埋めて真っ赤になっている美冬さんの写真。……やめろ、破壊力が強すぎる。俺のシステムが「今すぐナポリへピザ修行しに行け」と警報を鳴らし続けている。
「……ねーちゃん。頼むから、一人にしてくれ。俺のライフはもうマイナスなんだそしてここは俺の家だ」
「はいはい。じゃあ夕飯まで、自分の部屋で今日の『独占欲宣言』をじっくり反芻してなさいな。あ、そうそう。美冬ちゃんに『尚人が責任取るって言ってるわよ』って返信しておいたからね♡」
「お前、余計なことすんじゃねえええ!!」
俺の叫び声が、夕暮れの渚史家に虚しく響き渡った。
血の涙を流しながら、俺は階段を駆け上がる。
クソシステムよ、姉をしばく選択肢をよこせ
明日の登校が、今日よりも何倍も地獄になることだけは、考えなくても分かっていた。




