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第五話『相見えるということ』

 夢というのは大変不思議なもので、寝る直前に読んでいた本の内容をそっくりそのままなぞる夢であったり、次の日は全く関係のない宇宙人や恐竜に襲われる夢を見たりと、日によって多種多様にその内容は変化します。また、夢は毎日見られるものではありません。その日の疲れ具合や気分といった要因はあるにせよ、こればかりは本当に運任せです。できることならば毎日楽しく安らかな夢を見たい、と思うのは私だけではないはず。


 しかし、今回の夢に楽しさは微塵もありませんでした。


 地平の彼方まで続く荒野。その色はどういうわけか毒々しい青紫色のみで着色されています。石も砂も、空さえも青紫色。


 人の姿はありません。私一人が荒野を延々と彷徨っています。背中に妙な重みを感じ、手を後ろに回して確認します。ざらざらとした、人間とは異なる生き物の皮膚に触れている感覚。振り向くと同時に『それ』は勢いよく展開します。


 空や大地を塗り潰す青紫色に馴染まない濃赤色の翼が、私の背中に生えていたのです。


 翼には小さな切り傷がいくつも見られ、そこから泡立つようにぼこぼこと人間の目玉が大量に溢れ出します。更には膿と血が入り混じった液体をぱっくりと開いた傷口から噴出し、目玉と合わせて私の全身に満遍なく垂らし始めました。


 夢だというのに、私は血のにおいを、膿の粘りを、目玉の硬さをリアルに感じていました。そして驚くべきことに、夢の中の私は血を啜り、膿を舐め、眼球を口に含んで強引に噛み潰して笑っているのです。弾力のあるゼリーの中に、こりこりと歯触りの良い軟骨が埋まっているような食感。口内で糸を引く液体はほんのりと塩味が効いていて、飲み込む度に食道を蹂躙する刺激もまた最高に心地良い――。


「いやああああ!」


 ベッドから跳ね起きた私は、いの一番に口の中を確認しました。人差し指と中指を喉の奥まで突っ込み、人間の眼球が詰まっていないか念入りに調べます。段々と意識が明瞭になり、先程体験した地獄が夢であると理解できるようになりました。


「酷い、夢」


 六花、と私を呼ぶ声に体が震え、ひっと反射的に小さな悲鳴を上げてしまいました。もう一度扉の向こう側から声をかけられ、扉の前にいる人物が空巣さんであると分かった私は慌てて扉の鍵を開け、ドアノブを強く捻りました。


 空巣さんは右手にマグカップを、左手にはサンドイッチの載ったプレートを持ち、にこやかに微笑んでいます。


「少し早いが、朝食にしようか」


 空巣さんは毎日こうして部屋にご飯を持ってきては、食べ終わるまで見守ってくれるのです。私だけに限らず、空巣さんは全ての子供達にそうして寄り添い、安心させているのでしょう。私から食堂に出向いて食事を取った方が空巣さんの手を煩わせずに済むと分かってはいるのですが、私はまだ、他の子達と円滑にコミュニケーションを取る自信がありません――道開お兄ちゃんを除いて、ですが。


 私と空巣さんはベッドに並んで腰掛けます。空巣さんから受け取ったマグカップはホットミルクで満たされており、一口含むと温かさと甘さが体の隅々まで浸透していきます。続いて空巣さんはサンドイッチを手に取ると、どういうわけか私の口元まで運びます。


「今日はトマトを挟んでみた。自信作だ」

「一人で食べられますよ」

「いいじゃあないか、ほら」


 空巣さんには困ったものです。私は仕方なく――内心は満更でもありませんが――彼女の好意に甘え、サンドイッチを頬張りました。すると空巣さんは満足げに頷き、


「今日の調子はどうだ、昨日はよく眠れたか」

「――怖い夢を見ました」

「例の、荒野と翼の夢か」


 私は頷きます。


 狂気が形を得て具現化した、とでも表現すべきあの夢を見たのは初めてではありません。家族が私の前からいなくなった日から、あの翼は私の夢の中で羽を広げ、地獄の主として頭の中の片隅に居座り続けているのです。


「大丈夫だ、六花。ただの悪い夢だ」


 空巣さんはそう言って、また笑いかけます。いつもならば私が食べ終わるまで傍にいてくれるのですが、彼女は私にサンドイッチを皿ごと手渡すと、


「すまない、少し食堂の様子を見てくる」

「誰かいるんですか……」

「道開が意外に早起きでな、先に朝食を食べさせていたのだが――まあ、何だ。少し心配になった」


 空巣さんの物言いに違和感を覚えた私は、つい身を乗り出してこう言いました。


「私もお兄ちゃんと一緒にご飯を食べます」


⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯


 おにぎり二十個。具は昆布、おかか、梅干し、鮭、ツナマヨがそれぞれ四つずつ。食パン五枚、内三枚はマーガリンを塗った上に砂糖をまぶし、一枚はスライスチーズを載せ、もう一枚はマヨネーズを薄く塗ってこんがりと焼き上げたもの。それに卵焼き、ソーセージも九本。ウィンナーはバーベキュー用の骨付きソーセージで、卵焼きは卵を八つ使用。厚めにスライスして焼いたベーコンを十五枚と、水気を切って食べやすいように千切ったレタスが丸々一玉分。そして最後にわかめと豆腐のお味噌汁、一杯。


 何人前あるのか分からない料理の全てを残らず平らげ、満面の笑みを浮かべて両手を合わせるお兄ちゃんの姿がそこにはありました。


「ご馳走様でした」


 呆気に取られる私と、本当の本当に困った様子の空巣さん。お兄ちゃんは無邪気に「おはよう、六花」と挨拶し、手に握ったサンドイッチをじいっと見つめてきます。


「すみません、空巣さん、昼と夜はほどほどに抑えて食べるんですけど、朝食だけは満足するまで腹に詰め込んでおきたいんです」

「別に構わないと言いたいところだが、これは食べ過ぎだろう」


 彼の前に積み重なる皿の山を一瞥すると、空巣さんはため息をつきます。


「他の子達を見てくる。洗い物は後でまとめて済ませるから、そのまま置いておくように」

「甘いホットケーキが食べたいです。それに脂っこいフライドチキンも」

「何も聞こえない、私は何も聞いていない」


 両手で耳を塞ぎ、空巣さんは食堂を飛び出してしまいました。これから毎朝満漢全席さながらの手料理を振る舞わなければならない彼女の苦労を思うと、逃避したくなるのも無理はありません。お兄ちゃん一人で非行敷のエンゲル係数が恐ろしいことになりそうです。


 私はお兄ちゃんの隣の席に座り、先程から彼の目が釘付けになっているサンドイッチの皿を机の上に置きます。


「良ければ一緒に食べましょう」

「六花は優しいな。それでは遠慮なく」


 いただきます、と言ってサンドイッチを手に取り、豪快にかぶりつくお兄ちゃん。その顔は見ている私まで幸せになるような笑顔で輝いています。


「非行敷で過ごす初めての夜はどうでした……」


 よく眠れましたか、と尋ねる私が悪夢にうなされていたというのですから、何ともおかしな話です。お兄ちゃんは不満を露わに、


「有十が僕のベッドを占拠したまま起きる気配がないものだから、仕方なく空巣さんに他の空き部屋を用意してもらったんだ。寝心地は悪くなかったが、空巣さんに申し訳なくて寝るに寝られなかったよ」

「それは災難でしたね」

「それと六花がここに来る少し前、突然女の子の叫び声が聞こえたんだ。それはもう血の気が引くようなおぞましい悲鳴だった」

「ああ、そうですか。そんなこともありますよ」


 そう笑って誤魔化しましたが、お兄ちゃんが聞いたという叫び声の主は間違いなく私です。まさか二階の寝室から三階の食堂にまで響いていたとは――空巣さんがタイミングよく訪ねてきたことにも得心が行きます。


「そういえば六花は有十と面識がないんだよな」

「何度も言わせないでください。非行敷でまともに会話をした相手は空巣さんとお兄ちゃんだけです」


 お兄ちゃんは髭の薄く生えた顎を親指で擦り、サンドイッチから私に視線を移します。


「今後のために、一度くらい顔を合わせておいた方がいいかもしれないと思って、な。否が応でも私生活を共にするんだから、気まずい関係のまま暮らすのは六花も嫌だろう……」

「それはそうですけれど、その」


 お兄ちゃんの言い分は正しいと思います。しかし私にはまだ、他の子達と接する勇気がありません。お兄ちゃんとの出会いは偶然、成り行きに過ぎず、彼も本が好きであるというきっかけがなければ私はお兄ちゃんとも話をするつもりはありませんでした。


 お兄ちゃんと出会ったあの時、私は書庫で本を読んでいました。お兄ちゃんには私がただうずくまっているように見えたそうですが、私はその場に座り込んで読書に耽っていたのです。唯一の安らぎの時間を邪魔するお兄ちゃんを適当にあしらい、根暗で卑屈な少女を演じたところ(事実その通りなのですが)、気がつけば私は彼を、夢路 道開をお兄ちゃんと呼ぶようになっていたのです。


「まだ、もう少しだけ待ってもらえますか。私から話しかけたいんです」


 お兄ちゃんとの邂逅を機に、もしかすると私は変われるかもしれない。そう考えている自分に驚き、すぐに納得しました。いつも『そう』だったからです。私がぐずって、泣いて、拗ねて、一歩踏み出せない時に手を差し伸べてくれたのはいつだって『お兄ちゃん』でした。


 逆上がりができず同級生に馬鹿にされた時、わざわざ友人と遊ぶ約束をキャンセルして放課後の練習に付き合ってくれたお兄ちゃん。漢字の読み書きが苦手な私のために読書を勧めてくれたお兄ちゃん。クラスの雰囲気に馴染めず、学校で過ごす時間の大半を図書室で費やす私に何も言わず寄り添ってくれたお兄ちゃん。


 優しくて、頼りがいがあって、私の全てでもあった『お兄ちゃん』はもういません。それなのに私は、お兄ちゃんによく似た別人をお兄ちゃんと慕い、彼にお兄ちゃんの面影を見出し、依存しようとしている――。


「私って、駄目な子ですね」


 いつまでも大人になりきれない、お子様です。


⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯


 今日は日曜日。特にこれといってすべきこともなく、無意味に時間を消費していく怠惰な一日。学校で課された宿題や予習、復習も昨晩の内に全て済ませ、他にやることと言えば読書か、あるいは新たに本を買いに出かけることくらいです。


 一旦お兄ちゃんと別れて自室に戻ってきた私は、財布の中身を確認します。空巣さんからひと月五千円のお小遣いが支給されますが、私には本を買う以外にお金の使い道がありません。学校帰りに友人とファミレスやコンビニで買い食いをする機会はなく、弁当を持参するので購買部を利用することもない私には、他に金銭を利用する目的が存在しないのです。


 折り畳み式の財布の中には、今月のお小遣いである千円札が五枚と、残った先月分の小銭が少しばかり入っていました。これだけあれば一冊と言わず数冊は買えるでしょう。


「六花、準備は出来たか」

「はい。お兄ちゃんの方こそ、何とかなりましたか……」

「小遣いのことか。一応は、な。僕の場合、人一倍食費がかかりそうだから小遣いはどうしたものかと空巣さんも困っていたが、朝食の対価として風呂掃除を任されたよ。小遣いはちゃんと貰う、風呂掃除は毎日する、これで解決だ」


 今日は書店に赴くと決め、それにさしあたってお兄ちゃんを誘いましたが、彼は非行敷に引き取られるまで無一文で生活していたらしく、お金どころか財布さえ所持していませんでした。それまで食費や生活費はどうしていたのかは放っておくとして、私の誘いに乗ったお兄ちゃんは空巣さんにお小遣いを強請りにいきました。


 しかし非行敷の予算は創設当初から変わらず逼迫の一途を辿っていて、本部から世界各国に点在する支部へと分配される資金にも限りがあります。国や地方から措置費が支出される支部もあれば、本部の貯蓄を崩しながら切り盛りしているところもあるそうで、この日本第一支部に常駐している職員が空巣さん一人しかいないのは人件費の節約なのではないか、と私は睨んでいます


 そういう事情もあって、家計を圧迫するお兄ちゃんの暴飲暴食は何とかしなければならない大問題だったのですが、どうやら風呂掃除で手打ちになったみたいです。空巣さんの負担が減ることを思えば、最善策と言えなくとも良策には違いないのですが――根本的な解決には至っていない気がします。


「お兄ちゃん、これからは食べ過ぎないでくださいね」


 そんな、嘘だろ、と目を見開いて驚くお兄ちゃんに呆れずにはいられません。私は非行敷の懐事情について簡単に説明し、


「非行敷は誰か一人のために存在しているのではありません。贅沢を一切許さないとは言いませんし、お小遣いが貰える時点で十分に贅沢です。その上、毎朝フルコース並みの豪勢な食事を取るというのは欲張りさんです。過食は健康にもよくありません。不死身だからといって肥満、糖尿病、うつ病などにかからないとは限りませんからね。お兄ちゃんのために、空巣さんのために、そして非行敷で暮らす子供達のために、行き過ぎた出費は控えるべきです。分かりましたか……」

「――善処します」


 がっくりとうなだれるお兄ちゃん。食費がかさむくらいで大げさだ、と言い返してきてもよさそうなものですが、彼は落ち込んでこそいるものの不満を口にする様子はありません。代わりに潤んだ瞳で私を見つめると、


「六花はしっかり者だな、将来良いお嫁さんになるよ」


 恥ずかしげもなくそう言って、私の手をぎゅっと握ります。顔がほんのり火照るのを実感し、こみ上げる気恥ずかしさから私は顔を背けます。


「お兄ちゃんこそ、しっかりしてください」

「朝はご飯かパンのどちらかにする。ご飯のおかわりは大盛り二杯まで、食パンは四枚まで。まずはそこからだな」


 私は財布をポーチに突っ込み、お兄ちゃんの手を引いて歩き出します。お兄ちゃんの問題が解決したところで、目的地の書店を目指します。


⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯


 屋敷を出た私達は、周囲を取り囲む雑木林を突っ切り、田畑だらけの小さな田舎町をしばらく進んだ先にあるバス停で『薄蓑駅前』へ向かうバスに乗り込みます。人気のない車内で揺れること十五分、駅前に着いた私達はバスを降り、徒歩で移動します。それから五分とかからない内に、行きつけの本屋に辿り着きました。


 本だけに限らずCDやゲームソフト、挙句の果てには衣類まで取り扱うようになった本屋が見受けられる昨今、書店に本のみが置いてあるという光景は珍しいものになりました。取り扱う商品の多種化、客のニーズに応え続けた末路、とでもいえばよいのでしょうか。


 そんな時代の流れに逆らうように、私達が訪れたこの本屋は徹底して本しか入荷しないのです。本の本による本のための本屋さん――そのスタンスを私はとても気に入っており、本を買う時は必ずここに立ち寄ると決めているのです。


 店内は静寂そのもので、バックグラウンドミュージックやアナウンスの類は一切流れていません。客の足音、本を捲る音、店員がレジを打つ音。そうした何気ない音が重なり合い、一つの曲譜を織り成しているのです。ここに音楽は必要ありません。


「さて、お宝探しにいきますか」


 お兄ちゃんは足早に『現代文学』のコーナーへと向かいます。彼がどのような本を選ぶのか気になった私は彼の後を追い、隣に立ってその様子を観察します。新刊、書店の一押し、有名な出版社と棚によって本の種類が分かりやすく区分されており、お兄ちゃんはまず新刊をいくつか手にとってはぱらぱらと捲りながら目を通し、そして元の場所に戻してまた別の本を取る、といった具合に本を物色していきます。


「お兄ちゃんは本を選ぶ時、何かこだわりってありますか」

「六花はどうなんだ……」

「私は――そうですね、自分が過去に読んで面白いと思った作品を手掛けた作者の本を選んだり、実際に手に取ってみて、文章が読みやすいかどうかで決めますね」

「僕も似たようなものだが、それに加えて僕は巻末のあとがきを見て決める」


 彼の言葉の意味がよく分からず、私は首を傾げます。


 表紙のデザイン、大きさ、文章の言い回し、表現、物語の展開。そういう一般的な判断基準に足すこと、作者のあとがき。そこにどのような意図があるのか、私には理解できません。


「本ってやつは、作者一人では作れないものだよな。文章を添削して的確なアドバイスを施す編集者とか、印刷、発行する会社やその本を商品として売り出す本屋だってそう。本の刊行に尽力してくれた協力者に対し、あとがきを使って感謝の意を述べている作者は好感が持てるし、きっと作品にも魅力がある」

「著書に作者の人間性が反映される、ということでしょうか」

「僕が勝手にそう思っているだけだ。作者の人となりは作品に全く関係がない、なんて言えたら格好良いんだろうけど、僕はそこまで割り切れないよ。性格の悪い人間とは話もしたくないし、わざわざ作品を読もうなんて思わない。性格の良い人間には好感が持てるし、気が進めばその人の作品を読んでみようと考える――作者は関係ない、作品が面白ければいい。そう考えることこそが真理であり、正しい読書家の在りようなんだと自分に言い聞かせながら本を読むよりは、気兼ねなく読書を楽しみたい。だから僕はあとがきを見て本を選んでいるんだ」


 そもそもあとがきが書かれていない本は仕方ないけどね、とお兄ちゃんは苦笑しながら、本選びを続けます。そういう本の選び方もあるのかと思い、私は彼の選び方を真似てみることにしました。


 あとがきを見て、作者の言葉を見る。あとがきを読むのに必死な私を横目に、お兄ちゃんはにやりと笑いました。


「六花は素直だなあ」


 彼に一杯食わされたと気づいたのは、本屋で各々好きな本を買い、その帰りに近くのファーストフード店で昼食を取っている時でした。私はハードカバーの小説とライトノベルを一冊ずつ、それに数学の参考書を買いました。対してお兄ちゃんは文庫本を三冊購入しましたが、やはりそれもあとがきを見て決めたのかと尋ねたところ、


「いや、適当」


 と答えたのです。


「本の選び方なんて今まで考えたこともなかったからな、とっさにそれっぽい理屈をでっち上げてみただけだ。本当は面白ければ何でもいいんだよ」

「納得できません」


 それは困った、と他人事のように呟くと、彼はフライドポテトを一気に口の中へ放り込みます。丹念に咀嚼した後、炭酸飲料をちびりちびりと口に含んでいきます。


「昼はこれくらいが丁度いいな」

「朝もそれくらい小食でいいんですよ。というより、よくお腹に入りますね」

「ほら、スイーツは別腹って言うだろう。あれと同じ」


 何がどう同じなのでしょう。お兄ちゃんにとってこの昼食がスイーツみたいなものなのか、もしくはあのとてつもない量の朝食がスイーツ同然なのか、私には分かりかねます。


 私がハンバーガーを食べ終えるのを見計らい、それで、とお兄ちゃんは切り出します。


「本屋デートの次はどこに行く……」


 デートではありません、と言って軽く流しましたが、デートという単語が出た途端に心臓が破裂しそうなほどに鼓動し、全身が軽い熱を帯びていくような感覚に襲われたことは、お兄ちゃんには内緒です。


「目的の本探しは済みましたけれど、帰っても特にやることもありませんね。かといって他に時間を潰せるような場所は――」


 お兄ちゃんの目つきが一変し、猛禽類のそれに近い、見るものに穴を穿つような鋭い視線が店の中を見渡します。まるで店内に屯する人間一人一人を見定めているようにも見え、何かあったのかと彼に問いかけますが、返答はありません。そのまま黙り込んでいたかと思うと、ちっ、と舌打ちをして不快感を露わにします。そして私の手を掴んで引っ張り、店を飛び出してしまいました。


 状況が呑み込めないまま彼に歩幅を合わせていましたが、気づけば私達は全速力で走っていました。どうして私達は何か得体の知れないものから逃げるように走っているのかと訊いたところ、今度は真剣な面持ちでこう答えました。


「尾行されている」

「尾行――そんな、誰に」

「分からない。いつからつけられていたのかもさっぱりだが、剥き出しの敵意はびりびり伝わってくる」


 いや、とお兄ちゃんは訂正します。


 これは殺意だ、と。誰かが僕達のどちらかを、あるいは両方を亡き者とするべく迫ってきている、と。


「心当たりはありますか……」

「ありすぎて困るくらいだ。何たって僕は殺人狂だからな」


 それはそうですが、と言いかけたところで、私は自分が奇妙な状況に置かれていることを理解しました。殺人狂と仲良く手を繋いで私達に殺意を向ける人間から逃げている、という構図は突っ込みどころ満載、おかしさ満点です。もちろん、笑っている余裕なんてありませんが。


「ごめんな」


 息を切らしながらも必死に私を牽引するお兄ちゃん。その額には汗の玉がぽつり、ぽつりと浮かんでいますが、拭う暇もなく、ただひたすらに走り続けます。


「六花には関係ないことなのに巻き込んでしまった、本当にすまない」

「関係ない、なんて言わないでください。私達、家族なんですから」

「これは僕の問題だ。僕が背負うと決めた罪だ。いつだって殺されることを覚悟して、今まで生きてきた」


 殺される覚悟――有能力者というカテゴリに分類される私も十分に異質な存在であることは自覚していますが、それでも自分の死を受け入れる覚悟なんてものを抱いたことは一度だってありません。お兄ちゃんは常人とも、有能力者とも異なる死と隣り合わせの世界にいるのでしょう。


 殺すこと、殺されることが当たり前。私のいる世界から遠く離れた、殺人狂の世界。


 風貌こそ温厚そうな青年であるのに、彼は間違いなく『人類史上最低の実名なき殺人狂』と呼ばれ、世間を震撼させた殺人犯なのです。彼の手は滝のような血流に洗われ、彼の足は死者の肉海を踏みしめてきた――私には未だに信じられません。


 私達は走って、とにかく走って走って、そうして見慣れた場所に辿り着きました。


「学校……」


 私立都原高等学校の校舎が視界に映り込み、次いで追われる者を出迎えるように開け放たれた校門が見えました。ここが私の通っている学校だとお兄ちゃんに伝えたところ、彼は「しまった」と自分の額を叩きます。


「どう考えても偶然じゃないな。また誘導されたのか、僕は」

「このまま学校に逃げ込むより、どこか別の場所に逃げた方がいいのでは……」

「いや、下手に逃げ続けていれば、体力を消耗しきったところを狙われる可能性が高い。万が一学校に罠が仕掛けられていたとしても、僕の能力があれば大丈夫だ。まだ余裕のある内にこちらから打って出よう」


 そういえば、お兄ちゃんの能力について私は何も知りません。自分の能力すら把握できていない以上、お兄ちゃんにその話題を振るのは如何なものかと考え、あえて訊かないようにしていたからです。今の言葉で少し気になりましたが、能力について質問するより先にお兄ちゃんは言います。


「学校に誘導されたってことは、ひょっとするとストーカーの狙いは僕じゃなくて六花の方なのかも」

「狙われる理由がありません」

「殺人に理由は要らないんだ」


 校門を通り抜けた私達は、一切の躊躇なく校舎の中に侵入します。その際、お兄ちゃんが出入り口の扉を蹴破ってしまいましたが、今はそんなことに気を回している余裕はありません。


 私は時折振り向いて迫りくる人影がないか確認しますが、お兄ちゃんはこのような事態にも動じることなく、全力疾走を保ったまま話を続けます。


「ただの快楽殺人者なら目が合っただけで殺人の動機になる。コンビニで同じパンを買っただとか、たまたま同じ電車に乗ったとか。捕まらないから人を殺す、なんて異常者もいるくらいだ。もっとも、僕達を追いつめようとしている相手はそういう類の人間ではないみたいだけど」

「誘導されたことがその証拠、ですか……」

「そう。やろうと思えば本屋でもどこでも仕掛けられたはずだ。いつからストーキングしていたのかは分からないが、何か狙いがあった上で殺意を向けているんだから非常に厄介だ。力任せに勢い任せの殺人鬼とは違って、殺人以外の目的があるやつは殺しを二の次にして色々な手を使ってくる」

「色々な手、というのは」

「人質を取るとか、巧みな話術で揺さぶりをかけてくるとか、そういうの。一番厄介なのは、守るべきものがある状態で襲ってくることだな」


 『守るべきもの』の意味を考えるより先に、私達を追い回していた犯人が姿を現しました。


 階段へと続く通路を塞ぐように、布切れを全身に巻きつけた青年が立っています。坊主頭には火傷の痕が、布切れの隙間から覗く体には生々しい傷跡がいくつも見て取れます。左目は白内障でも起こしたかの如く濁り切っていて、よく見てみれば全身を覆う布切れが制服の残骸であることが分かります。


 既に満身創痍といった有り様の青年は、憤怒に歪んだ顔で私達をねめつけます。


「六花、知り合いか……」


 お兄ちゃんは右手を振るって空を切ります。すると袖口からナイフが飛び出し、彼の手の平に収まりました。まさかナイフを忍ばせていたとは、恐れ入ります。


「直接話したことはありませんが、確か野球部の主将さんだったと記憶しています。でも接点はおろか狙われる理由なんて――」


 ふん、と鼻を鳴らし、お兄ちゃんはナイフの刃先を主将さんに突きつけます。


「お前、何だって僕達をつけ回す……」


 刃物で威嚇され、一瞬ですが主将さんはたじろぎました。一歩その場から後退し、怒りに満ちていた表情は動揺を隠し切れていません。それでも彼は首をぶんぶんと横に振ってナイフに対する恐怖心を払い、持ち直します。


「俺は取り戻すんだ、俺の能力を。有能力者としての力を」

「お前も有能力者か。しかし非行敷に所属している、ってわけでもなさそうだな」

「今の俺の力は『彼女』から貸し与えられているだけ。いつでも簡単に取り上げられてしまう状態にある。畜生、あれは俺のものだ、俺の。俺だけの《魔弾遊び》だ。そうさ、俺はあれがないと駄目なんだ、俺はあの力で皆を、野球部の仲間達を甲子園に導く。正しい能力の使い方だ、そうだろう。お前らもそう思うはずだ、間違いなく俺は誰からも責められるべきではないな、そうだ。ああ、駄目だ。あれは俺のだ、返せよ。それは俺の力であって俺の俺の俺の実力だだだだ」


 全身をびくんびくんと打ち震わせ、血走った右目と灰白色の左目で私達を睨みつける主将さん。その不気味な姿に怯える私は、お兄ちゃんの手を強く握ることで気持ちを落ち着けようと努めます。お兄ちゃんが言っていた殺意というものを、ここにきてようやく感じ取ったのです。


 剥き出しの負の感情を前にして畏縮してしまった私とは違い、お兄ちゃんは平然とした様子で主将さんから目を離そうとしません。


「あいつは言ったんだ。三枝 六花を襲えば《魔弾遊び》を返すと約束、約束したんだ。しました。してくれました。それを邪魔する人間は俺の同類であろうと――殺してしまえと言われてしまわれました!」


 校舎を揺らさんばかりの叫声と共に、主将さんは近くの窓ガラスを拳で叩き割りました。破片の多くは窓の外に吹き飛び、勢いが足らずに教室の中へと降り注いだガラス片に目を向けると、彼は自分の腕をガラス片の山へと振り下ろしました。


「はは、刺され、もっと刺され。掴まなくたって大丈夫なんだ。大事なのは平常心、平常心が能力を強くする。あいつはそう言った、そうだよな、なあ。そうだろう」


 肘から先を、まるで棒切れのようにガラス片目掛けて何度も叩きつける主将さん。何がおかしくてげらげらと笑っているのかは分かりませんが、当然のことながら鋭利なガラスの欠片は彼の腕に突き刺さり、更に容赦なく打ちつけることでガラス片はより深く食い込み、肉を掻き分けめり込んでいきます。


「何なんですかあの人!」


 もう我慢の限界です。私は大慌てでお兄ちゃんの背後に隠れると、そっと顔を出して主将さんの様子を伺い続けました。廊下に散らばっていた破片のほとんどが主将さんの腕に埋まると、彼は奇怪な自傷行為を止め、赤色に着色されたガラスと血の滴る腕を真っ直ぐ私達に突きつけます。


「新発見だ。腕で掴まなくたって、腕で固定できれば加速して飛んでいくなんて」


 ガラス片は主将さんの腕の肉を内側から切り裂き、なんと私達目掛けて飛んできました。ガラス片に付着した血液が何本もの軌跡を描き、それはまるでガラスの弾丸と彼の腕が赤い糸で繋がっているようにも見えます。


 彼が間違いなく有能力者であると確信した瞬間、ガラスの雨が私達を襲い――。


「大丈夫か、六花」


 うずくまって逃げられずにいた私を、お兄ちゃんが覆いかぶさるような体勢で見下ろしています。両手を大きく広げたままにっと笑いかける彼の足元にぽたり、ぽたりと滴る液体に、鮮やかな血の粒に私は息を呑みました。


 私を庇い、お兄ちゃんはガラスの雨を全身に受けたのです。


「あ、ああああ――」


 凄まじい速度で飛来するガラス片を後頭部に、背中に、臀部に、太腿に浴びて無事で済むはずがありません。触診で怪我の度合いを調べてみたところ、貫通はしていないようですが背中にびっしりと透明の刃が突き刺さり、見るも無残な有り様です。


 六花、とお兄ちゃんが私の名前を呼びます。恐ろしく安らかで、今にも眠ってしまいそうな表情を浮かべながら。


「し、死んじゃ駄目ですよお兄ちゃん!」


 声が震え、目頭が急に熱を帯び始めるのが分かります。喉の奥を痺れるような痛みが襲い、手の痙攣が治まりません。私はお兄ちゃんの体を抱き寄せ、ひたすら彼の名を呼びます。


 お兄ちゃん、道開お兄ちゃん。


 いなくならないでください。私をまた、一人にしないでください。


「六花、もう少し優しく抱いてくれ。ハリネズミみたいで可愛いかも分からないけれど、一応僕は怪我人なんだから」


 軽い調子の男声に続き、からからと床に何かが落ちていく音が聞こえます。


 私は耳を疑いました。それは紛れもなくお兄ちゃんの声で、音を立てて床に落下した物体の正体は彼の体を抉ったはずのガラス片でした。見る見るうちに全てのガラス片が再生していく皮膚に押し出され、お兄ちゃんは無傷でそこに立っていました。


「そうか、六花にはまだ言ってなかったな」


 足元に散らばる真っ赤なガラス片を足で払いながらそう呟くお兄ちゃんに、私はただ唖然とする他ありませんでした。主将さんもあんぐりと口を大きく開けたまま、茫然自失といった様子でその場に立ち尽くしています。


「僕は不死身の殺人狂。例え手足をもがれ、頭を銀の弾丸で打ち抜かれ、心臓を杭で貫かれ、地獄の業火に一万年と二千年焼かれ続けようとも滅びることのない不死者だ。誰も僕を殺せないし、僕は誰も殺さないと決めた。だから」


 お兄ちゃんは勢いよく走り出し、主将さんに体当たりを食らわせます。一気に距離を詰められたことで主将さんに焦りが生じ、何の抵抗もできずに体当たりを受け、手足をばたつかせて体勢を崩しました。彼の僅かな隙を突き、お兄ちゃんのナイフが首筋に当てられます。三秒と経っていない、まさしく一瞬の出来事でした。


「僕はお前を殺さない。空巣さんとの約束なんでね」


 殺さないと断言しながら刃物を突きつけている矛盾は指摘せずにおくとして、私はよろめきながらも立ち上がり、お兄ちゃんの許へ駆け寄ろうと一歩踏み出します。ほぼ同時に主将さんの腕がびくんと震え、苦しそうに喘ぎながらお兄ちゃんの頭を両手で鷲掴みにします。


「掴めば飛ばせる。当たり前だろう」


 ばぁん、と風船の破裂音によく似た音が轟きました。主将さんとお兄ちゃんを中心に血飛沫という紅い華が開花し、二人の周囲を細切れになった脳が、頭蓋骨が、脳漿が、目玉がピンク色に彩ります。


 これだけの血肉を首の上に載せていた主は、頭を失ってなおナイフを手放すことなく主将さんを威嚇していました。


「お兄ちゃん、頭が――」


 私は『お兄ちゃんの頭が弾けた』という事実を理解しましたが、感情の方は思考に追従するのを止めたようで、悲しみも怒りも湧いてきませんでした。


 私に代わって驚愕していたのは、他ならぬこの状況を作り出した主将さんその人でした。自らの手で人間の頭を吹っ飛ばしてしまったことに対する悔恨もあるのでしょうが、彼はもっと別の事実に恐怖していたのです。


 体の司令部を失い、物言わぬ首なし死体と化したお兄ちゃん。主将さんは突きつけられたナイフを払おうとするのですが、主将さんの動きに合わせてお兄ちゃんの体が動き、遂にはお兄ちゃんから逃げ出そうとした主将さんにのしかかって捕縛してしまいました。


「何なんだ、お前一体何なんだよ」


 声を荒げる主将さんの眼前に、お兄ちゃんの首が迫ります。切断面は赤と茶色と黒と白の四色を中途半端に混ぜ合わせた色合いで、よく見ると肉や血管、骨がびくびくと躍動し、まるで言葉を発しているように見えます。


 頭をなくしても四肢を絡めるその姿は、ホラー映画に登場するクリーチャーそのものでした。少し違うのは、よろめきつつも大群をなして襲いくるモンスターやゾンビとは異なり、お兄ちゃんの体は膝をぐっと曲げて重心を落とし、絶対に主将さんを放さないぞという確かな意思をもって彼を捕えていることです。


「化け物が、この怪物が!」


 どれだけ抵抗を試みようとお兄ちゃんの束縛から逃れられない主将さんは、じたばたと手足を動かしながらお兄ちゃんを口汚く罵ります。しかし彼の罵倒は、恐怖に怯える者のひどく哀れな悲鳴にしか聞こえません。


「そうだな、僕はもう人間じゃないのかもしれない」


 先ほど背中に受けた傷とは違い、お兄ちゃんの頭はほんの一瞬で綺麗さっぱり元通りになりました。徐々に血肉が形成されるのではなく、新しい頭部をそのまま首の上に載せたみたいに生えてきたのです。お兄ちゃんはわざと頭を見せつけるように密着し、小馬鹿にした笑みを浮かべます。


 もはや主将さんに反撃の意思は微塵も感じられません。あの背筋が凍りつくような殺意は消え去り、歯をがちがちと震わせ、ただただ相対している不死身の有能力者に怯えています。


「お遊戯もこれくらいにして、そろそろ話してもらおうか。どうして六花を狙うのか、その理由を余すところなくたっぷりと、ね」

「俺は強いられただけだ。何で彼女を狙うかなんて、俺だって知らない!」

「それなら質問を変えよう。誰が、お前に六花を襲うよう指示した……」


 主将さんは迷っているのか、呻き声を上げます。視線が定まらず、何かに――お兄ちゃん以外の何者かに怯えているようにも見えます。


「誰が、誰。そう、あいつだよ。ああ、もう何で思い出せないんだ。おかしいだろう、違う。俺は別にあんたをからかっているわけじゃない。本当に答えようと思っているのに思い出せなくて、頭が痒いよ何で、何で何で何で。うぐうううう!」


 主将さんは狂ったように私を何度も指差し、


「六花、三枝 六花!お前なら知っている、知っているはずだ。この学校の生徒なら一度は見たことがあるあいつなんだってば!ねえ、分かるだろう、おい!」


 彼の言動は支離滅裂で、日本語を話しているのかどうかさえ怪しく思えてきます。頭部を失っても動いていたお兄ちゃんをクリーチャーに例えましたが、今なら両目をぎょろぎょろ動かして唾をまき散らす主将さんの方が怪物に近いと言えます。


「もういいよ」


 お兄ちゃんはため息混じりにそう呟くと、ナイフの柄を主将さんの顎に思い切りぶつけました。鈍い打撃音の後、「あぼっ」と奇妙な声を上げて主将さんは意識を失いました。床に伏した彼の姿を一瞥し、お兄ちゃんはナイフを袖の中に収納します(袖の中は一体どうなっているのでしょうか)。


「面倒なことになったな」


 頭を人差し指で掻きつつ、お兄ちゃんは言います。


「狙いは僕だと思っていたんだが、家族を殺された敵討ちみたいな、そういう類ではないらしい」

「主将さん、私を狙っていました。誰かから頼まれた、って」

「だから面倒なんだ。動機のない襲撃、逆に動機が明確であれば比較的対処しやすいが、敵の目的がはっきりしていない現状、僕達にできることは少ない。肝心の情報源も錯乱しているときた」


 敵の狙い。私を襲うことに、一体何のメリットがあるというのでしょう。


 そもそも敵とは誰なのでしょうか。主将さんの言葉を信じるならば、それは私の知る人物なのかもしれません。それも学校内で関わりのある人物。


「まさか――いえ、ありえません」


 確証は全くありませんが、ある人物が私の脳裏を過ったのです。


 生徒会副会長。図書委員も兼任するその人物とは、図書館で本を借りる度に顔を合わせています。しかしまともに言葉を交わしたこともない希薄な関係に過ぎない『彼女』が、そんなことをするはずがありません。


 私は大きくかぶりを振って疑念を頭から締め出すと、お兄ちゃんに歩み寄りました。


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