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月喰らう夜  作者: 白河田沼


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3/3

第03話 地獄へさようなら

タイトルを変更し加筆修正しました。

兆候寺輪廻先生。

彼の先生に対して知っていることは少ない。

例えば名前を知っている人は少ないだとか

例えば数学と体育の授業を担当しているだとか

例えば養護教諭を兼任しているだとか、


阿保みたいなロン毛と、阿保そのもののアホ毛以外は彼のことを皆何も知らないのだ。

最初”あの先生”や”養護教諭”などとしか言葉が浮かばなかったのも兆候寺輪廻、冗長で下らないように思える名前である事という理由である。

単純に名前を知られていないのだ、アホロン毛先生は。校内の誰も彼も。


けれどこの得体の知れない男こそが共犯者であることも変わらない事実なのだ。

私の思い付きに合わせ”感じればこそ動く”というポリシーを尊重してくれる他らない共犯者。

同じ穴の貉の共犯者。


故にエマはこの言葉を投げかける。


「僕達になんのようですか~アホロン毛先生~。」


「何してるガキども。」

そう先程とは違い語調を荒げ表情を崩してしかし彼は平坦に言葉を口にする。

それは言っていしまえば奇怪であり愉快、あまりに可笑しな道化そのもののようだった。

これでは子供の方がましに思えたのである。文字通り。


しかしアホロン毛先生改め兆候寺先生とて先生である。

その様子を見取ったのか私自身に目を向けた。

「やば」、そんな声すら出ない程の鬼の形相、まるで般若の面のように思えるその貌はしかし私とて見慣れていた、むしろ思うのだ。

どこか何か遊び事に置いていかれた子供のようだと




「その言葉遣い、まるで成っていないって言いたがってますよ。貴方のお口が。」



「何してるガキども。」

・・・・だからこそ言ってやった、いいや返してやった、

「何してるガキども。」という予想通りの言葉に「皮肉」を、兆候寺の心に「煽り」を。

顔を見てしっかりとただただ微笑みを浮かべながらけれど兆候寺は動じない。

むしろ般若の面のような鬼そのものの顔でこちらを凝視するのみである。

・・・しばらくして言葉にしたのは以外な言葉だった・・筈だった。



「何してるって言ってんだ、ガキども。」

その言葉に少し黙ってしまう。

怯えているのではない

驚いていた。

予想外で驚いていたのではない。

むしろその逆、予想通り過ぎて予想外だったことに驚いていたのだエマも私も。

まるっきり兆候寺の事を理解していなかった、

私はそう感じ、兆候寺に一歩、一歩近づき目の前に向き直れば笑顔で言葉にする。



「貴方は何をしに来たんですか。もう共闘はやめたとでも。」



「何してるって言ってんだ、ガキども。」

・・・話にならないエマも私もそう感じていた。

何をしたいのかもまるで理解できない、これでは人形と会話していたほうがましであるとも主に私が。

しかし彼は何がしたいのかまるで理解出来なかった。

どうして同じ言葉しか繰り返さないのか。

精神でも壊したか、

単純に体を病んでいるのか

解らない、しかし私は彼の胸に手を当て胸元に手を入れる。

そこを弄ればしかしそこには有った。

校門の鍵が、胸元のポケットに


「ソラ~、なんか言葉が卑猥だったよ~。」というようなエマの言葉を聞き流ししかし私は鍵をポケットから取り出し、歩をすすめる。

正直期待外れだ。もう少し一波乱あると思ったのに

これは兆候寺の「評価」を下げる必要がありそうだ。・・そうしていればもう既に扉の前、横に後ろ手を結んで愉快気に揺れるエマを横目で見てそして目の前の彼を確認する。


ただそこに在ったのは兆候寺輪廻という先生の姿だけである

どうしてか私はその事に興味をそそられた。


「さようなら、アホロン毛いいえ、さようなら兆候寺輪廻先生。御達者で。」

その言葉とバシンという共に扉が閉まった。

そうして私は校門の鍵を手に入れた、

兆候寺の顔を一瞥して少し安堵したその後に








挨拶とは到底受け入れられないものだ

どこかで見かけたこの言葉はしかし過去には存在しないらしい。

例えば感染症が流行っていた2020年代は全く少ないのだとか。

むしろマスク越しの会話やリモートワーク、ソーシャルディスタンスなど限られた空間と時間の使い方をして来たらしい。

現在も残るその文化はこの時期がきっかけとなり広まったのだと私は歴史で教わった。

この時代を生きている人々には700年近く前のことなどどうでもよく感じるだろうがしかしほんの少し待って欲しい。

文明の差も科学力の差も変わらないのだ、吸血鬼(ゴッド)のおかげで

私達と昔の先達たち、

一体何が違うのか分からないと言うのが今を生きる歴史学者の2020年代に対する言葉らしい。

ならば何が違うのか・・・それは他らない


警備を潜り抜け、学校を抜け出したエマと私はただ黙して電車に揺られていた。

ガタンゴトンなんていう聞き慣れた音から車窓の光景まで全てを摩天楼のようなビル群が貫く下らないその光景をじっとりと見ながらも私は揺られる。


目指すのは霞ヶ関。

依然国会議事堂が在った場所である。

理由としては単純に吸血鬼(ゴッド)が600年程前に攻撃した場所であり、今は廃棄されている都市であることと・・


吸血鬼(ゴッド)は地獄に通じる町につまりは霞ヶ関に存在するって~言われてるからだよね~。」

・・・・エマの言うとおりであった。

いつも通りの呑気な彼女の言葉に車窓を眺めながらもこちらも我ながら呑気にうんと頷けばしかしこう返される。


「ソラが霞ヶ関に行きたいっていったから電車賃驕って上げたんだからね~、吸血鬼(ゴッド)もいるだろう霞ヶ関には居るだろうけれど返してよ~」


「分かってるよ、ミナ・・じゃなくてエマ。今度こそ倍にして返すから、いい馬が見つかったんだ。」

「・・・・・」という何気ない言葉にしかし沈黙が起きてしまった。

どうしてか当然であろう、私は口を滑らせてしまったのだ。

その証拠にエマの顔がただただ純粋な微笑みに変わっている。これは怒っているサインである。

はっきり言って、まずい。

非常に良くない、なにせこの顔のエマは何をするのか分からない。

口に針を千本飲ませられる事になる・・再び。

その恐怖に口を噤んでいれば少し溜息を吐き出したてぎゅっと私の手を掴んだ。

途端ビクっと体が跳ねるのを自覚する。

怯えている事もしっかりと自覚する。

私の顔の前まで置かれたその握られた手を恐る恐る見ていればしかしエマは微笑んだ、ふわっと。

恐怖と失意の入り混じった怖気の奔る表情をしり目にエマは片手を放し耳にそっと添えこう私に言った、


「君は~少しまともに生きればいいんじゃないかな~はっきり言って。」


「私は生き方を変えないつもりだよ。だって()()の為だもの。」

その言葉に瞳が開かれる、

他ならないエマの瞳がその垂れ目ながちなけれど大きな金色の瞳が、しっかりと。

暫しの沈黙、何かの気配を漂わせながらもけれどふっと私を見た。

157cmと170cmそれこそがエマと私の身長の差である。

故にこそ自然とエマが見上げる形になるのだがしかし今は気に出来なかった。




()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()





しかしエマは言葉を発する。

まるで気付いていないように、あるいは気を許すように

まるで愛を囁くように、唐突に、そして突然に

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「ねぇ。好きだよ()()()()()

「・・・・・・」なんていう沈黙を示す意思など心の底から漏れるまでもなく、

少しだけの幸せと大半を占める恐怖を噛み締める間も無く

何かが潰れた音と叫声と耳に残る轟音と共に、

肉体が半分潰れた音とそれによるどうしてか感じた心の痛みと共に訳も分からず意識を私は失った。


エマが死んだという確信と共に








月が綺麗ですねと言ったのは誰だったか。

「I LOVE YOU」という言葉を上品に取り繕ったその言葉は本質的には嘘と変わらない。

取り繕うことは嘘と変わらないのだ。

まるっきりこっきり、

はっきりくっきり、

どっしりがっつり、

言葉を取って繕うことと何も変わりはしない、だって誰が「月」を貴方だなんて言うのだろう。

少なくとも私は自分だとは思わない、思えない。

話の意味から由来まで広がった今ならばともかく当時は気付く人なんている方が可笑しいくらいだ、

あの髭の偉人の授業を聞かない限りはどうあっても気付かない、否気付けない。

・・・600年程前以上の偉人の言葉にここまでの反論をするのはっきり理由が有る。

私は分からないのだ、恋や愛という物が。

恋愛というものが

自分を利用する時はとことんまで利用し尽くすし、

誰かの手を取る時はまるで童話のお姫様のように毅然として振舞う。

それこそが私で、それこそが「私」だった。



他らない私自身というものは物心ついた頃から理解出来た

自身に価値を見出さず。

自身に重きを置けない。

まるで自分を罰するように体を切り売りするのが「私」である。


内臓だって半分ほど売っ払ってしまった。

目玉も両方とも無く、この目は少し目が見える()()の義眼である。

自身の純潔なども誰かに捧げてしまった

”感じればこそ動く”というこの私、ソラが持つ呪いのままに

ならば今、私はどうするべきか、どう動くべきか、どう自身を罰するべきか。

そんな言葉が自然と心から零れ行く中で私は目を覚ました。


街灯の下

薄暗い路地裏の中で

白い帽子に詰襟。赤いラインの奔ったそれに袖を通した状態で





()()()()()()

・・・そんな予感と共に












路地裏を、歩く、歩く、歩く。

街灯の光の下を、歩く、歩く、歩く。

白い帽子に詰襟。赤いラインの奔ったそれに袖を通した他らない私が道を、歩く、歩く、歩く。

薄暗く霧立ち込めるそこはある種地獄の底を思い起こす場所そのものである。

霞ヶ関にはついたのだろうか・・そう考えつつ思い出した。吸血鬼(ゴッド)に死の神がいない事を。

とある地方の・・言い換えるならギリシャ神話でならハデスやタナトスなどが居ないのだ

彼らの中には一人も



出現している神々などはオリュンポス12神などでもない。

まるで有名な神と無名の神を絶妙に誰かにバレないようにブレンドしたような出鱈目具合。

正直滅茶苦茶である。


法則が見当たらないのだ。

彼の吸血鬼(ゴッド)の出現の場所とタイミングは

まるで()()()()()()()()()()()()()



つまりはこういう事である。

この事態は何者かが裏で糸を引いている、

そう都市をも壊す吸血鬼(ゴッド)を操る者が。


考えていればそこには居た。

しかし誰かの影を見つめれば私は息を呑む。

居たのだ死んだはずの人間が、もう帰ってこない筈の人間が目の前で肉塊になった筈の人間が。

黒髪ポニーテールの眼鏡少女、少女がただただ微笑んでそこに・・居た。

あり得ない、あっては成らない少女がそこにいた。


少女はこう言うのだ、恥ずかし気もなく躊躇いも無しに驚愕に染まった私の目を見つめて。




「久しぶり~ソ~ラ」

いつも通りの言葉を話すエマをただ私は抱きしめた

ぎゅっと、もう話さないように

ずっと、もう離れない為に。

霧立ち込める路地裏の中で街灯の照らす下で。




私は「エマ」に再会した。






()()()()


空からの攻撃によって10万人以上の人々が死んだという事を

言葉通りが再び町が一つ滅ぶという災害が起きた事実をエマから私は聞いた。




丁度、千代田区、

霞ヶ関がある場所であり月ノ神学校のある場所ではあった。

おそらく吸血鬼(ゴッド)の仕業であろうこの事態はしかし今私に考える時間を与えた。

場所の問題ではない。

場所には見当が在るだってここ千代田区なんだもの。

他の事も問題はない、

私に親はいないから千代田区丸々滅んでも問題はないもの。


ならば答えは一つ、この災害で死んだ人間である。

「そうか、あの子達は、クラスメイトは死んだのか。」それが私の言葉だった、

前途多難でけれど将来有望な彼らがこれからの将来を言祝がれず生きることも出来ないのがおそらく授業中に確定してしまった事、それがとても残念である。

・・そんな冗談のようで退屈かつ下らない言葉が自然と零れ出た。


「分類」だけであったのだ。

バスケ部の副主将とバレー部の主将だったか千代田区に住むであろう彼らはしかし生きてもいない。

サーブの機会を与えてくれてなんだかんだ普段から優しくしてくれた彼女らに労いの言葉が無い訳ではないのだがけれどどうあってもあの子達よりも目の前の誰かに成ってしまう。


”感じればこそ動く”という私のポリシー状こうなってしまうのだ。

あるいはこうと言えるのだろう、

私は昨日の敵よりも今日の友をこそ助けたいのだと


「それもある種、当たり前だよね~昨日の悪印象な人物よりも~今日の好印象の人物を助けたいっていうのも~」


「あの人達は悪印象では無かった。けれどそういう事なのかも知れないね、エマ。」

その静かな言葉にエマは頷き、私は考える。

両の目を売り払い目を瞑って見える振りをしていたあの時も私は昨日のバイヤーよりもエマや友達たちのことを想っていた。どうあってもそういうの人間なのかも知れないのだ私は。


まだ私が目を失っていなかったあの頃、エマに出会っていなければどうなっていたのか・・解らない。

最悪男に路地裏に連れ込まれ乱暴でもされそのまま路地裏にでも捨てられていたかも知れない。

現実にはあり得ないだろうと思うかもしれないがそういう連中と付き合ってきたのだ私は。

生きていても仕方の無い身かも知れない私にもけれど今はとても良く思えるのだ、

まるで天国のように充実していたのだ、エマや友人達との月ノ神学校での日々は。

・・そう思えば少し残念なのかも知れない。

少なくとも私はきっと何があっても彼らに手を挙げなかっただろう。



()()っていうのも肝要だよね~。男子もいるように聞こえるけれどあそこ女子校だから~。」


「全くだ。あそこは頭の悪くないお嬢様の学校だったのに、成績不良児は私とエマと友達だけだ。」

「え~みんな、頭いいですよ~。」という不満気なエマの言葉にしかし私はふと笑みが零れた。

仕方ないのだ、彼女が私を頭がいいと思い込む癖は”あんなもの”の良さについてだけで頭の良さを図ろうとするのは。学校の成績などどうでもいい、例えどれだけ頭が良かったとしてもそう思うことだろう。




・・そんな言葉を考えていればしかし間隔の空いた雑木林のような街灯の下を抜けた。

目の前の光と霧して暗闇の同居に飽き飽きしていればしかしそこには有った。

しかしそこには有ったのだ。

青銅の門とも言うべき青いそれが最後の街灯に照らされ、


「なんじゃこれ。」

どうしてかいきなり出現したそれにしっかり疑念と驚きの言葉を漏らしてしまった私であるが仕方がない。だってこの門には鍵がないのだ、鍵穴すらない。

エマから貰った少し見えるだけの義眼をがっつり両目に付けている私でもその継ぎ目の無さから理解出来た。鍵などどこにも入れられないのだと。

そして限りもないことは高さと阻む「境」の広さと大きさで確認出来た。



そしてどうしてか門の前に、街灯の下に脚を向けた少女がいた。

・・・エマ、エマである。

何故、いきなりそこに近づくのか

何故、足を向けることに躊躇わないのか

何故、一瞬、脚が震えていたのか

分からなかった、だからこそ問いかける「何故」と「・・何してるの」と光の前で



「分からないかな~こうしている意味、()()()には~」

光の中で、

何かが視界の中で揺れた。

思い出せない

思い出せない

思い出せない

そんな言葉の中でしかし一瞬理解出来なかったそれに私は理解する、否、した。



()()()()()()

()()()()()()()()()()



「え」という声が漏れた気がする。

「い」とも意思が零れた気がする。

「あ」とも言葉が落ちた気もする。


しかし唐突ながら私は理解した。

目の前の少女が()()()()()()()()

・・そして吸血鬼(ゴッド)はこう言った。




「タルタロスへようこそ・・」

他ならない私に面と向かって・・吸血鬼(ゴッド)はそう言った。







吸血鬼(ゴッド)になればその人は死んでしまう。

それがこの世の理である。

なにせ世界に不死身の人間など存在せずそして魂が吸血鬼という過ぎた力に耐えられ無いから・・と言うのが吸血鬼退治の専門家達、他ならないヴァンパイアハンターの言葉である。

不確定な要素の多く謎も多い吸血鬼(ゴッド)という存在はしかし一つ特徴があった。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


街灯の光の下、青銅の門の前でエマは言った。




「タルタロスへようこそ・・」

他ならない私に面と向かって

吸血鬼(ゴッド)としてエマは言った。

エマを吸血鬼(ゴッド)として判断したのに理由がある訳ではない。

合っていればエマがもう死んでいることを、死人であることを認める事に対して些少の躊躇いも無かった。

ただなんとなしに直感しのだ、この()がそうでなければ()()()()()()()()()()()()()()()()()



「・・・・一体どういう。」



「だってそうだよ!エマ、君は人殺しなんでしょ!あの時私に目を与えてくれた君が、貴方が人殺し!!アハ、人殺しなら私と同じだ!!!」

大仰に手を広げ大っぴらに唇を動かしけれど私はエマにただただ語り掛ける。

目の前にいるエマは人殺し(にせもの)だった。

私が体を売った人も人殺し(にせもの)だった。

して私も人殺し(にせもの)だった・・・・・・・今も時たまに気まぐれに人を殺している。

誘惑して手を引いて、手づから路地裏で殺している。

跳ね返って頬についた血、叫ばれた声に何かを思うよりもどうにも思わなかった私ではない。

むしろ嬉しかった、彼らが何かを思ってくれて、



「だって間違えていないんだから!私の過去は!!

あの時の凌辱に対する痛苦の感じ方(こたえ)は!!!「月」に会ったあの日みたいに!!!!」

・・・・叫んで、叫んで、叫んだ。

まるで目を失ったあの時みたいに、

臓物が引き出されたあの時みたいに

「月」とは吸血鬼(ゴッド)にとって養分の源である。

彼らにとってあの場所は生まれた場所であり、還る場所だからこそそこに吸血鬼(ゴッド)は居るそれこそがヴァンパイヤハンター達の言葉であった。

冷静にそう少しだけ振り返りながら私は叫ぶ、ただただただ叫ぶ。





「・・・貴方は間違えていない!タルタロスへ行こうエマ!!今日こそが私の命日だよ!!!」

まるで恋叫ぶ乙女のように私は言った。

エマの顔をしっかり見て、

晴れやかな気分で



・・・・・私は言った。










この少女は狂っている。

それこそがエマの言葉であり判断であった。

エマには人の心が分からない、エマはただの吸血鬼、吸血鬼(ゴッド)にも満たない端くれであった。

いいや違う、彼女は吸血鬼(ゴッド)だった。

少なくとも生まれる前から、

自身がどこから来たかは知らない、

自身がどこから生まれてきたかも知らないただ路地裏に一人立っていた

霧の埋め尽くしていたそこはおそらくはタルタロスへの路と同質あるいは同質以下の場所であったと瞬時に理解した。


肌寒い空の下、ただただ服も無くあるいていればエマは在った。

目の前の少女、ソラに。

その空色の瞳に魅せられなかったと言えば嘘になる


彼女は居た。

ただ一人で私を虚ろな眼窩で、()()()()()()見つめて

両の目であった場所から血を垂らしながら


だから与えた目を

だから与えた学を

だから与えた魂を

だけど彼女は歪んでしまった。与えたが故に、与えたが故に、

両の目すら与えたというのに見事に・・・だからこそ、今度は彼女を殺す。

殺さなければきっと彼女は救えないからこそエマはソラを殺す。


「・・・貴方は間違えていない!タルタロスへ行こうエマ!!今日こそが私の命日だよ!!!」

まるで恋叫ぶ乙女のように晴れやかに言葉を紡ぐソラの顔を見て、そう判断した。

もう、駄目なのだと、

もう、私では「彼女」を受けとめられない

だからこそ吸う、私の魂を込めて

だからこそ吸う、私の全てを込めて

・・・・・一歩、一歩と近づいていく中で彼女の貌を見つめる。

シルクのような金髪に魅入ってしまう空色の瞳、

通った鼻筋に黄金比のような顔はまるで彫刻のよう。

端的に言ってとてもいい顔であった

万感の微笑みを讃えたその貌に手を伸ばしけれどぎゅっと握りソラの首筋に顔を近づける。



「何してるの?エマ。」


「・・・・・・大丈夫、必ず殺す(救う)あの時みたいに」

じっとりとした言葉に湿りつくような気配を放った語調を持ったエマの言葉に、

しかしソラは少し間の抜けた顔をしたあと、少しだけ笑った。

友に笑いかけるように

安心したように



「大丈夫、私は死なないよ。死なずに救われる必ず。」


「・・・・そう~、なら安心した。」

そうして軽い言葉を口にしたあと首にぷつりと牙を突き立てる

ごくりごくりと嚥下していく。

喉が熱い。

舌が焼ける。

して頭が回る。

酩酊と泥濘のような矛盾した鉄錆の血の味わいの中で

赤い、赤い血液を呑み込んでいけばゆらりゆらりとソラの視界は閉じっていった。





地獄(げんせ)へ、さようなら、ソラ。」

そんな言葉と共にしてソラは目を覚ました。

白い帽子に詰襟。赤いラインの奔ったそれに袖を通しながらも

・・・ただ深い夜の中でエマ(ともだち)の死の実感と共に

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