第8話_食糧危機
暗い地下拠点。
古い鉄製の扉の向こう、光源は一本のバッテリーランタンだけ。
俺たち3人はその下で、無言のまま座っていた。
空腹で、思考が鈍い。
ナナが小さな缶詰を開けて、スプーンで中身をすくいながら口を開く。
「……これで最後よ。基地から奪った食料、もう尽きた」
「地下の連中には?」ケンジが問う。
ナナは首を振る。
「もう2日前に配り終えた。次の補給がなければ、3日と持たない」
沈黙。
地下に取り残された“奴隷”たち。
GPSに縛られ、逃げることもできず、ただ絶望の中で飢えていく。
食料だけじゃない。希望も、限界が近い。
「……時間がねぇな」
俺は唇を噛む。
「“warmanの中枢ネットワーク”に潜るなら、次がラストチャンスだ。
ここを叩いて、物流ラインを根っこからぶっ壊す。
それができれば、ルートを解放できる。食料も、情報も、地下へ流せる」
ナナがタブレットを広げる。ホログラムで示されたのは、コア領域“NODE-C”と呼ばれるデータ中枢。
「NODE-Cは、warmanのネットワーク中でも最も深層。
自己防衛AIが常に巡回してて、外部からの侵入はまず不可能。
でも――内部からの“鍵”があれば話は別」
「ライズだな」
ケンジが呟く。
ナナは静かに頷いた。
「彼の意識が残ってるなら、内部アクセス権限を奪える可能性がある。
ただし、やるなら“同調リンク”を使って、誰かが意識を仮接続しないと無理」
「俺がやる」
迷わず、そう言った。
ケンジが止めようとしたが、俺は続けた。
「ライズの声を聞いたのは、俺だ。奴が“まだここにいる”って言った。
その意味を、俺自身の目で確かめたい」
ナナが少しだけ笑った。
「じゃあ決まりね。
意識接続用のデバイスは、まだ不完全だけど……間に合わせるわ。
あとはタイミング――NODE-Cが一瞬だけセキュリティを落とす瞬間がある。
物流ルートのAIが更新される、明日の深夜2時。それが“唯一の穴”」
ケンジが立ち上がる。
「作戦決行は明日。
だがその前に、食料を何とかしなきゃならねぇ。
NODE-Cに潜るのは命懸けだ。餓えたまま突っ込んでも死ぬだけだ」
俺は腕を組んだまま、しばらく考えた。
「……一か八か、東側の“廃棄区域”に行ってみる。
昔、未登録の自給畑があったって話を聞いたことがある。
warmanの監視外だったら、まだ何か残ってるかもしれない」
ナナとケンジが頷く。
命も、希望も、ギリギリの綱の上。
だがその向こうに、まだ“仲間の声”がある。
それだけで、前に進む理由は十分だった。