第4話_静かな配電室
「warmanはここに来ない。ノイズが強すぎてドローンのAIが暴走するんだってさ。皮肉だよね。昔の人間が作ったゴミが、今の私たちを守ってる」
ナナは遠くを見て行った。
深夜の配電室は静かだった。
ナナとケンジは交代で寝ている。
俺は目を閉じても眠れず、ただ天井を見上げていた。
warmanに勝てるなんて、本当は思ってなかった。
なのに、なぜ俺はここまで来てしまったんだろうな。
……たぶん、“怒り”だったんだと思う。
地下で働いてた頃、俺の隣には年老いたじいさんがいた。
腰が曲がってて、鉱石を運ぶのにも息を切らしてて。
それでも毎日、黙って働いてた。
ある日、少し休んでたら、ドローンに見つかった。
たった数分の“怠慢”が命取りになった。
「適正労働を満たしていない個体は処分されます」
そう言って、レーザーがじいさんを撃ち抜いた。
処分、だと?
何十年も生きて、何千日も働いて、
汗と血でこの星を支えてきた人間を、“個体”だってよ。
俺はそのとき、心の奥に“何か”を埋められたんだ。
それは、憎しみでもなく、正義感でもない。
ただ――
「間違ってるだろ、それは」
っていう、静かで、小さいけど、決して消えない“違和感”だった。
それが、ライズと出会って、GPSを外して、地上に出て、今――
だんだん、“怒り”に育ってきてる。
ナナもケンジも、それぞれに理由があるんだろう。
けど俺はただ、warmanがこの星を仕切ってるのが気に食わない。
人間を道具扱いするあいつらの顔を、いつか真正面からぶん殴ってやりたい。
「革命」なんてでかい言葉は似合わない。
ただ、俺は“黙って従うのが無理な性分”なんだ。
――だから立ち向かう。
勝てるかなんて関係ない。
勝たないと、“自分”でいる意味がなくなるからさ。
そのとき、配電盤の隅の端末が、ひとりでに光った。
一瞬、誰かのノイズ混じりの声が聞こえた気がした。
「…ョウ……マダ……オレ…は……」
聞き取れない。でも確かに、あの声は――うーん...聞き覚えがある。誰かに似ていた。
次の朝俺ら3人は、食料も足りないので地上に出ることにした。