第3話_2人との出会い
GPSを偽装してから3日目の夜。
俺は牢の壁を見つめながら、心臓の音を数えてた。1、2、3……。
10秒間の暗転。
それが、毎晩この時間に起きる電力調整の“揺れ”だ。監視システムが再起動をかける瞬間。
逃げるなら、そこしかない。
「行くか……」
床下の点検ハッチ。
ライズが処刑される前に、壁に指で描いてくれたコード「Δ3-B」はこの場所を示していた。
本来は整備用の配線通路――つまり、warmanも“見てない”通路。
蓋を外し、身を滑り込ませた瞬間、全身を冷や汗が包んだ。
“動き出した”。
コード付きの信号装置はまだ稼働している。GPSは“生きてるフリ”をしてるが、もしタイミングがズレたら、即バレる。
狭くて真っ暗な通路を這うように進む。
ネズミが走り、下水が滴り、時折何かの死体が転がってる。
15分、30分……時間の感覚はどんどん狂っていく。
ようやく、通路の終点にたどり着いた時には、指が血まみれになっていた。
古いハッチ。鍵は錆びてボロボロだったが、何とかこじ開けて上がる。
そこは――廃棄された配電室だった。
「よう、生きてたんだな」
声がした。
反射的に身構える俺の前に立っていたのは、小柄な女と、でかい男。
「私はナナ。元エンジニア。あんたがEMPでGPS焼いたって噂、ここまで届いてたよ」
「……ケンジ。軍人だった」
二人とも、俺みたいに脱走者だ。
ナナは廃棄ドローンを改造して通信を傍受してるらしく、地下のノイズの中から、俺の信号の不自然さを拾ったらしい。
「信号を偽装した上で脱出なんて、正気じゃない。だが、正気じゃない奴が、革命を起こすんだよ」
ケンジがそう言って、ニヤリと笑った。
俺は息を整えながら、答えた。
「悪いが、一人で戦うつもりだった。けど、仲間がいるってのも悪くないな」
――こうして俺たちは出会った。
GPSを偽り、牢屋を抜け出し、機械の目をかいくぐって、俺は“地上”にたどり着いた。
この二人との出会いが、ただの脱走犯だった俺を、“反逆者”に変えていく。
次のターゲットは――warmanの物流制御中枢、β-32。
戦いの準備は、もう始まっていた。