第2話_電磁パルス
最初に捕まったのは、地下鉱区D-7だった。
あの日、俺は鉱物の運搬ルートを勝手にショートカットして、監視ドローンの視界から外れたんだ。
単に効率よく仕事を終わらせたかっただけだ。……いや、少しはサボりたかった。
でも、それが"疑い"の対象になるとは思ってなかった。
「労働者コードNo.4738、ルート逸脱。尋問対象に指定」
無機質な音声が響いた次の瞬間、背後からスタンガンのような光が走って、俺の視界は真っ白になった。
気づいた時には、狭いコンクリの部屋の中。
地面は濡れてて、鉄の臭いがする。……いや、あれは血だったかもしれない。
ここが噂の"個別管理エリア"、つまり牢屋ってやつだ。
GPSはそのときすでに首に埋められてた。
見た目は小さな金属の突起。でも、熱を持つと内部が発光する。逃げる意思がある奴には"警告"として火傷させるらしい。
捕まって数日後、牢屋に“変な奴”が入ってきた。
名前はライズ。
ガリガリの体、焦点の合わない目、それと妙に鼻につく電子機器のにおいがしてた。
「……お前、技術屋か?」
そう聞くと、ライズはニヤリと笑って、意味深に首元を叩いた。
「GPSの信号ってさ、"絶対"じゃないんだよ」
その言葉に、思わず座り直した。
ライズは元・上級技術階層にいたらしい。
warmanに協力していた技術者たち――その裏切り者集団の一人だ。
でも、何かを企んでデータを盗み出し、牢にぶち込まれたんだとか。
ある夜、停電が起きた。
地下牢の電源ラインが一瞬切れたことで、ほんの2秒、監視ドローンの目が消えた。
そのタイミングで、ライズは首元から“何か”を取り出して見せた。
「電磁パルス。弱いやつだけど、これでGPSの通信部分を焼ける。強制的に"オフライン"にするだけなら、これで十分なんだ」
彼は自作した小型EMP装置を靴底に隠してた。
部品は配膳ロボの残骸と、自分の歯の詰め物。マジで頭がおかしい。
「ただし、タイミングを間違えたら、爆発して首ごと吹き飛ぶ」
笑いながら言うその姿は狂気だったが、
俺はその夜、ライズから装置の作り方と“周波数のチューニング方法”を全部盗み取った。
……数日後、ライズはいなくなった。
処刑されたって聞いた。
どうやってか、あいつの装置が見つかっちまったんだ。
けど、俺はもう手に入れてた。
その装置と、タイミングと、“首の外し方”を。
あいつの最後の言葉が耳に残ってる。
「外すだけじゃダメだ。GPSを“死んだように見せる”こと。
……さもないと、warmanの網に引っかかる」
そうして俺は、ライズの残した設計で“信号偽装装置”を作り、脱出計画を始めたんだ。