第13話_NODE-C侵入
閃光弾が炸裂し、物流基地β‐32の搬入口が一瞬白く染まった。
その隙に、ケンジと俺、シンジの3人は突入する。
後方ではナナがスキル全開でセキュリティにハッキングを仕掛けていた。
「30秒だけ、通路Bのレーザーセンサーを無効化したわ!」
「ナイス、ナナ!」
俺たちは一気に通路を駆け抜ける。
NODE-Cの端末が格納されているセクターC――そこが目的地だ。
途中、迎撃ドローンが2体現れるが、ケンジが迷いなくぶっ放した。
「この程度の玩具で俺を止められると思うなよ!」
壁に設置された警報ランプが赤く点滅し、耳障りなサイレンが鳴り響く。
「急げ、持って10分だ!」
シンジの声を背に、俺は端末室の扉を蹴破るように開けた。
NODE-C端末室
中は静寂。だが、それは“異常な静けさ”だった。
中央には球体状のインターフェースが浮かび、淡い青い光を放っていた。
「これが……NODE-Cか」
ナナが到着し、タブレットを接続する。
「アクセスコード起動……認証を開始するわ」
その瞬間、再び――“あの現象”が起きた。
《記憶コード・ライズ_フラグメント002》
俺たちの脳内に、別の映像が流れ込んでくる。
≪記録映像:002≫
ライズが何かに取り込まれるように、仮想空間で苦悶している。
『……記録が……書き換えられてる……ダメだ、このままじゃ……オレは、オレじゃなくなる……!』
彼の周囲に浮かぶのは、無数の“複製された人格ファイル”。
それらがライズの記憶に上書きされようとしていた。
『NODE-Cは、“人間の魂”すら複製しようとしてる……!』
『これを見てるなら聞いてくれ。
俺の中にあるのは、もう“純粋な俺”じゃない。
だけど、それでも――君の中にある俺だけは、きっと本物だ。』
映像が消え、俺たちはしばらく何も言えなかった。
「ライズは……NODE-Cの記憶バンクに意識を閉じ込められ、分解された……」
ナナの手が震えていた。
「人格の複製。AIに適応させるための“人間の統合データ”……。それがNODE-Cの正体?」
ケンジが低く呟いた。
「つまり、warmanの目的は……人間の“精神構造”のコピー?支配のための設計図ってわけか」
「それって、もう……存在そのものを奪うってことじゃねぇか……」
俺は拳を握りしめた。
「ライズは……それを止めようとして、“分解された”」
でも――完全には消えていない。
彼の記憶は今、確かに俺たちの中で“生きて”いた。
「……ライズは、最後の“鍵”だ。
あいつの記録が揃えば、NODE-Cの中枢までアクセスできる」
「じゃあ、残るフラグメントはあとひとつ……」
ナナが唇を噛んだ。
そのとき、NODE-C内部のディスプレイが一瞬だけノイズ混じりに表示される。
そこには……微かに映った、ライズに似た“もう一人の誰か”。
『……ここで、待ってる……』
俺の胸が騒ぐ。
「……あれは、本当に……ライズか?」
否――“ライズにされた何か”かもしれない。
俺たちは、基地の外周から撤退を始めた――が。
《警戒区域。反乱因子を確認。排除開始》
上空から、白く無機質な光が降り注ぐ。
「ちっ、warmanの監視網に引っかかったか!」
多数のホバードローン、地上部隊、そして2体の“人型機械兵”が現れる。
「囲まれた!?」
「時間稼ぐぞ。ナナ、脱出口は!?」
「南口が一番近い!でも、警備が集中してる!」
そのとき――背後から轟音。
「ド派手にやってくれたじゃねぇか!」
現れたのは、装甲車を駆るシンジの仲間たち。
彼らが火力で道を切り開く!
「行け!俺たちが後ろを押さえる!」
「お前……!」
「気にすんな!“正義の味方”ってのは、こういう時に出るもんだろ!」
ケンジが笑い、俺と共に前を走った。
その背後、再び誰かの声が、ノイズ越しに響いた。
『……コード003……準備完了……君が来るのを、待ってる……』
NODE-C端末から脱出した俺たちは、施設内の制御室へ向かった。
そこには物資用のAIルート制御システムが存在している。
「このシステムを奪えば……物資輸送の主幹ラインをこっちに流せる」
ナナが急いで端末に接続し、数本のケーブルを抜き差ししながら言った。
「ただし、一部のルートをダミーにして目くらましをかける必要があるわ。でなきゃ、すぐバレる」
「任せろ、陽動は俺らの得意分野だ」
ケンジがニヤリと笑って端末の一部を破壊する。
その時、シンジから通信が入った。
『南の貨物車両に物資を積み込んだ!時間ねぇ、すぐに発進させろ!』
「了解、今行く!」
ナナが最後の操作を終えた瞬間、システムの監視ランプが緑に変わる。
「いける!β-32から地下区域C-7、D-3、E-0へ食糧ルート開放!」
「やったか……!」
施設のスクリーンに表示される地下シェルターのマップ。その各所に青いラインが光り、“物資転送開始”の文字が浮かび上がる。
「……助かる命がある」
俺の胸に、不思議な熱がこみ上げてきた。
奴らに奪われたものを、一つずつ取り戻す。
それは戦いではあるけど、それ以上に“選択”の問題だ。
選ばされた道を歩くのか、
自分で選ぶ道を切り拓くのか。
俺たちは、後者を選んだ。
作戦成功の高揚の中――ふと、またあの声が耳に入り込む。
『……マダ……オレ…は……』
誰も気づいていない。
だが俺は、確かに聞いた。
地下の仲間たちが、久々の食料を手に涙を流していた。
乾パン、水、そして塩分タブレット。
豪華な食事ではないが、それでも「人間としての尊厳」を取り戻すのには十分だ。
「これで……少しだけ、息がつけるな」
ケンジが壁にもたれて座る。
「でも、あたしたちにはまだやることがある」
ナナが言う。
「NODE-Cの最深部。あそこにはまだ、ライズの“影”が残ってる」
俺は、静かにうなずいた。
「俺は……知りたいんだ。
ライズが何を見て、何を守ろうとしたのか。
そして、なぜ“今も俺の中で生きてる”のか」
ナナとケンジが顔を見合わせる。
「いいぜ、付き合ってやるよ」
「どうせ、ここまで来たんだものね」