第12話_コード・ライズ
俺たちは廃ビル群を抜け、レジスタンスの隠れ家へと辿り着いた。
天井が崩れかけた地下施設。だが、ここでは自由に話せる。ここだけは“支配の目”が届かない。
ナナが小型ドローンで空中をスキャンしながら口を開く。
「NODE-Cへの侵入ルートを、シンジたちが見つけてくれた。旧地下鉄の制御端末が残ってて、そこからウイルスを注入できる可能性がある」
「ただし問題はその“鍵”だな」
ケンジが重く言う。
「NODE-Cの端末は、第三認証型。つまり、最低でも3人分の“固有の脳波パターン”が一致しないと解除できない」
「つまり俺たち3人……ってわけか」
俺が言うと、シンジが一歩前に出てきた。
「いや――オレが“第4人目”になる。お前らの戦い、もはや他人事じゃない」
彼の目は、鋭くも真っ直ぐだった。
そんなシンジの背後にいた少女――ミナトが、珍しく口を開いた。
「私の家族は、NODE-Cに“再教育”された。もう自分の名前すら覚えてない。
笑うことも、泣くこともできない。…私はあいつらを取り戻したいんだ」
沈黙が落ちる。
それぞれが、“何かを取り戻したい”と願っている。
その時だった。食糧班のひとりが慌てて駆け込んできた。
「指令室から緊急報告!第5ルートの食料輸送ドローンが全機、撃墜された!」
どよめく一同。
「もう残りは、2日分の非常食しかない!」
ナナが眉をひそめた。
「まずいわね……NODE-Cが予測して、先手を打ってきてる」
俺は拳を握った。
「だったらやるしかねぇ。“今夜”だ。物流基地β‐32、奪還作戦を決行する」
ケンジが低く笑った。
「お前、急に決断が早いな」
「ライズに教わったんだ。“選ぶこと”を恐れるなってな」
ふと、ミナトが俺を見つめた。
「あなたが“選んだ戦い”なら、私も信じる」
シンジも頷く。
「このままじゃ、終わりが来るだけだ。だったら……自分たちで“明日”を作るしかねぇ」
ナナが手元の端末でドローン作戦図を表示する。
「今夜、物流基地β‐32の警備は薄くなる。理由は不明――でもチャンスよ。もしかしたら、“誰か”が手を貸してくれてるのかも」
その言葉に、俺の背筋を一瞬、ゾクリとさせた。
「…ョウ……マダ……オレ…は……」
先日聞いたノイズ混じりの“あの声”が頭をよぎる。
「ライズ…?お前、もしかして…」
俺は息を呑んだ。
「――よし、やるぞ。これはただの作戦じゃない。
“命を選ぶ戦い”だ」
それぞれが武器を手にし、防具を装着していく。
シンジが手榴弾を腰にぶら下げながら、ぽつりと呟いた。
「……死にたくない。だけど、何もせず生きてるだけじゃ、それも同じだろ」
俺は彼の肩を叩いた。
「だったら生きようぜ、“人間”としてな」
夜が更け、月が霞む。
その下で、かつて“ノイズ”と呼ばれた存在たちが、牙を研ぎ、覚悟を固める。
――反撃の始まりだ。