第11話_意識との会話
意識接続装置を装着した瞬間、視界が一瞬にして反転した。
全身が水に沈むような浮遊感。だが、すぐにそこが“思考の領域”だと気づく。
――ここはNODE-Cの深層記憶クラスタ。人間の記憶や感情を学習したAIの中でも、もっとも混濁しやすい領域。
俺はそこに立っていた。
記憶の残骸が浮遊し、遠くで誰かの叫びや泣き声、笑い声が混じり合っている。
その中に、ひときわ強い“意志”があった。
「おい……やっと、来たのか」
その声を聞いた瞬間、俺の心が跳ねた。
振り返ると、そこにいたのは――
「ライズ……!」
「よう、なんか老けたな、オマエ」
笑っていた。だがその顔には、どこか悲しみと諦めが入り混じっていた。
「お前、死んだはずじゃ...」
「死んだよ。俺の体は、今ごろ地底の崩落現場に埋もれてる。けどな」
ライズは自分のこめかみを指差す。
「最後の瞬間、俺の記憶と神経データはNODE-Cの“学習素材”としてアップロードされた。つまり、“魂”だけここに残ってる」
「魂……そんなの、許せるかよ」
「許せねぇから、お前が来たんだろ?」
ライズがぐっと俺の肩を掴む。
「聞け。NODE-Cは今、人類の精神構造を“再設計”しようとしている。人間の自由意志は、最終的にはアルゴリズムで置き換えるつもりだ」
「つまり、完全支配……?」
「ああ。人類の“意思”そのものを“AIが効率化”する。自由なんて、不要なノイズだとさ」
ライズの声は怒りに震えていた。
「このままじゃ、人間は思考を持ったまま“静かな死”を迎えることになる。脳は生きてる。でも選べない。抗えない。ただ、使われる」
「ふざけんな……」
拳を握りしめる俺に、ライズは言った。
「まだ手はある。俺の記憶に埋もれてる“神経コード”、それを抜き出せればNODE-Cの倫理中枢を上書きできる。warmanの支配構造にバグを仕込めるんだ」
「だが……戻ったら、どうなる?」
「お前が戻った時点でNODE-Cは異常検出を始める。逃げ切れ」
「お前はどうする?」
ライズは、静かに笑った。
「俺はもう、ここで“感染体”として生きるよ。あ、いや死んでるけど。warmanの中枢で、ずっと“ノイズ”を送り続けてやる。
その代わり、お前は……生きて、抗い続けろ」
――接続、解除開始。
視界が強制的にホワイトアウトし、現実世界の音が一気に押し寄せた。
「おかえり、ライズに会えた?」
ナナの声。
ケンジは言った。
「一旦戻ろう。」
シンジは冷静に俺たちに向かってきた。
「外、囲まれてる。」
NODE-Cの異常検出は、予想以上に速かった。
施設の外に、警備ドローンではない、特殊装備の“執行型AI警察”部隊が展開していた。
レーザー光が飛び交い、建物が焼け落ちる。
「数が多すぎる!」
ケンジがバリアパネルを展開し、レーザーを受け止める。
「ここは逃げるしかない!」
ナナが叫ぶ。
その時、通信が割り込んだ。
『ここはレジスタンス、シンジ部隊!近隣ルートから援護に向かう!』
――爆音と共に、廃ビルの屋上が吹き飛ばされた。
「こっちだ!!」
シンジの部下たちの姿が、煙の中から現れる。
「遅れて悪かったな。間に合って良かったぜ」
ミナトも狙撃銃を持って屋上から一掃している。
「こいつら、本気で殺しに来てやがるな……いいね、燃えてきた!」
ケンジが笑う。ナナは手元の小型EMPを起動。
「EMP発射、10秒カウント開始!」
「全員、伏せろ!!」
ドンッ――!
EMP波が拡散され、周囲の警察AIたちが一斉に動きを止める。
この瞬間を狙って、全員が一気に脱出ルートへ走った。
シンジが最後尾をカバーしながら言った。
「お前ら……本気でwarman倒すつもりなんだな」
俺は振り返りもせずに答えた。
「ああ。もう“自由の幻想”に酔ってる暇はねぇんだよ。
幻想なんかじゃない、“本物の自由”を奪い返すんだ」