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田舎を訪れた旅人

全3話。4300字くらい。

 古びたスレート屋根のついた駅に降り立った男。

 彼は一見すると若者のように見え、離れた場所から見ると年寄りのようにも見えた。

 覇気の感じられない雰囲気がそう思わせるのかもしれない。

 駅には人の姿がなく、駅員の姿もなかった。そこはホームから自由に乗り降りできる無人駅だった。人気ひとけのない田舎にある無人駅のひとつ。


 さびれた駅舎は木造で、時代を感じさせるガラス戸のついた待合室もある。

 戸の開いた待合室のベンチには茶色い毛をした駅長が座っていて、電車から降りてきた男を黄色い眼で、じっと見つめていた。

 男は駅長には気づかずに待合室の前をとおりすぎ、寂れた駅の前に立った。


 男の身なりは黒い薄手のジャケットに灰色のズボン。動きやすそうな青いスニーカーを履き、肩から青いリュックサックを背負い、手には手ごろな大きさの黒いスポーツバッグを提げていた。

 どこかに泊まるつもりなのだろう。

 駅前にある小さなロータリーにタクシーが一台もないのを確認すると、男はとぼとぼと歩きはじめた。


 その後ろ姿は当てもなく放浪するような頼りなさで、警察官が見かけたら、認知症でさまよい歩いている老人ではないかと疑ってしまうかもしれない。

 幸いこの小さな市にいる駐在さんは、市に立ち寄った若い男の姿を見かけることはなかったようだ




 小さな市内には民宿がいくつかあるのだが、男はそのうちの一つに泊まる予定だった。

 駅からまっすぐに延びる道路の左右には、シャッターの下りた店舗が何軒も並び、中にはシャッターに茶色い錆が浮いているものもある。

 人通りのない歩道を歩きながら、男はあたりをきょろきょろと見回して、わき道に入る道路や建物を見ては立ち止まったり、何か考え込む様子で細い路地の先を見つめていた。


 駅からずっと先に行くと比較的大きな国道があり、そこには何台かの車が通行していた。

 道路の先には緑におおわれた山が見え、その手前には田んぼや畑が広がっていた。畑のすぐそばに建つ家や、あぜ道から見える景色はどこまでも広く、青々とした稲穂の波が風にゆられて打ち寄せると、生命感に満ちた青い匂いが男の鼻をくすぐる。

 まだ成熟には早く、まるで雨を焦がれるように風にゆられては、若々しい稲穂の匂いを町のほうへと運んでいた。


 生命にあふれた景色だと男は感じ、リュックからカメラを取り出すと、そうした風景をパシャパシャと撮りはじめる。

 東北にある小さな町。

 夏を前にした田舎町は、県をまたぐ車道だけがにぎやかに活動し、つぎつぎに大型車がとおりすぎては、静寂がそのつど訪れる。

 男はスマホを取り出して時間と地図を確認すると、カメラをしまってふたたび歩きだした。

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