第8章 時は廻り、月日は流れる
さらに数十年が経った。しかし、彼ら4人はまだまだ若かった。この間に、結婚もしたし子供も生まれたし、さらに孫も出来た。だが、彼らは死にそうになかった。魔法暴走の影響は、サラマンドラ社を消滅させるだけで済んだ。世界は、再び4社が独占する形になった。
「これは、あの魔法完全体の効力なんだろうか」
雪野はまったく衰えない体を見ながら言った。
「私と智弘が結婚して40年。雄一と幸琥が結婚して40年。私達は、ずっと生きるように設定されたみたいね。でも、もう定年。社長職は退いて名誉会長職に入るべきね」
「そうかもな。ワマラ国として成立してから45年。いままでさまざまな衝突が繰り返されてきたが、全て回避で来たのは、この憲法のおかげかもな。他の国でも独裁状態ながらも、いまだに生きながらえているから、向こうもしぶといな」
雪野は、空を見上げながら言った。
「そう言えば、もう、うち達65歳なんだね。親とも離れ、4人でどうにかしてきたけど、結局何とかなったし」
「そうそう。ロボット研究も盛んになって、今は宇宙開発をするって言っているそうよ。もうすぐ正月だけど、それでも研究熱は下がらないみたい。休暇するより研究したいって」
クスリと加賀が言いながらも笑った。
「私達も、もうすぐ社から離れる。老兵は去るのみ…」
こうして、今まで研究所としていたアパートを引き払った。
「さて、家に戻ったが、何もする事がないって暇だな」
雪野達は、同じ家に住んでおり、それぞれ、ほとんど同年代の子供達で部屋を構成していた。家の中は、常に笑い声であふれていた。その時、誰かが玄関に立っていた。雪野は、久し振りに会ったのに、すぐにそれが誰か分かった。
「父さん…」
「久しぶりだな。雄一」
「今頃何の用だよ」
少し怒りながら、雪野は実の父に対して言った。
「今まで、俺達を放っておいて、今頃のこのこ、何の用だよ」
「これを渡しに来た。お前が、出て行く前、直前に渡してきた物だ。両親のどちらかが死んだ時に、開けるようにと書いてあった。だから開けたんだ」
「そんなもの、渡した記憶がないけど…」
雪野は、父親からそれを受け取った。どうやら、どちらかが死んだ時に養うから家に来て欲しいとかかれているようだった。
「……分かった。家に入って」
「ありがとう…」
そのまま、彼はこの家の一員となった。
翌年、正式に雪野達は社長職を定年退職し、名誉会長職になった。
人の一生は夢のようにとても儚い。しかし、その一生は充実なものになるだろう。たとえ、世界が滅びても。たとえ、最愛の人がいなくなっても。たとえ、自分が人間ではなくなったとしても。人と言うのは、どんな時でも生きていける。それこそ、どんな場所でもどんな時でも。思いは人を強くする。世界は人が作る。だからこそ、人は強くなくてはいけない。どこへ行くにしても、その事を思えば生きれる。それこそが、人の本質だと雪野は思っていた。