第3章 巨大化する"しんこう"企業
ちょうど1週間した時、先生がアパートを再び訪れた。
「先生、どうでした?」
「ああ、そんなにすごいものは、これまでの宗教ですら無し得なかった、とんでもないものだと言う事だと言っていた。テレビ、見てみ」
「先生、この家にテレビはありませんよ。新聞も来ません」
「じゃあ、話そう。現在の宗教である4社、サラマンドラ社、シルフィード社、、グノミード社、オンディーヌ社だが、彼らはその技術はまやかしであると言って、いっせいに発言しているんだ。宗教管轄の大規模研究所でも無し得なかった思念性起動が、1ヶ月前にようやく起業したような会社に、作る事はできないって言う事らしい」
「でも、出来たじゃない」
加賀が先生に対して言った。
「そう。それを正式に発表はしていない。上級役員4名による共同声明として、第5世界魔法商工会議所で、記者会見をしてもいいと言う許可をもらってきた。すでに、試作品は渡してある。それを見た人達は、実際に出来たと言うだろうね」
「いつ行けばいいんですか?」
「いつでも構わない。とりあえず、今からでもいいと言う事だったから、案内するよ」
「ありがとうございます」
4人は先生に連れられて、久しぶりの外に出た。
外に出た時は、太陽がさんさんと降り注いでいた。アパートの周辺には、報道陣がたくさんいた。結果的に、車が商工会議所から特別にまわされていて、アパートに横付けされていた。すぐに車に乗り、発車した。
第5世界魔法商工会議所についた時は、昼になっていた。
「13:00より、カシャレカンヤンゴムリミアンコンド=ワマラ社社長及び、副社長3名による、記者会見が開始されます。第1会議室にて先着順とさせていただきます」
第5世界魔法商工会議所所長、ギャエル・クシドールが商工会議所の建物の正門の所で発表した。
12:30に4人は到着した。その足で控え室に向かい、その資料を用意していた。
12:45。最後の実験と称して、ご飯を作り出した。非常に上手に出来た。
そして、13:00。記者会見が始まった。横のドアから、雪野、平水、加賀、宮崎の順に出てきた。ギャエルが司会をしていた。
「これより、カシャレカンヤンゴムリミアンコンド=ワマラ社社長及び、副社長3名による、記者会見を始めます。まず、雪野雄一社長による、発表です」
フラッシュがたかれる。長机には白いテーブルクロスがかけられており、その上に、多くの録音装置が置かれていた。マイクも複数おかれており、その中で最も雪野に近いところにおかれていたマイクに向かって、座りながら言った。
「カシャレカンヤンゴムリミアンコンド=ワマラ社社長の、雪野雄一です。今回の記者会見は、現在研究途上であると言う、思念型起動の魔法物質を世界で始めて作成したと言う事でございます。これは事実であり、また、その実物を今回、記者会見場に持ち込んでまいりました。本社は、全世界中に対し、宗教以外のさまざまな企業が起業する事を祈っております。では、次に今回これを開発した、加賀彩夏副社長より、この仕組みその他について説明をさせたいと思います」
「ワマラ社副社長の加賀彩夏です。今回、私が作成したのは、思念起動型魔法結晶体構造を有する魔法物質、いわゆる、思念起動が出来る魔法解放可能魔法物質です。これは、考えるだけで、魔法解放が可能で……言うのもなんですから、実際にお見せしましょう。では、このテーブルの上に、焼き立てパンを出します」
そして、少しの無言の後、実体化した。
「これが、思念起動型魔法結晶体構造を有する魔法物質です。これは、我が社が国際特許を取り、なおかつ、第5世界の方々に対しては、無料で特許を使用しても構わないという事にしています。今回、開発した、この魔法物質は、現在、量産化を目指しておりますが、材料、魔法陣、情報漏えいその他を考えると、現在は細々と作り続ける事しか出来ないものと、考えております」
再び、ギャエルが司会をした。
「では、質問を受け付けます。質問がある方は、挙手をお願いします………」
こうして、1時間程度、記者会見が行われた。彼らは、一躍、時の人となった。
翌日には、株式公開を開始。弁護士兼税理士として、先生を雇い入れた。瞬く間に、巨大な企業になるまでに成長した。
1年後までには、その名を知らぬ者はいなくなっていた。それを快く思わない者達もいた。それは、宗教と呼ばれているあの企業複合体であった。彼らは、社長を神として戴き、さらに、数十億人の巨大産業を作り上げていたが、たった一社によってその牙城が崩されつつある事を危惧した。そして、共謀して、持ち株会社を設立。サラマンドラ社、シルフィード社、グノミード社、オンディーヌ社の上に、人類統合会社を設立し、ワマラ社に対抗しようとした。だが、ワマラ社は、無宗教の者達に、さまざまな資金援助、経済的援助、食糧援助を繰り返し、固有層を得た。こうして、ワマラ社は上場10年後までには、当時の4社と肩を並べるほどの巨大企業に成長していた。