第2章 ここからが本当の……
翌日、とりあえず段ボール箱に入っていた魔法石を精製してみて、とりあえずの材料を調えた。
「魔法結晶体って、これぐらいでいいんだよね…」
加賀は、キッチン兼客間兼会議室兼リビングに、魔法結晶体を段ボール箱に入れて持って来た。しかし、誰一人として起きていなかった。
「………」
加賀は、眠っているであろう3人を起こしに部屋の障子を開けた。
「こらー!いつまで寝てるんだー!」
3人はビクともしなかった。仕方ないので加賀は、布団を全部はがしてからリビングに戻った。
3人がおきた時にはすでに10時を過ぎていた。その時には、魔法陣を考えていた加賀が、たった一人でお昼を作っているところだった。
「おそよう」
加賀がおきてきた3人に対して朝の挨拶をする。
「おはよう」
寝ぼけた声で、3人が挨拶をする。
「加賀、早いね…」
「私、今日寝てないよ」
さらりと言う。それを聞いて3人は、おどおどした。
「え?本当に?大丈夫なの?」
「私は大丈夫。それよりも、幸琥、寝癖ひどいね」
宮崎は、そう言われてはじめて髪の毛を触った。
「あ、ほんとだ」
「早く水面台に行って、寝癖直してきなよ。それに、男二人もひどい顔ね。顔洗ってらっしゃい」
加賀の発言に、雪野が答えた。
「へーい」
平水が言った。
「まるで母親みたいだな」
「誰かがこんな役目しないといけないでしょ?」
「どう?寝癖直った?」
「うん、大丈夫。それと、みんな、お腹すいてない?空いてるんだったら、朝ご飯、そこに置いてあるから」
その時、インターホンが鳴った。
「すいません。サラマンドラ社です」
「4大宗教が早速来たか。どうしようか」
「当然追い返すべし」
社長である、雪野が玄関で応対する。
「すいません。お引取り下さい。俺達は、そちらと交渉する余地はありません…」
その時、口論する声が聞こえた。途切れ途切れに、グノミードと言う名前が出てくる。
「俺達って、有名なのかな…グノミードまで来てるようだ」
「何社来ようとも、関係なし。私達が定めた会社理念に従い、行動する事」
「だとすると、彼らはかわいそうだが、会社には悪い知らせを持って行くしかないな」
扉を開けると、4人いた。いっせいに彼らがこちらを向く。雪野は彼らに対して言った。
「ここまでお疲れさまです。しかし、俺達は"社の方針として"あなた方の誰とも提携をするつもりはありません。お引取りを」
そのまま背を向けると、4人が背中をつかみ、それぞれ言った。
「いえいえ、こちらとしても優秀な人材はいち早く確保しておきたいんですよ」
「だからこそ、我が社にきてもらいたいのです」
「我が社では、あなた方の言い値で給料を払う準備があります」
「だから、我が社へどうぞいらしてください」
雪野は、何も言わずに背中の手を全て払いのけ、そのまま部屋の中に入った。
部屋の外では、ずっと4社が出てくるのを粘っているようだった。
「さて、買い物とかどうするかな?」
「そんな時には、この魔法陣を使ってみよう」
「宮崎、いつの間にそんなもの作っていたんだ?」
「いいじゃないの、平水だって驚くと思うよ」
4人は、魔法結晶体に魔法陣記憶させるための準備を始めた。
「準備できた?」
「大丈夫」
「だったら始めるわね。今回の魔法陣は、単純なものだけど、それを組み合わせて構築されているから、ちょっと時間がかかるわよ。鍵は閉めた?」
「……うん。かかってる」
扉に一番近かった平水が言う。
「じゃあ、さっさと行くわね」
宮崎は、あっという間に魔法陣を書いた。それは、複数の同心円から成り立っており、それぞれに、さまざまな文字が書かれていた。全てを書ききった時、魔法結晶体をその中心に置き、手をその上にかざした。その瞬間、魔法結晶体と魔法陣は同時に同じ輝きを出し、魔法陣は魔法結晶体に吸収された。
「ふ〜。これで完成ね。あとは、ちゃんと動作するかを見るだけ」
宮崎は、とりあえず、念じてみた。
「……………」
すると、魔法結晶体が青くなり、何かがテーブルの上に実体化した。それは、ちょうど人数分の焼きたてパンだった。ホカホカと湯気が立っているその様子は、たった今、窯から出したような感じだった。
「うわ~、おいしそ~」
加賀が言った。
「確かにな、だが、問題はこれからだ。これが本当に食べれる代物なのかを確かめる必要がある」
「じゃあ、僕がいく」
平水は、誰かが言うよりも先に、パンを食べた。そして、飲み込んだ。
「…これ、最高だね!」
すかさず他の3人も手が伸びる。パンをちぎる際に、バターの香りがふんわりと部屋全体に広がり、食欲を誘う香りがご飯時の体の食欲中枢を刺激する。
「確かに、これなら商品化出来るんじゃないか?」
「だね。問題は、どうやって、量産化するかだね」
「我らだけでは手が足りぬ、しかしながらも、外の連中には頼みたくない…」
その時、宮崎が何か気がついた。
「そうだ!あの人に頼んでみよう!」
「あの人って、誰だ?」
雪野が聞いた。
「ちょっと待ってね。すぐに電話するから」
固定電話で、どこかに電話をかけた。宮崎以外の3人は、まったく誰か見当がつかなかった。
それから30分ぐらいした時、インターホンがなった。
「誰だ?」
白黒のインカムから外を見ると、外にはさっきの4社以外の誰かが立っていた。というか、4社の人たちはいなくなっていた。玄関ののぞき窓から外を見ると、雪野はその人に見覚えがあった。彼は扉を開け、その人を招きいれた。
「みんな、元気だったかね?」
「先生!」
先生と呼ばれたその人は、昔、無宗教となったために迫害を受け、当時4人が通っていた学校から追放された人だった。
「しかし、なんで先生が?」
「宮崎君に呼ばれたんだが、さて、何の用なのかな?」
「先生の専門は、商売関連でしたよね」
「ああ、そうだが?ここ最近は、第5世界の周りでしか活動できないから、ほとんど商品がないんだ」
「じゃあ、その商品の中に、思考で動き、いつでも新鮮な食べ物が得られると言うものはありましたか?」
先生の眉が少し動いた。
「いや、そんな事が出来るようになれば、国際魔法賞ものだ。もしかして、作ったのかね?」
「ええ、作り上げました。ちゃんと動作しますが、量産化をしていないのが現実です」
「そんなの簡単だ。自分の知り合いで、第5世界魔法商工会議所の人がいるから、そこに相談してみよう。ためしに、使ってみてもいいかな?」
「ええ、どうぞ」
先生は、何かを考えていた。すると、テーブルの上に、みかんが出てきた。
「先生、みかんですか…」
先生は、何も言わずに、それを手に取り、皮をゆっくりとめくった。そして、1房取り、口にゆっくり運んだ。そうして味わってから言った。
「…確かに、ちゃんとできているな。だが、問題が出てくる」
「どんな問題ですか?」
雪野が尋ねる。
「もしも、これと同じようなものが複数同じ場所にあったとする。そしたら、それ全てにその思念が送られて、一つでいいものが、大量に出現すると言う事がありえてしまう」
「その点なら大丈夫です。思念されているテーブルの上の数は、それぞれの魔法結晶体同士のコミュニケーションによって、一定の個数に保たれるように組んであります。そのような問題は発生しないと思います。現に、これと同じ魔法陣を組み込んだものが複数個の部屋の中に存在していますが、みかんはたった一つしか出てきませんでした。そのうちの一つは、先生が座っている座布団の下に置いてあります」
先生が、慌てて座布団をひっくり返すと、そのしたからは、少しくぼんだところの中に収まっている、小さな石が入っていた。
「だったら、安心できるな。では、これの値段は?」
「市場価格が不明なために、先生にお任せします。ただ、商品名は「いつでもどこでも場所問わず、おいしい料理が食べれます」って言う事です。よろしくお願いできるでしょうか?」
「社名は?」
「ワマラ社です」
「分かった。じゃあ、1週間ばかりしたらまた来るから。その時に結果を言う事にしよう」
先生は、アパートから出て行った。