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金髪姫と青友人

 日中の時間帯だというのに空は薄暗く、日の明るさなど微塵もない。見ているだけで息苦しくなるような雰囲気の中、一段と暗く禍々しい場所にお城があった

 外観は黒と濃い紫で塗られていて、お城と言われればきっちりとした設計を思い浮かぶだろうが、このお城は溶けたかのような形をしている

 少し離れた所に一棟だけ建っている建物の最上階にリンはいた。あれから150年の月日が経ち、成長した姿はかつての母親に似ている


(お母様、お兄様、コウ、天界のみんな……この150年間、忘れたことなんて一度もない)


 ソッと窓に触れると、拒絶するかのようにバチバチと手を弾かれる。これにも慣れたもので、連れてこられた当初は何度も脱走しようとしていたが、完璧すぎる見張りに自分を拒絶する窓や扉。色々と策を練って実行するもコウと遊ぶのとは訳が違って全て失敗に終わった。50年間足掻き続けたが、ポッキリと心が折れてしまったのだ


 それからはなにもせず、ただただ時が過ぎさっていった。連れ去られてきたものの特になにかをされたことはなく、時間になれば食事が運ばれてくるし洋服だってクローゼットに準備されていて、まるで客人のようにもてなされた。暮らすことに不自由は一切ないが、自分の足で部屋からでたことはない


 勢いよく扉が開き男性が二人入ってくる。最初こそノックをしてくれていたが無反応を続けていたら勝手に入ってくるようになった


「気分はどうだ」


 声をかけてきたのはメガネをかけている男性。その隣には自分をここへ連れてきた男性がニヤニヤと笑いながらこちらをみている。それに若干、身構える


「別にとって食やしねぇよ」


 ここで変に反応をしてしまったら、遊ばれるかもしれないため無反応を貫き通す


「相変わらずだな」


 このように生存確認的なものを朝、昼、晩と誰かがしにきて一方的な会話を聞いて出ていくのだが、今日は違った

 目の前に差し出された招待状。それはリンの成人の宴を開催するとのことだった


「あのお方が直々にてめぇを祝ってくれるんだとよ。ありがた〜く思え」


「そのための準備がある。あとはやっておけ」


 それだけ言って出ていく二人と入れ替わり入ってきた少女。動くたびに青いツインテールの髪がゆれていて幼い印象がする

 少女の手には採寸用のメジャーが握られていた。それを見ると無言で立ち上がり少女の目の前へと移動する。少女は緊張からか声が上擦っていたが、失礼します!と手際よく採寸を始めた

 とても細かくミリ単位までしっかりとメモ用紙に書いていく。それもそうか、お客人に対して粗相があってはいけない。特に会話を交わすこともなくすんなりと終わった


「ありがとうございました!」


「……こちらこそ」


「あ、喋った。す、すみません!!!!」


 採寸中、終始無言だったためもしかしたら喋れないんじゃないかと思っていたが急に言葉を発せられ驚きのあまり口から出てしまった


「あなた……名前はなんて言うの?」


「私はメルって言います。も、もしかして!?先ほどの失態を言いつけるおつもりですか!?」


 表情がころころと変わり、一人でてんやわんやしているメルを見て思わずクスリと笑みがこぼれた。それには当の本人も驚いたようで


「まだ……笑うことができるんだ」


 150年という月日はあまりにも長く、いつから声を発することがなくなったのか、感情を表に出すことはなくなったのか分からなかった。ポツリと出た言葉にメルは、笑えますよ!とニッコリ微笑みかけてくれる


「ありがとう。メルさん」


「私にさん等は必要ありません!メル、とお呼びください!あなた様はこのお城の姫様なのですから。敬語など使われては困ります」


 メルの口から出てきた[姫]という言葉。それに驚きはするものの納得することもできた。ここに連れ去られてきてからの待遇があまりにも良すぎたのは自分の立場が[姫]だったからだ。大天使の血を受け継ぐ者が魔界の姫になるとはなんという嫌がらせだろう


「メルは今、何歳なの?」


「この間、140歳になりました」


「ここで働いているの?」


 話せる相手が久々にできたせいか、150年間あまり会話らしい会話をしてこなかったせいか、メルとはもう少しだけお話しをしたくなった


「私の家系は代々この国、このお城にお仕えする身なんです。120歳を向かえる同時にここへお仕事をもらいに来ます」


「それって……奴隷ってこと?」


「い、いえ!奴隷とは違います!今の国王は奴隷には興味がないようですし、それにお城にお仕えすることができるので職に困ることはありません!」


 この年齢で職に悩むのか…つくづく育ってきた環境が違うことを思い知らされる。天界では200歳を迎え成人の宴を終えた者が職を探し、それぞれ就職していく。それまでは勉学や剣術に集中できるよう、各家庭でサポートがされていた


「メル。これからは私の身の回りの世話をしてくれない?いつもここへ来るのは騎士の人たちばかりで女の人が来てくれたことなんて一度もないの」


「私が姫様のお世話役ですか!?大丈夫なんでしょうか」


「私はあなたがいいの。メルがいい」


「姫様……ありがとうございます!では、そのことを含めて色々とご報告させて頂きますね!今日はありがとうございました!」


 そう言って退室していったメルは入ってきた時のような緊張感はなくなっており、なんだか嬉しそうにみえた。たった数十分の出来事であったが、こんなに楽しかったのは久々だ。いつも現実から目を逸らし、憂鬱で仕方なかったが今日はほんの少しだけ今をみることができた

 これから世話役になってくれるであろうメルとの時間を思い浮かべる。きっと彼女と過ごす時だけは楽しい時間となるだろう


 フと机を見ると先ほど、メルが使っていたペンがおいてあった。まだそんなに遠くへは行っていないだろうとペンを持ち、扉を開けようとする。いつもなら拒絶されていたがなぜかすんなり開くことができた。見張り役の騎士達もなぜか姿が見えず、今なら逃げれる絶好のチャンスだと思ったがメルを探しに行くことにした

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