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憎悪の涙

「や、やめて!」


 放心状態だったリンが急に男の腕へと飛びついた。そのおかげで隙はうまれたが、逆にリンから目が離せない


「お母様を傷付けたら許さないんだから!」


「邪魔すんな!」


 男が作り出した球体の中へと押し込まれる。真っ黒の水が入った球体の中に酸素などなく、呼吸をしようとすれば水が肺の中に入ってきてしまう。苦しくてもがいているも段々と視界がボヤけて頭がボーッとしてくる。必死に助けを求めるために母親へと手をのばすも途中で意識を失ってしまった。それでも球体の中から出すことはせず、そのまま入れっぱなしにされる


「そんなモノを子供に使ったら死んでしまう!リン!!!!」


 羽根がより一層輝きを強める。漸く、本気になったのを見て舌なめずりをする男のもとへ飛ぼうとした瞬間、トンっと誰かが背後にぶつかる


「コウ……?」


 振り返ると、べっとりと血の付いたナイフを握ったコウがいた。だが目は虚で焦点が合ってない


「あーはははははは!まさかそいつに刺されるとは思ってなかっただろ!」


 汚い笑い声が聞こえるも体に力が入らず、ドサリと倒れる。コウが持っているナイフは先ほど男が放ち続けていたモノだった。何度も何度もコウが背中や腹を刺し続けるのを見て、男は興奮を抑えられずベラベラと喋っているがなにを言っているのかうまく聞き取ることができない。届かないと分かっていてもリンに向かって手を伸ばす


「じゃあな、もう会うことはねぇだろ」


 リンの入っている球体を持って飛んでいくと指先から炎を出して庭園へと放つ。噴水は壊れてしまっているため水はなく、木々や花壇に引火してあっという間に燃え広がる

 刺された場所が悪かったのか、何ヶ所も刺されているからなのか自分の体から血が抜けていくのがわかる


(護れなくて……ごめんなさい)


 声も出さず、ただただ後悔をし謝ることしかできなかった。もう自分にはなにもできることはない、とそう思っていたが、ふとコウを見ると涙を流し手は震えていた

 あまり力は残っていないけれど、せめてこんな最期は迎えてほしくないと思い、おもいっきりナイフを叩き落とす。これで止まるか分からなかったが、ピタリと動きをとめ倒れた

 コウを自分の胸元へと連れてくると優しく抱きしめる。せめて、この子だけでも多少は痛くて熱い思いはしないように、と


 炎の勢いはますます激しくなり、自分の近くでパチパチと木や花が燃える音がする。助けを呼ぶ力も自力でどうにかする力もなく自分を包むようにせまってくる炎をただただ見ていることしかできない




 熱い、痛い、苦しい、痛い、痛い、痛い、痛い




 憎い、憎い、許さない、許さない、許さない




 自分の中に芽吹く黒くドロドロとした感情が涙となって外へ出ていく。こんな最期を思い描いたことはなかった

 きっと最期はみんなに看取られて、笑顔でお別れが言えるものだと思っていた。走馬灯のような映像が頭の中に流れてくる

 コウと出会った時、リンが産まれた時、ソラが産まれた時、大天使に任命された時、ずっと一緒にいたいと思えた人と出会った時、そして一番大好きだった人


「か、な……め」


 今、一番会いたい人。あの時、手を離さなければ一緒にこの国から天界から逃げていればこんなことにはならなかったかもしれない。誰しも自分が思い描いているような理想的な物事はおきないのだと身をもって知った

 楽しかったことや嬉しかったことを思い出していたのに、いつの間にか憎いことや辛いことを思い出していた



 大天使だから、たくさん我慢した

 大天使だから、みんなの理想でいた

 大天使だから、感情を制御した



 憎い。この国が、この世界が憎くて憎くてどうにかなりそうだ。もういっそのこと滅べばいいのに…

 そう思った瞬間、辺りが黒く歪んでいく

 ダメだ。大天使なんだからみんなのお手本にならなければいけない

 先ほどまでは痛いくらい熱くて苦しかったのに、今はもう何も感じなくなってきた。いよいよなにも考えられなくなってきて視界が霞んでくる



 そして最期に思った、こんな世界が憎くて大嫌いだと

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