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それぞれの物語り③

 誰の許可も要らねぇ。俺は俺の判断で行動するだけだ



「お兄ちゃん!一緒に遊ぼう!」


「あぁ!いいぜ!」


 50歳離れた妹はあまり家に帰らない両親よりは大切な存在で何よりも優先して動いていた。遊ぼうと言われれば遊び、出かけようと言われれば一緒に出かけ好きなものを買ってやる

 たった一人の妹を大切にしたいが、そろそろアカデミーへ通う準備をしなければならない。働かないとアカデミーへ入学することができなかった

 小さい妹を一人で家に残すことは気が引けたが騎士になって少しでも強くならないと身体的にも金銭的にも支えることができないのが現状だ



「お兄ちゃん……今日も遅くなるの?」


「今月は少し厳しいから今日は帰れねぇかも。朝は自分で準備することができるか?」


「うん!大丈夫だよ!一人で行けるようになったから」


 その言葉を鵜呑みにして朝から夜まで働いて家に帰る。うんざりする程の労働に見合わない給料…騎士になるまでの我慢だと言い聞かせ疲れた体を休める

 その日はたまたま早く帰ることができて家に戻るとまだ部屋の明かりが付いていなかった。妹はとっくに帰ってきてる時間のはずなのに不思議に思い中へ入ると誰も居なかった

 買い物にでも出ているのだろうか?迎えに行くためドアを開けると、ちょうど妹が帰ってきたようでぶつかる。鼻を掠める微かな血の臭いに妹を見れば顔は傷だらけで服は誰かに切られたように裂かれていた


「それ、どうした」


「転んじゃって。遅くなってごめんね!すぐご飯作るから!」


 今までと何も変わらない妹の様子だが、明らかに何かが違う。フとそこに置いてあったカバンの中を見ると教科書なども全て切り裂かれていた。自分で直したのか所々にテープが貼ってあり、なんとか教科書としての役割りを果たしている


「これ、なんだよ」


「か、勝手にカバンの中見ないでよ!」


「これはなんなのかって聞いてんだよ!!!!」


 ビクッとする妹を見てハッとする。これじゃクソ親父と同じだ

 優しく抱きしめると泣きながらはポツリポツリと話し始めた

 俺が働き始めた頃から同じ学年の奴らに毎日のようにイジメられるようになり、仲の良かった奴からも見放されてしまったこと、俺にこれ以上の負担をかけるわけにはいかないと黙っていた、と


「俺が働き始めたのはもう半年前だぞ……今まで我慢してたのか」


「ごめんなさい!ごめんなさいお兄ちゃん!迷惑かけたくなかったのに!」


 今まで秘密にしていた妹よりも今まで気付けなかった自分に腹が立つ。だが今は妹を落ち着かせ、誰にやられたのか原因はなんなのかを聞かなければ

 しゃくり上げている妹にコップ一杯の水を差し出すと少しずつ飲み始める


「雨の日に捨てられたワンチャンを見つけたの。弱ってたから少しお世話をしてたんだけど、それを見られてたみたいでそのままにするのは飼い主として虐待だって言われたの……でも家にはお父様の許可なしに連れて帰れないから捨てられてたところから離れたところでお世話をしてたんだけど男の子たちに見つかっちゃって……その子たちが私は犬をイジメる酷い奴だからイジメられても仕方ないって言って」


 心優しい妹は捨てられた犬を見捨てることができず世話をしてただけなのにイジメの対象となったのか?意味が分からねぇ


「なら今すぐ犬を引き取りに行こうぜ!そうしたら、ちゃんと育ててることになるだろ?親父には俺からなんとか言っとくからよ」


「もうワンチャンはいないの……男の子たちにイジメられて死んじゃった」


 それだけ言うとまた泣き始めてしまった。妹だけじゃ飽き足らず犬までイジメ、挙げ句の果て命を失ってしまったことにイラつきが最高潮になる

 今すぐそいつらの家に行って全員、同じ目にあわせてやりてぇが妹はそれを望まないだろう。それにアカデミーの入学が近いため下手なことをして取り消しになるのだけは避けたい

 だが、一応聞いておこう


「お前はどうしてぇんだ」


「……殺して」


「はっ?」


「私、今までずっと我慢してたの。でもワンチャンが殺されて分かった……生き物なんてすぐ消えちゃうんだって。もうこんな思いはしたくない!辛いよ!」


 それだけ心に大きな傷を負ってしまったのだろう。誰にも言うことができず半年の間、辛い思いをし続けたのだ

 漸く言えた本音はかぎりなく願望に近いものだろう


「お兄ちゃん今までずっと私の味方だった!だからやってくれるよね!?私のお願い叶えてくれるよね!?」


「少し落ち着け。今のお前は怒りで冷静じゃねぇ」


「お兄ちゃんも私を捨てるんだ……なら自分でやるよ!」


 果物ナイフを持って家から飛び出してしまった、慌てて後を追いかける。アカデミーより妹が罪人となる方が辛い。なによりも大切な存在だ

 追いつくと妹はすでに家の中で暴れていた。無理矢理、ハガイジメをして止める


「こいつが!こいつがワンチャンを殺したの!だから同じ目にあってもいいの!」


「俺はお前が罪人になる方が辛れぇよ!」


「お兄ちゃんに私の気持ちなんか分からないよ!!!!」


 兄妹で言い合いをしていると見回りに来ていた騎士の人たちが訪ねてくる。この家の主人がどう説明したのか分からないが、なぜか俺たちは強盗の容疑をかけられ城に連れて行かれることに

 ここの息子が犬を殺したことを説明するも証拠がないとひと蹴りされ、ある部屋に通されると親父が居た。2人で目の前のイスに座る


「2人してなにをしているんだ!ベル、俺が不在の間はしっかしりしろと言っただろ!」


「こいつがイジメられてたんだよ!それで急に殺すって飛び出して行っちまって」


「イジメだと?あそこのお宅はいつもよくしてくれている。イジメなどするはずがない」


「現にこうして怪我までさせられてるんだ!こいつの気持ちを考えてやってくれよ!」


「証拠がない。それにイジメられるような弱い奴が悪い。私の子供ならもっと胸を張っていろ……はぁ。今回のことはこちらでどうにかしておく」


 それだけ言われ城の外へ連れて行かれると、もうどうしていいのか分からなかった。妹の手を引いて家へと戻る

 強盗と言ったあの主人にも腹が立つし、親父の態度にも腹が立つ


「お兄ちゃん……私が悪いのかな」


「大丈夫だ。今日はもう寝ろ」


 さて、これからどうしてやろうか。貴族の皆様は何よりも証拠を大切にするようだ

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