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それぞれの物語り②

 目が覚めると叔父が心配そうに見ていた


「気が付いたか!良かった……お前が居なくなるんじゃないかと不安でどうにかなりそうだった」


 何かに頭をぶつけたことは思い出せるのだが、どうしてそうなったのかが思い出せない。幼い頃から叔父たちのところで育てられ毎日、毎日辛く苦しい思いをしていた…そうだ、僕は人形として過ごしていた

 そこでフと思った。こんなに心配してくれている人をなぜ嫌っていたのだろうか。思い出したくとも霧がかかったかのように何も思い出せなかった

 それを叔父に伝えたら何も心配する必要がないと言ってもらえたため、これ以上無理に思い出すことをやめた



 数十年が経ち、いつもより上機嫌の叔父に何か良いことがあったのかと聞いたら僕が城の騎士に任命されることを教えてくれた。これからは王のために働くことになるようでここから離れることになると知った時は、なぜだか分からないがホッとした

 昔のように辛い思いをすることはなく、どちらかと言うととても大切にされていたように感じたので、この安堵がどこからきたものなのかが分からない

 色々と準備をして城へと向かい色んな説明を受ける。周りにいる人たちはこっちを見てヒソヒソと何かを言っているが、こんなことが昔もあったな…なんて懐かしく思った瞬間、ズキリと頭が痛む。僕は人形なのだから、もう昔のことを思うのはやめよう



 王に命じられ誰も近付かなさそうな塔へと入っていくと声が聞こえる。出して、だの帰して、だの何回も何回も言い続けていた。その声は諦めることを知らないようで、なぜかさっさと諦めてしまえばいいのにと思ってしまった

 部屋へ食事を届けると誰かが昼に持ってきたであろう食事が全く手を付けないで置いてある。それにとてもイライラした…食べ物をもらえるだけでもありがたいのに

 昼の食事を持って部屋から出ようとすると服を掴まれていることに気付く


「なに」


「ここから……出して」


「王に聞けば」


「なら王をここに呼んでよ!」


 彼女の手が僕の持っていた食事に当たり床へと落ちてしまった。それを見た瞬間、幼い頃の辛い思い出が一気に頭の中へ映し出される。激しい頭痛と吐き気にその場で蹲ると待機していた騎士たちが入ってきて連れ出してくれた

 だが、頭が痛すぎてもう歩けない


「助けて……お母様」



 目が覚めると、見たことがある人が声をかけてきた


「気が付いたんだな。大丈夫か?」


「だれ」


「お前と同じ騎士のシン」


「そう」


「なにがあった?」


「何って?昔からの頭痛が酷くて倒れただけ」


「そうか。お前も姫様も怪我がなくて良かった」


「姫様って誰」


「お前が食事を持って行った人だ。王から命令されたんだろ」


「そんな人に会ってないけど」


「なに言ってんだ」


 それはこっちのセリフだ。僕は持病の頭痛が酷くなって倒れて気が付いたら、ここに居ただけで誰かに会ったりしていない。そこから数回ほど、シンと言い合いをしていたがお互いに話しがすれ違い過ぎていたので強制的に終わった

 治療師に診てもらい、数日安静にしていれば大丈夫とのことで公務を再開する

 何も気にすることはない。ただ叔父の言ったことに従っていれば痛いことも苦しいこともないのだから



 成人の儀に参加し()()()姫様のことを見た。王は姫様を護ることを優先しろと言うけれど姫様ならば部屋から出ることはないだろうと思っていたのに全く違ったようでシンは大変そうだ。それに奴隷を世話役にする変わり者なようで、なるべく関わりたくはなかった

 そんなことを思っていたのに晩餐会の知らせを姫様に伝えてきてほしいと王に言われ、嫌々ながらも報告をしにいく。こうして面と向かって会うのは()()()なので挨拶をする。するとまたズキリと頭が痛み早々と退室する



 少しだけ姫様のことを不思議に思っていたら、バルコニーで鉢合わせる。姫様は泣いていて、なぜだか涙を拭わないといけない気がした。昔、誰かにしてもらったような気がしたから…思い出さなくていいはずなのに思い出そうとしている。姫様を見ていると誰かを思い出せそうな気がした



 叔父から姫様を殺すよう命じられた時は、なんとも思わなかった。僕は従うだけの人形なのだから

 言われた通り一撃くらって見殺しにしようとした…でもできなかった。彼女の暖かい光りに触れたら痛みは全て消え去り、懐かしいことを少しだけ思い出すことができた

 その人は誰だか分からないが大泣きしている僕を優しく抱きしめてくれていた



 騎士になって初めての失敗は叔父の命に関わるものでベルに言われたとは言え、要らないと言われれば人形は捨てられる。あの時、不安でどうにかなりそうだと言っていたのも嘘だったんだ

 頭の片隅にいつも居る優しい声の人を思い出せないのが心残りだが、誰からも必要とされない人形は存在してはいけない。助けてほしいのに助けてほしくなくて、もう終わらせようとした時、姫様が助けてくれた

 姫様は僕を人だと言って抱きしめてくれた。あの人とは違ったけれど、この暖かさは人形に感情を取り戻してくれた。姫様と一緒に居れば、無くした記憶をいずれ取り戻せるかもしれない

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