それぞれの物語り①
気付けばいつも一緒に居た。事故で両親を失い孤独となった俺に大天使様は居場所を与えてくれた
貴族ではない俺を娘であるリンと共に遊ばせてくれたり、勉強も学んだ。どこかに出かける時は必ず連れてってもらえた
これを当たり前だと思ったことはなく早く騎士となって恩返しがしたいと日々、訓練に励んでいた。最初は敬語を使ってどこか距離をおいていたが、リンは無理矢理にでも距離を縮めてくるような人で少し苦手だった記憶がある
「コウいつも怖い顔してる!そんなんじゃ女の子に怖がられちゃうよ!」
「カッコよくなりたいから騎士になりたいわけではありません」
「そうだとしても!騎士が怖い顔してたら声をかけてもらえないよ!怖い人から話しかけられるのも嫌だし!」
可愛らしいドレスに身を包んでいるのに発する言葉は全く可愛くない。この頃は正直言って会いたくなかった
でも、誰かが困っていると地位など関係なく必ず助けにいく姿には尊敬した。俺が手を差し伸べても無視するやつらでさえ、リンが差し伸べれば手を取る。それに嫌気がさしていた頃、彼女に対する印象がガラリと変わる出来事がおきた
その日は訓練が長引いてしまったため、いつもより帰るのが遅くなってしまい近道をするため普段とは違う道で部屋へ戻ろうと歩いているとシクシクと泣き声のようなものが聞こえてきた
こんな誰も通らないようなところに誰が居るのだろうか…?
不思議に思って声のする方へ向かうとリンが暗い部屋で泣いていた。いつもニコニコしていて泣く姿なんて想像がつかなかったが、目の前で泣いているのを黙って放っておく訳にもいかず声をかける
ビクッと肩を揺らすと急いで涙を拭き、いつも通りの様子で接してきた
「なぜ……泣いていたのですか?」
「寂しくなっちゃっただけ、でももう大丈夫」
「大丈夫に思えません。誰にも気付かれないような場所で一人、泣いているなんて」
「……私、独りぼっちなの。お母様はいつも国を優先して働いてるし、お兄様はたまにしか会えない……お父様は会ったことがなくて、みんなが親ナシだって陰で言ってるのを知ってる」
そう言ってまた大粒の涙を流し始めた。いつも健気な彼女の内側には誰にも分からないような孤独感が渦巻いていて、初めて弱いところを見た気がした
ずっと幸福だと思っていたが実は自分と同じ孤独感を感じていたことに驚いた。それと同時に孤独と孤独が一緒に居れば痛みを共感できるとも思った。その日はリンを抱きしめて気が済むまで泣かせ部屋まで送り届けた
それから数日後、いつもは敬語で話しをしていたがなんとなく敬語を使わずに普通に話しかけると一瞬、驚いた表情をした
「その方が家族って感じがして好きだな」
「俺は家族じゃない」
「この前はとても優しかったのに今日は優しくない!でも、ありがとう」
リンから言われた家族と言う言葉がずっと頭の中に残ってて、訓練中に考え事をしてしまい怪我をした。大天使様にリンと同じように接してもらっている俺は誰からも見向きされず治療すらしてもらえなかったため、そのまま帰宅した
傷口が痛いわけではないのにどこかがとても痛くて流れそうになる涙をグッと堪える
「コウ!怪我してるじゃない!」
一番会いたくない人に会ってしまった。今日は本当に最悪な日だ
「痛そう……すぐに治すから!」
天族の中でも大天使に近いリンの力は暖かくて優しい。誰も優しくしてくれない中でリン一人だけはこうして優しく接してくれた
リンだけは俺を見てくれて、話しもしてくれて、同じ孤独感を持っている
「俺、リンの兄になる」
「お兄様ならもういるよ?」
「アオ様は滅多に屋敷に戻らない人だ。アオ様が居ない時は俺がアオ様の代わりになって、リンを護ってやる」
「本当!?コウがお兄様になってくれるなんて!すごく嬉しい!」
花が咲いたかのように笑顔になったリンを見て、いつの間にか痛みは無くなっていた。その日はなぜかリンがベッドに入ってきて一緒に寝ることになった
恥ずかしかったが初めて人の温もりを感じながら眠りについた
2人で遊んだり一緒に居ることが多くなり、訓練中にもわざわざ足を運んで見にきてくれるくらい仲良くなることができた
立派な騎士であれば剣で誓いを立てるのだが、まだ子供だった俺はシロツメグサで作った指輪を誓いとして渡した
「結婚指輪みたい」
「そ、そんなんじゃねぇよ!これは誓いだ。なにがあってもお前を護る」
「うん!ありがとう!信じてる!」
いつも通りの日常。隠れるのが下手なのに、かくれんぼをしたいと言うリンに渋々、了承をして鬼を引き受ける
なんとなく、かくれんぼの気分じゃなかったから早めに見つけて次の遊びをしようとしていた。だが、どれだけ探してもリンを見つけだすことができなくて大人に頼んで捜索を続ける
大天使様が何かを見つけて入っていくのが見えた。それに続こうとした時、付き人だった人に首を絞められる。段々と意識が薄れていく中、思い浮かんだのはリンの姿
ここで終わるわけにはいかない、と近くにあった刃物で目の前の人物を刺す
何度も何度も刺す。自分が殺されないようにリンとの約束を守るために…ぼんやりと視界が見えてきて一緒に倒れていたのが大天使様だと分かった
じゃあ俺がずっと刺していたのは…




