はじまりの物語り
「会いたかった!」
「僕も」
美しい洋服に身を包んだ女性リエルとボロボロの洋服に身を包んだ男性カナメ
抱き合う2人は身分違いの恋をしていた
「……早く私たちが堂々と会えるような国にしなければ」
「そうだね。手伝うよ」
「私に任せてください。そんなに頼りないですか?」
「違うよ。君一人にだけ頑張ってほしくない」
「あなたも……戦ってくれているではありませんか」
当時の天界では貴族は貴族としか結ばれることを許されなかった。城で働いてても貴族ではない僕と会うには人目がないところでのみ。漸く静かなところを見つけてひっそりと会っていた
だが、それも長くは続かなかった
「大天使様になろうお方が貴族でもない天使などと許されるはずがありません!」
「姫様がそのようなお考えをもてば民たちも同じ過ちを犯します!」
「貴族ではない方と関係をもつことは過ちではありません!」
「姫様、ご自分の身分をお忘れですか?このままでは彼に消えて頂くしか方法はなくなります」
「なぜそのようなことを!」
「でしたら、お分かりでしょう?」
嫌味や脅しのようなものを散々言われる会議を途中で抜け出すと、いつもの場所へとやってくる。そこにはカナメもいた
「大丈夫?今日も酷いことを言われた?」
「あなたも……随分、酷い姿です」
カナメの服は切り裂かれたかのようにビリビリに破れており、殴られた痣や擦り傷などたくさんの外傷があった。別れさせようとする官僚たちによって2人は日に日に傷を負っていった
そんな日々に耐えていたある日、官僚たちの中に魔界と繋がっている内通者がいることが発覚した。それを見逃すわけもなく内通者は僕だと決めつけた
「これはなにかの間違いです!彼がそのようなことできるはずはありません!普段、見張られているのですよ!?」
「ですが事実、彼らはアイツが行っていた。と証言しております」
「言わせたのでしょう!?」
「どこにそんな証拠が」
「探します。こんなの間違っていますから」
そう言って扉から出ると鎖に繋がれ拷問でもされたのではないかと思うほど傷だらけのカナメが歩いていた
「なにをしているの!?今すぐ鎖を解きなさい!」
官僚たちは口を揃えて僕が絡んでいると証言し、彼女から引き離そうとした。彼女は必死に無実の証拠を探したのだが証拠は見つからず、誰も無実の証言もしてくれなかった
僕は犯罪者として判決を待つ罪人となってしまい、判決が下される日程も異例の早さで明日の夜となった
「あなたは必ず死刑にされます……ごめんなさい!私が無力なばかりに!」
「泣かないで。君のせいじゃない」
「あなたのこんな姿はもう見たくない。お願いです……私とともに逃げてください」
「そんなことはできない。君は大天使になるんだ」
「いやです!あなたが居ない天界の王になんてなりたくない!」
「……分かった」
「深夜、ここの見回りが終わった頃に来ます。必ず逃げましょう」
深夜、言われた通り一緒に逃げだした。だが負傷していた僕は速く走ることができなくて、すぐ騎士たちに追いつかれてしまい力を振り絞って彼女だけを逃した
そしてその状態でミカと戦わされ堕ちた
それだけで終わればよかったのに…数百年経ったあと、また会いに行ったんだ。大天使となった彼女はとても美しく立派になっていて思わず見惚れてしまったよ
「誰!?」
人の気配を感じたため咄嗟に声を出すも姿を現さない
「出てこないのなら人を呼びますよ」
そう言われてしまえば出ていくしかない。姿を見せると涙を浮かべながら泣きついてきた
「会いたかった!ずっと、ずっとあなたのことを忘れることができなかった」
彼女にはもう子供がいて家庭をもったと思ったのだが、跡継ぎを産ませるために無理矢理関係をもたされた相手との子供だと知った時は殺意が沸いた
力をある程度、制御できるようになった僕は少しの間だけ普通の人として彼女の側で過ごすことにした
でもミカとの戦いで後遺症を負ってしまい、あまり喋ることができない僕を怪しく思った者たちが動き出したことで離れなければいけなくった
「そう、ですか……楽しいひと時をありがとうございました」
「こちら……こそ」
「最後に一つだけお願い事をしても良いですか?」
「うん、なに……かな」
「もし、この子が女の子だったら……あなたが育ててください」
「なぜ?」
「同じ悲しみを味わってほしくない。道具にはならないでほしい」
彼女は愛おしそうにお腹を撫でながらそう言ったのをみて、今度こそは約束を護ろうと思った
「君を……魔界へと……連れて……きたのも……婚姻を……結んで……ここに、縛り付け……たのも……全ては……彼女の、願いだった……けど、想像以上に……辛った……みたい……結局、彼女は……堕ちて……しまった……のだから」
シファのその言葉になんて返したらいいのか分からない
「魔界の……姫にして……護ろうと……したけど……自分の……意思を……しっかりと……もってる。リンは……彼女に……とても、似て……る」
『50年しかお母様と過ごせれなかったけど、今の話しを聞いて私はとても愛されていたんだなって思います』
「そう思って……くれて……うれ、しい……ッ!?」
「シファ様!?」
急いで回復をしようとした手は振り払われた
「なにを!?」
「今まで……たくさんの……悲劇を……見た。たくさんの……別れを、した……だから……これ、以上は」
「やっと……やっとお父様に会えたのに!こんな形でお別れなんてしたくない!!!!」
「もう……僕の、体は……衰弱、している」
「だから私が全てを戻そうと!」
「本当に……リエルに……似て、る。僕を……彼女の……ところへ……いかせて、くれ……ない」
力なく微笑むシファにこれ以上、生きてほしい。なんて言えるはずがなかった
「……ずるい。ずるいです……シファ様……お父様は……本当に、本当に……ずるいお方です」
頑張って堪えていた涙が溢れだす
「僕の……魔力は……リンと、共鳴……している。きっと……僕が……力、尽きたら……リンへ……吸収される……だろう」
震えている手で優しく涙を拭ってくれる。その手は氷のように冷たい
「そんなこと、まで……考えて、いたのですね」
「……あり、がとう」
「お礼を言うのは……私の方です。護ってくれて、見守ってくれて……ありがとうございました」
「最期は、笑って」
「……おやすみなさい。お父様」
ニコッと微笑む。うまくできていたのか分からなかったがお父様も微笑み返してくれた
“ありがとう……護ってくれて”
どこからかお母様の声が聞こえた気がした。冷えていたお父様の体が少し暖かくなった気がする
「魔界を……たの、む。いつ、までも……愛してる」
お父様の体が砕け散ると魔力が全て自分の中へ吸収されたのが分かる
最初は両腕を掴んで静かに泣いていたが、耐えられなくなり子供のように大きな声を出して大泣きする
もう家族と呼べる人は自分を殺そうとしている兄だけになってしまった




