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美しい思い出をもう一度

「リン、リーン」


 誰かに呼ばれている気がする。ここはどこだろうか…見たことはあるけど、ハッキリと思い出すことができない


「聞いているのですか!リン!」


「お母様!?」


「どうかしましたか?」


 目の前に現れたお母様の顔に、思わず涙が出そうになって顔を下げると覗き込んでくる。生きてる…なにも変わらないお母様がそこに居た


「怖い夢でも見たのですか?大丈夫ですよ」


 抱きしめてくれる体にはしっかりと体温があって、この暖かさはよく知っているものだった


「大丈夫ですよ、なにも怖いことはありませんから。さぁ!庭で遊びましょう」


 手を引かれ庭へ向かうために部屋からでる。その風景を見て思い出した、ここは小さい頃に住んでいたお城だ


「リンが喜ぶと思ってあなたの大好きなお花をたくさん植えたんですよ」


「わぁ……キレイ」


 庭をほぼ埋め尽くすほどの真っ白な花。リィにもらったものと同じような花たちはとても美しく咲いていて、魔界とは違った輝きを放っていた



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「ふふ。お母様」


「……くっ」


「どうです?天界の鎖は痛いでしょう?」


 リンは手を固定され十字の壁に貼り付けられており、足元からは黒く濁った水が注がれていた。見るからに怪しい水なため助けにいきたいのだが、縛られている鎖のせいで立ち上がることすらできなくなっていた


「お前ら、天界のものじゃないな。誰に命令された」


「言うとでも?」


「なにが目的だ。元大天使の娘にこんなことをして、どうするつもりだ」


「そうですね。この世界を我々が手に入れるにはあの娘が必要だ。魔界の姫でありながら大天使の血を受け継ぐもの」


「こんなことをして魔界の奴らが黙ってるとでも?王はリンをなによりも大切にされている方だ」


「入り口は全て塞いである。いくら魔界の王といえど、こちらに来るには2日はかかるはずだ。それまでに姫様の心は堕ちる」


 言われた通り、シファはすぐにこちらへ飛んでくることができない状態だ。シンも現状、動くことができずリンの体は少しずつ黒い水に沈んでいく



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 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「見て!お母様!」


「あまりはしゃぐと転びますよ」


 体は大人なのに中身は子供に戻ったようだ。きっと、こうして遊ぶことだってできたはずなのに…なのにベルのせいで自分もお母様もボロボロになってしまった

 でも今はお母様の幸せな笑顔を見ていたい

 すると突然、場面が切り替わり荒れ果てた天界が目の前に現れた


「これは、あなたが引き起こした……悲劇」


「お母様!そっちに行ったら危ない!」


 炎が燃え広がる方へと進むお母様を止めようと手を引こうとする


「これはあなたが連れ去られた後の天界。人々は苦しみ嘆き、そして傷付いた」


 触れようとした手はピタリと止まる


「私が……引き起こした」


「そう。あの日、あの場所にあなたが行かなければ……鎖に触れなければ起こらなかった悲劇」


「私の、せいで」


「あなたが去った後も炎は消えず、天界は滅びかけた……そして私も」


 段々と遠くなっていくお母様を必死になって追いかけるが全く追いつけない。そして場面はさらに悪くなり、キレイだった天界は魔界と同じような暗さになる


「リンを!リンを返して!!!!」


「お母様……?」


 あの後、助け出されたであろうお母様は魔界で見た時よりかはまだマシなものの、ぬいぐるみを娘だと思い込んでいるのか取り上げられたら取り返そうと必死になっていた


「大天使がこのような状態では国は完全に滅んでしまう」

「だが、どうすれば」

「娘は魔界に連れ去られた。後を継ぐ者は一人しかおらん」


「まさか」


 自分以外に大天使の力を引き継いでいるのはお兄様しかいない。まだ成人する前なのにも関わらずお兄様は大天使の座につくこととなった

 目の前にお母様が現れる


「リン、大天使を継ぐのはあなたよ。あなたは私の娘なのだから」


「でも、もうお兄様が継いでいるのでいいのでは」


「継ぐの。大天使はあなたしかいない……この国を再び助けてくれませんか?」


 差し出されたお母様の手。この酷く荒れてしまった天界を自分の手で救うことができるのであれば…恐る恐る握ろうとする


 “なにがあっても俺が護る”


 シンの言葉が頭の中でコダマする。握ろうとした手は止まってしまった


 “姫様!”

 “リン”


 止まったまま動かないリンを見て不思議そうにする母親


「どうしたの?迷うことなんてなにもないのよ」


「……ち、がぅ」


 “うるせぇ”

 “ははは”

 “不愉快です”


「リン?どうしましたか?」


「違う!あなたはお母様じゃない!お母様は……もう」


「なにを言ってるの……リン」


「違う!!!!」


 “待って……いるよ”


「私は魔界の王妃なのだから!!!!」


 周りに暖かい光りがさすとお母様が溶け、中から人ではないグールのようなものが出てくる


「ま、眩しい!やめろ!」



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 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「もう少しで満ちる。そうすれば完全に堕ち、こちら側に引き入れることができる」


「クソッ!」


 黒い水はリンの首下まで溜まっていた。このまま全身が水に浸かってしまったら、どうなってしまうのだろうか

 この場にいる天界?のやつらはニヤニヤと楽しそうに口角を上げており嫌悪感が増す

 どうすればいいか考えていると急に水槽がヒビ割れた


「なに!?」


 ヒビ割れが進み割れると意識を取り戻したリンから暖かい光りが発せられる

 次々と人間の姿が溶け、中からグールのようなものがでてきた


「クソ!せっかくうまくいくと思ったのに」


 一人だけ人の形をしているお母様の元側近に近寄る


「あなたに命令したのは……兄ですね」


「全て……お見通しなのですね」


「私を天界へ戻すメリットを考えていました。魔界の弱みも握れるし、反逆者扱いをされてしまえば私は兄に逆らうことができない」


 全て終わった…と、その場にへたり込む側近。近寄ろうとしたら急に抱きしめられた


「シファ……様」


「あの歪み……君が……壊して……くれた、んだね」


「はい。シファ様が来てくれると信じておりました」


「今回の……こと……本当に……申し訳ない」


 頭を下げるシファに上げるよう言う。今回のことは全て兄が行ったことを伝え、魔界に天使たちを送り込み襲うよう命じたのも兄であったことも伝えておく

 それに対してシファはなんとも言えない表情をした。お互い言葉を発しないまま少し気まずくなっていたところに騎士が報告をしにくる


「やはりここは空間的に天界なだけで、実際は遠く離れた場所のようです。グールのようなものたちと一名捕えましたが、どうされますか?」


「全員……地下牢に……入れて、おいて」


「御意」


 この件はより詳しく調べることとなり、シファたちは一旦帰ることになった。シファに送ってもらい自室へ戻るとメルが飲み物を淹れてくれた。少し会話をしてからメルは退室していく

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