破綻
シファの交渉のおかげもあり、なんとか天界と会議を行うことができることになった。色々なことを考えていたら、あっという間に当日になりポータル前でみんなに見送られる
護衛としてシンがついてきてくれるようだ
「気を……つけて。絶対に……気を、抜かないで」
「はい。必ず戻ってきます」
「シン……頼んだよ」
「全力でお護りします」
2人してポータルの中へ入ると一瞬にして設けられた場所へ着いた。天界の人たちはすでに到着していたようで出迎えてくれる
「ようこそ、魔界の姫様」
「今回はこちらの要望に答えてくださり、ありがとうございます」
「いえいえ、ではこちらへ」
席につくとすぐ後ろでシンが待機してくれた。これならなにかあってもすぐに助けてもらえるだろう
少しだけイヤな予感がする。早々に会議をすすめるため、こちらから話しを始める
魔界は変わってきていて好戦的ではないこと、そのため無意味な戦争を起こす必要がないことを全て伝える。それには参加していた人たち全員が驚いていた
「魔界はいい方向へと進んでいます!ここでまた戦争をおこし、たくさんの方々の命を無駄にするようなことはしたくないのです!」
リンの必死な訴えに納得する人もいて、これならうまくいくかも。と思っていた
「ですが姫様、魔界のトップに立つ者が天界の者であったら……どうされますか?」
「どういうことでしょうか」
魔界のトップに立つ者…シファのことを言っているのだろうか。シファは元天使だから天界の者であっただろう
だが今はもう堕ちているため、関係ないはず
「そのままの意味です。魔界の王と婚姻を結んだ天界の姫様」
その発言に周囲は戸惑いを隠せないでいる。反逆だ!との声もあって、ここで焦ってはいけないと無言を貫き通す
「失礼ながら色々と調べさせて頂きました。あなたは150年前に堕天使によって魔界へ連れ去られた元大天使の娘……だそうですね」
なぜ知られているのか、当時50歳だったため大人となった自分の姿は知らないはずだし、名前も名乗っていない
「魔界は姫様を汚し、天界へ送り返してきたのだ!!!!」
「違う!違います!私は魔界に敵意はないことを!」
「かわいそうに……150年も監禁されている間に洗脳までされて」
「洗脳なんてされていません!これは私の意思です!」
立ち上がり必死に訴えるとシンに肩を引かれる
「シン」
「姫様はお疲れのようだ。今日は失礼させてもらう」
ポータルの中へ入ろうとするとパチンと指を鳴らす音が聞こえたと思ったら、目の前の入り口が消える
「せっかく姫様が戻ってこられたのに返すとでも?」
いつの間にか真後ろにまで迫ってきている天界の人たち
シンにはその人たちから生気というものが感じられなかった
「シン」
「大丈夫だ」
ギュウとシンの服を握る手が震えている。その手を優しく握ってくれた
「姫様、せっかくお戻りになられたのに……また我々を置いていかれるのですか」
「私は!私、は」
「洗脳されているからすぐ答えがでないのです」
「洗脳なんかされてない!シファ様はそんなことをする人ではないわ!」
シファはいつも自分を一番に考えてくれた。150年間、自室から出してもらうことはできなかったけど、なに不自由なく生活を送ることができていた。誰かが必ず様子を見にきてくれてた
「魔界の空気に慣れてしまったのですね……かわいそうに」
「いや!やめて!」
耳を塞いで蹲るとシンは必死に声をかけてくる
「リン!しっかりしろ!お前はなんのためにここへきた!」
「私……私、は」
「救うためにきたんだろ!天界も魔界も!」
そうだ。互いの平和のために、みんなを助けるためにここへきた。ありもしない言葉で動揺している場合じゃない
「お母様が堕ちたのに」
声がした方へ向くと、そこにはお母様の側近がいた
「じぃ」
「リン様、お母様が堕ちたことをお忘れですか?なぜ、堕ちられたのか」
脳裏に蘇るお母様の最期
お母様があんな風になってしまったのは自分が魔界に連れ去られてしまったからだ
「姫様!どうか、どうか我々をお救いください!」
「救う…?」
「はい。リエル様が堕ちたあと天界はとても荒れてしまいました。あなた様のお力で天界をあるべき姿へ導いて頂きたい」
「私、は……」
「しっかりしろ!リン!」
肩を揺らすシンの声が聞こえない。意識は走馬灯のように時間が巻き戻っていく
「コ……ウ」
「リン!リン!」
「……どこへ行ってしまったの」
「リン……どうしたんだよ」
「リン様の意識は我々の手の中に。あなたには取り引き道具となって頂きます」
シンの体に急に鎖が巻き付く。引きちぎろうとするが力が吸い取られてしまい剣を握ることもできなくなってしまった
「過去へ囚われた者は戻ることはできない」
「これで魔界も終わり」
「天界に安泰を」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「この歪み」
騎士に呼ばれポータルの様子を見にこれば、リンたちが入ったポータルがいびつに歪んでいた。シファが触れるとバチバチと拒絶反応を示す
「王!大丈夫ですか!?」
「こちらからは……開ける……ことが……できない。シンと……リンを……信じるしか……ない」
明らかに天界で何かがおこっている。それだけしか分からないこの状況をどうにかしたいのだが、ポータルに拒絶されているため中へ入ることができない
天界へと繋がるポータルはこれ一つしかないので歪みをどうにかしなれば…




