復興祭
「どう、かな?」
「とてもお似合いですよ」
「良かった」
この日のために自らがデザインしたドレスに身に包む。メルにお願いしていたのはこのドレスだった。通常、半年ほどかけて作られるものが多いなか、とてもシンプルなものだが一ヶ月で仕上げてもらったのだ
「本当にありがとうメル。無理させてごめんね」
「大丈夫ですよ!難しい作りではなかったので縫うだけでしたし」
誕生パーティーではなくなってしまったのだが、なにかシファのためにできることはないかと思い用意したサプライズ。喜んでくれるといいな
するとノックもなしに扉が開くとベルが入ってきた
「ノックくらいしてよね」
「今から必要ねぇだろ」
「マナーがなってない!」
「いちいちうるせぇな。それにしても見たことねぇドレス着てんな」
一番周りを見ていなさそうなベルにそう言われ正直驚く。ベルに気付いてもらえたのだから、きっとシファも気付いてくれるだろう
ベルって実は良い人なのかも
「自分でデザインしてみたの」
「ま、着るやつが変わらねぇと映えねぇな」
前言撤回。やっぱりイヤなやつだった
「なにかご用ですか?」
「準備が整ったみたいだからな、わざわざ迎えにきてやった」
「珍しい。シンはどうしたの?」
「最終チェックをしてる。国をあげての催しだからな、なにか起きたらそれこそ大問題になる」
「そっか。仕方ない、ベルに連れてってもらうか」
「いってらっしゃいませ!」
ベルに連れてきてもらい外へ出ると計画書通りに飾りつけや配置がされていた。さすがシン!と思いながら広場へ付くと
「お姫様だ〜!」
「いつ見てもお美しい」
「姫様、本日はありがとうございます」
など、さまざまな声に出迎えられてみんなに見えるよう手を振る
すると向こう側からシファが歩いてきた。いつもより大人っぽく少し色気のある服装に片方だけ上げられている髪の毛。その姿にドキリとしていると抱きしめられた
「祭りを始めよう!」
シファのその声とともに一気にお祭りムードになった。シファに手を引かれ少し離れたところに2人して座る
「今日は……見たことない……ドレス、だね」
「シファ様のために自分でデザインしてみました。一ヶ月ほどしか時間がなかったのでシンプルなものになってしまいましたがサプライズのつもりです」
自分でサプライズと言うのは恥ずかしかったが、早々に気付いてもらえたことがすごく嬉しい
プレゼントの方がいいかと迷っていたが、シファの好きなものすら知らなかったし、変に聞いてサプライズが失敗するのもイヤだった
「……本当はなにかプレゼントを用意しようと思いましたが、シファ様の好きなものや欲しいものが分からなくて」
「欲しいものはもう手に入ったし、これ以上なにかを望むこともない」
それだけハッキリ言うと咳き込むシファ。あわてて背中をさすると、言葉をゆっくりと喋らないと喉に負担がかかって血を吐いてしまうことを教えてくれた。これはミカと戦った時に喉を潰された後遺症だということも
「君が……来てから……本当に……国は、変わった。良い方に……いってる」
「そうであれば、とても嬉しいです」
シファが頬に触れると自然と視線が合い、見つめ合う
「僕も……色々と……して、もらってる」
「私もシファ様に色々としてもらってます」
少し言葉を交わしたあと、2人して貴族の人たちや街の人たちと会話をしていく
そんな2人を少し離れたところから見ているシン。するとベルが近付いてきた
「交代の時間には早いはずだが」
「お前、このまま何も言わねぇつもりか」
「なにか言うことがあるのか」
「あいつに何も言わねぇのかって話しだ」
「わざわざ今を壊す必要はねぇだろ」
「あいつだって色々と気付いてるはずだけどな。ま、お前がそれでいいならいいけどよ」
ベルにしては珍しく他人のことを思って言ってくれた。少なくとも罪悪感が彼の中にあるのかもしれない
シンは自分の感情を押し殺す
「本当は……俺だって」
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。おいしい料理や飲み物を普段とは違う空の下でみんなと共にするのはとても気分が良かった
こうして復興祭は成功し、無事に何事も起こることなく幕を閉じた
「あー、楽しかった!」
「良かったですね!ドレスはどうでした?」
「似合ってるって褒めてもらえたよ!メルの作りがよかったから、たくさん食べても全然キツくなかった」
「それは良かったです!では、そろそろ戻りますね」
「待って。せっかくのお祭りなのにメルたち使用人は外に出られなかったから」
手渡したのは瓶に入ったコンペイトウ。これは貴族の人たちが食べるものだったため、メルは受け取れないと言うが無理を言って一ヶ月でドレスを仕上げてもらったのだ。お礼だと言うと受け取ってもらえた
まだ寝るわけにはいかない。失礼だと思いながらもシファの部屋を訪ねるとすんなり入れてくれる
「すみません、こんな遅くに」
「いいよ。なにか……話しが……あるんだ……よね」
「はい。天界とポータルをつないで頂けないでしょうか」
「……どうして」
「今の天界の様子を知りたいのと、魔界には戦争をする気がないと伝えたいのです」
「リンが……天界へ……戻ったら……帰さない……ように……する、かも」
「それも考えました。なので天界へは直接行くことはせずに少し手前のところで集まるつもりです」
「分かった……交渉して、みる」
思いのほか、すんなりとシファから許可がでた。予想では断られると思っていたので最終的に元大天使の娘を盾にしようとしていたのだが…
お礼を告げてシファの部屋から出ると自室へと戻る。今日はさまざまなことがあったな
久々に街の人たちと交流をした。街の復興にもう少し騎士たちを派遣することにもなったし、早ければ2ヶ月ほどで修理は終わるだろう
ベッドに入ると疲れていたようですぐに眠りにつくことができた




