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日常のヒトコマ

 あれから10日程経ち、城の者たちがいつもより働き復興はだいぶ進んでいた

 だが、短い感覚で色々なものを壊されることが多くなってしまったため人々の表情から疲れが見えてきた


 シファの誕生パーティーの日が近付いていたが、今回の天使との戦いで人々が祝える状態ではないため中止にするとシファは言った

 そこで代替え案として国の復興祭をしようと意見を述べた


「聞いてなかったのかよ、王は中止にするっつってんだ」


「だからよ。シファ様の誕生日じゃなくて、せっかく復興もできているのに頑張ってる人々になんの労いもしないのはおかしい。この日だけは誰も働かずにお酒や豪華な食べ物をみんなで一緒に食べるの」


「城に盗っ人でも入ったらどーすんだよ」


「城には私たちと調理師しか入らないようにできるでしょ。街で屋台とかだして誰でも無料で好きなものを食べたり、飲んだりできるようにする。いつも私たちに何かしてくれてるんだから、たまにはこちらから何かしてもいいと思います」


「いい、と思う……リンの……やりたいように」


 シファの返答に他の人たちは賛成し、渋々ベルも賛成してくれたので一ヶ月後に復興祭をすることが決まった。言い出したのは自分のため、すぐにでも計画書を作成する

 自室に戻るとメルが紅茶を淹れて待っててくれた。それになんの疑いもせず口を付ける


「姫様は本当にお優しいお方ですね」


「どうしたの?」


「前回、私の淹れた紅茶であんなことがおきましたから」


「あれはベルに言われてやったことでしょ?メルはそんなことしないよ」


「姫様……はい!」


「それよりもメルに頼みたいことがあるの」


 一枚の紙を手渡す。それを見たメルは少し難しそうな表情をした


「やっぱり一ヶ月でこれは難しいかな?」


「そうですね……でもなんとかしてみます!」


「本当!?ありがとう!」





「姫様、そろそろ失礼しますね」


 メルに声をかけられ時間を見ると0時過ぎていた。色々と考えることが多くて、あっという間に時間が過ぎていた


「あまり無理をしないでくださいね」


「うん、ありがとう。今日はそろそろ休むことにするよ」


「はい。おやすみなさい」


 せっかくの誕生日が国のための復興祭となってしまった。そのため、自分ができるシファへのサプライズをメルに頼んでいた


「みんなが祭りを楽しめるように。シファ様にとって少しでも特別な日になるように」


 フと手元を見るとティーカップが残っていることに気付く。このままここに置いておいて明日の朝食の時に一緒に片付けようと思ったが、なんだか悪い気がしたので調理室へ持っていくことにした

 深夜の城内は日中より不気味さがあり、少し怖い。急いでエレベーターに乗り込み食堂のある階へ降りると、広いだけあってこの先が本当の闇のように真っ暗だ。進むことを戸惑っていると声をかけられる


「姫様?」


「ヒッ……リオンかー。ビックリした」


「驚かせてしまったのなら、すみません」


「いいの、いいの。見回りの途中?」


「はい。こんな時間にエレベーターが動いたので、なにかあったのかと思いまして」


「ティーカップを返しにきたの。でも少し怖くて」


「そうでしたか。では私がおいてきます」


「自分が使ったものだから自分でいくよ」


 とは言ったものの、この暗闇のどこに電気のスイッチがあるのかも分からない状況で


「や、やっぱり怖いから一緒にきてもらってもいい?」


「はい」


 リオンは慣れているようで迷うことなくスタスタと先を歩いていく。それについていくと無事に調理室へ着くことができた

 電気をつけてティーカップを洗う


「なぜご自分で洗っているのですか?」


「朝来た時にティーカップ一つだけ置かれてるのはイヤじゃない?調理師さんたちも来た時に気持ちよく仕事がしたいから前日に綺麗にしてると思うんだ」


 キュッと蛇口を閉め、濡れたところをハンカチで拭いて終わり。そんなリンの行動を理解できないリオンは返答に困っていた


「……終わったのなら、部屋まで送ります」


「本当!?ありがとう!やっぱり一人になると怖くて」


 姫を自室へ送るという当たり前のことですらお礼をのべる。自分に危険があるというのに危ないところに行く

 姫なら静かに部屋にこもってみんなに護られていればいいのにそれをしない。それに天使だ

 ピタリと急に歩みを止める


「リオン?どうしたの?」


「あなたはなぜ大人しく護られていないのですか?部屋にいれば危ない目にあうこともなく、怪我をするおそれもない」


「だからだよ!姫なだけで私もただの人。護られるだけじゃなくて護りたい」


 あまりリンと面と向かって話し合ったことはなかったが、こうして向き合うととても人のように感じる。ちゃんと自分の考えを持っていて、行動にうつしている

 月明かりが向かい合っている2人を照らす


「リオン……その瞳。すごく綺麗ね!」


 お世辞でもなくこんなに真っ直ぐ、この目を褒められたことはなかった。むしろ気味悪がられていたため、いつも眼帯をしているのだが見回りの時は誰とも会うことがないと外していたのを忘れていた


「片方ずつ色が違うなんて初めて見たけれど、どちらの色もリオンに似合ってる」


 きっとこういうところを他の者も気に入ったんだろう。思わず笑みがこぼれそうになる


 “忘れちゃだめよ”


 どこからか聞こえてきた声にハッとする。そうだ、誰も信頼してはいけない。こんな醜い容姿で生まれてきたせいで母親にはとても辛い思いをさせてしまった


「私はこの目を恨んでいます。綺麗などと言われることは不愉快です」


 それだけ言ってまた歩きだすリオン。醜い容姿と言っても左側におそらく火傷の痕があるだけで瞳は全くもって関係ないと思ったのだが、リオンが気を悪くしてしまったのなら謝ろう


「ごめんなさい」


「いえ」


 部屋に着くとリオンはペコリと会釈をしてまた見回りへと戻っていった。ベッドに入り、なんとなくリオンの言っていたことにモヤモヤとするが、幹部の中でもあまり色々なことを知れていなかったリオンと初めて2人だけで話しができて、少しだけでもリオンのことを知れたのは良しとしよう

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