今こそ解き放つ時
「シファ様……?い、や……そんな!」
シファに駆け寄り血濡れた床に膝をつくと、上半身を持ち上げる。反応はなく、いつもより冷たい体温に現実を思い知らされる
「この国は終わりました。では私たちとともに行きましょう」
女性が腕を掴んで立たせようとしてくるが振り払う。シファから離れないようギュッと抱きしめていると女性はため息を一つつき離れていく
「これだからガキの扱いはめんどくさいんだよ。引き剥がして連れてこい」
数人に囲まれシファから無理矢理引き剥がされる。なぜ自分を連れていこうとしているのかは分からないが、天使に連れていかれるということは天界へ戻ることになってしまう。魔界に居るみんなとサヨナラすることは絶対にいやだ
「シファ様!!独りぼっちにしないで!!みんなと離れ離れになるのは……いや!!!!」
「騒がしい。口を塞げ」
口元に手をおこうとした人物が急に苦しみだすと周りにいた人たちも一斉に吹き飛んだ
「なんだ!?なにがおきた!?」
「シファ……様?」
自分に触れていた人の首を握り潰すと砕け散る。目の前にいるのはいつものシファではなく、威圧感がいつもより増しているし外見も悪魔っぽくなっていて魔界の王という言葉が似合う姿をしていた
すぐに女性は警戒するが、あっという間に破壊された。なにが起こったのか理解するのに数秒かかったが、シファが攻撃したのだけは分かった
「君に……こんな、姿……見せたく……なかった」
「シファ様!!!!」
トゲやツノが刺さるかもしれない、なんてことはお構いなしに抱きつく。離れ離れになってしまうことが何よりも怖かった
「リン……大丈夫だよ。もう少し……待ってて」
シファがなにか呪文のようなものを描くと5カ所のところから今まで感じたことのない魔力を感じる
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「これは」
「王も本気ってことかよ。なら俺らも好き勝手暴れていーんだよなぁ!」
ベルとエルの姿も変化していた。ベルは天界の時よりもより悪魔に近い姿になっており、掌の上で炎を出していた
変化した2人に男性の目が開く
「気をつけてください。彼らになんらかの変化がおきたようです」
隣からの反応がないため横を見ると、すでに少女はやられていた。2人から目を逸らさずにいたため、いつの間にこちらへ来ていたのか分からない。誰かがやったのか、それとも目視できないほどのスピードでやられたのか…後者の方だとしたら勝ち目がない。逃げようと背を向けた瞬間、目の前にはベルがいた
「ヒッ」
顔面を掴まれると壁にぶつけられ命乞いをするもあっけなく炎に包まれ砕け散った
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シンの姿も少しだけ魔の者に近付いていた。天使たちは大量に足元に転がっているが騎士であろう2人は急に姿を変えたシンに驚き警戒した
「なにしたの」
「俺らは普段、無駄な争いを避けるために王に力を封じられている。王が解放した時にのみ最大限に力を発揮することが許される」
「なら楽しめそうね!」
また鞭を床に打とうとしたが、火の元がないのに急に発火する。火は鞭を辿って女性の体へと広がり、男性が急いで助けに入るも後ろから2人まとめてシンに刺される。的確に心臓部へ刺したため2人は砕け散った
女性が砕け散ったため城の周りで暴れていた天使たちも砕け散った。人々を護るために天使たちを相手にしていたリィとリオンも悪魔のような姿になっている
「消えたってことは終わったようですね」
「僕この姿、本当に嫌いなんだけど」
シファを入れた6人の中でもっとも悪魔っぽい姿をしていたのはリィだった。いつもの可愛い服装や容姿からはどうやっても想像がつかないくらい禍々しい
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「全部……片付いた……みたい」
「良かった」
良かった…?同じ天使なのになぜそう思うのだろう。本来であれば同族がやられてしまったことを悲しむべきなのに
「リン……?」
名前を呼ばれてハッとする。お母様やお兄様やコウのことは忘れていないのだが、こうして襲ってくる天使は今の自分からしたら敵…なのかもしれない
「リンには……辛いかも……しれない、けど……大天使は……戦争を……おこす……つもり、かな」
「辛いのはみんな同じです。それに無意味な戦争をおこすつもりなのであれば私は天界を敵とみなします」
「天界は……帰るところ……じゃないの?」
「どう、なんでしょう。お母様はもういない……天界に未練があるとすれば残してきてしまった幼馴染と兄のことだけ。それにこんな命令をする大天使のところへは帰りたくありません」
「リンは……元大天使の……娘だから……帰ったら……自分が……大天使に、なれる……とは……考えない、の?」
「今、私が帰っても……もうどうにもできないと思います。下手したら殺されてしまうかもしれない」
「そっか」
シファの怪我を回復し終えると、外の負傷者を見にいくと立ち上がる。シファは止めることはく微笑んで見送ってくれた
「姫様!」
シファの自室へ入ることができないメルは外からずっとこちらの様子を伺っていたようだ
「怪我をしてる人の手当てにいきましょう」
「はい!」
外にでるとシンたちが予め怪我の度合いに分けて負傷者を集めてくれていた。重傷を負っている人たちは治療師にも回復することができないようで、軽傷の人たちから優先的に治療を行っていた。この辺の意識も変えていかないといけないと思いながら重傷を負った人たちを回復していく
数十分程度で負傷している人たちの治療は終わった
「これで全員か?」
「はい」
「あとはシンたちだけだね」
エルはリンに触れられたところが暖かい光りに包み込まれると傷が徐々に治っていくことに驚いている
「あぁ、エルは知らねぇのか」
「姫様は天使なんです!」
「天使!?ベル、天使を連れてきたのか!?」
「間違ってたがな」
「なんでそう喧嘩をうってくるのよ」
「事実だろ」
言い合っているとシファが現れる
「怪我人は?」
「全員治療を終えました。死者は0人です」
「そう……良かった。君たちも……休むといい」
シファがまた呪文を描くとみんなの姿が元に戻っていく
「リン。また……たくさんの……人々を……救ったね」
「……はい」
シファが城の中へ入っていくのを見ていると、さっきまで物陰に隠れていたリィがひょっこり出てきた
「今までどこにいたの?」
「僕にだって知られたくないことの一つや二つくらい」
「素直に悪魔化した姿を見られたくなかったと言えばいいじゃないですか」
「もう!リオン!デリカシーがない!」
また悩みのタネが増えてしまった。まさか天界が魔界を襲ってくるとは思わなかったし、それが大天使の命令だったとは
今の大天使は誰なんだろう…あの女の人が自分を天界へ連れて帰ろうとしていたってことはそれも命令だったはず
シファに言われた通り、元大天使の娘という盾を使えば天界に戻ったとしても悪いようにはされない…と思う。また襲われることになったらどうしよう。魔界は戦争をする気がないと伝えれば分かってもらえるだろうか
「そうか、天界とポータルを繋いでもらって話し合いができれば……なんとかなるかもしれない」




