天使の行進
翌日、シファを訪ねると昨日の相談内容を話したうえでベルとエルを地下牢から解放してほしいことも伝える。シファは反対することはなかったが、シンの時と同じように反逆者として扱われることや本人たちの意思を知りたいと言い一緒に地下牢へ来てくれた
地下牢なんて場所に突然現れたシファに2人は驚いており、鎖を破壊されたことにさらに驚いていた
「リンが……お前たちの……解放を……望んだ」
「私に力を貸してください」
「どう、するかは……お前たち……しだい」
シファから与えられたものならば喜んで受け入れるだろう。だが、望んだのはリンであってシファはそれを尊重したにすぎない
なかなか動こうとしない2人にリンは手紙を差し出した
「あなたたちには待ってる家族がいます。このままここに居たら会うことすらできなくなる」
「だからなんだよ!?俺はお前を殺そうとしたんだぞ!?」
「それはもう終わったことです」
その発言に思わず顔を上げる。リンの表情は同情などではなく、本当に辛そうな顔をしていた
「あなた方だからこうしてお願いしています」
「わーったよ。少しくらいなら……貸してやる。ただし俺の気が向いた時にしか貸さねぇ」
「なら私も」
「ベル、エル。これからよろしくお願いします」
「2人とも……リンの、期待に……答える……ように」
それだけ言うとシファは戻っていく。あとは任せたってことだろうか
「てめぇは俺らに貸しでも作りてぇのか?」
「言ったでしょ、もう過去の話しだって。私はただ国を良い方向に変えていきたいだけ。そのためにも2人は元々の仕事に戻ってもらいます」
「そこまで情けをかけられなくてもいいですよ」
「2人の能力が必要なの。今、シンたちはいつもの倍以上の仕事をこなしてる。かつてシンがそうであったように2人も信頼を築き直してください」
そこにはもうビクビクとした少女の面影はなく、魔界の王妃として成長したリンの姿があった。それを感じ取った2人はこれ以上、なにも言うことはなく地下牢をでると城の中へと入っていった
「姫様!あの2人を解放したって本当ですか!?」
「リン!あの2人を解放したんだって!?」
メルとリィが同時に入ってきて同じことを言ってきた。メルはいいとしてリィはこの時間、書類を確認していたはずだが…
「2人には今までと同じ仕事をしてもらうよ」
「リンを殺そうとしたんだよ!?」
「今の2人にそんな意思はないよ」
「だとしても!姫様は優しすぎます!」
「そうだよ!なにかあってからじゃ遅い!」
「大丈夫だ」
急に4人目の声が聞こえたと思ったらたくさんの書類を片手で持ったシンが入ってきた。それをリィの目の前に置くとリィの目が泳ぐ
「あの2人に怪しい動きはない。それになにかあっても俺が全力で護る」
「シン……ありがとう」
「なになに!?この雰囲気!」
「ちょっとシン!抜け駆け禁止!僕もリンに忠誠を誓ったんだからね!」
「ぎゃーぎゃーうるせぇ」
最近よく見る日常。こうして穏やかに過ごせるのが一番で、それは貴族も王族も一般も変わることなく全員が送る権利がある
だが平和な日常はいつも壊れてしまう
「天使は2種族も要らないのよ」
「さっ!やりましょ!」
白いローブの6人組がリンの部屋が見えるところに降り立つと眩い光りの球体を作りだし、リンの部屋に向かって飛ばす
急に部屋の壁が爆発音とともに崩れる。シンが庇ってくれたおかげで怪我をせずにすんだが、何がおきたのだろうか
「メル!リィ!そっちは大丈夫?」
「はい。リィ様が護ってくれたので私は大丈夫です」
「僕も大丈夫」
煙で周りは全く見えないのだが、とりあえず2人とも無事で良かった。すると人影が見える
「あーぁ。外しちゃったか」
「君が姫様?」
目の前に降り立ったローブ姿の2人。声からして男女だと思うのだが、見たことのない格好をしている。それにこのなんとも言えない懐かしい感覚は…
女性に向かって剣が飛んでいくが余裕で避ける
「急に物騒だな」
「お前ら何者だ?」
「私たちは天使」
そう言って2人は白い羽根を広がる。それを見た瞬間、とうとうこの日がきてしまったのか…と思った。いつかは対峙することになると思っていたが、こんなに早くきてしまうとは
「この世界に天使は2種族も必要ないの。悪いけどそっちに滅びてもらうわ!暴れなさい!」
女性が鞭を床に打つと多数の天使が空に現れる
「いけない!人々が巻き込まれてしまう」
「やれるだけやってみるよ!」
リィが飛んで街へ向かってくれた。これだけのことが起きればシファに状況は伝わっているはずだ
それに天使も王の命令なしでこんなリスクがある行動をしない
「これは大天使からの命令ですか?」
「そだよ〜!戦争しよ!」
白い羽根が鋭い刃となり、こちらに群となって飛んでくるがシンは一つも外すことなく全て叩き落とした
「中に入ってろ!メル頼む!」
「はい!姫様いきましょう!」
メルに手を引かれ走って中へ入るもあの数を相手にするシンが心配だ…それに天使の力は堕天使にとって有害である。廊下を走っていると急に壁が崩れベルとエルが突っ込んできた
「ベル!エル!」
かなり負傷しているところを見ると2人も天使とやり合っているようだ。急いで駆け寄ると回復していく
「大丈夫ですか!?」
「……っぶね!」
ベルに腕を引かれ倒れ込むと頭上ギリギリに光りの線が走っていく。これは訓練されている騎士が使う技だ
「大丈夫か!?」
「う、うん。ありがとう」
「そのお方をこちらへ渡して頂けますか?」
糸目の男性が崩れた壁の上に立っている。その腕には隊長に与えられる腕章があった
「あなたも……天使ね」
「はい。今ごろ、王様のところにも仲間が行っているはずです」
王であるシファを失うわけにはいかない。駆け出そうとすると小さい女の子が目の前に現れる
「行かせない」
印が結んである手を見て、なにかを打ち込もうとしているのは一瞬で理解できたが、あまりにも近すぎるため避けることができない
間一髪のところでエルが間にシールドを張ってくれた。弾かれた手は天井を向くと穴を開ける
「姫様は王のところへ!」
「でも!」
隊長格となると戦い方が一筋縄でいかない。スキルが発動されればこちらが不利となるものが多く、このことを知っているのは元天使しかいない
「世話役!連れてけ!」
「姫様!」
再びメルに手を引かれ走りだす。リィは人々の避難を優先していて、シンとベルとエルは天使たちと戦っている…そして、国を護るために現れないということはシファも戦っている可能性が高い
シファの部屋へ着くも壁はボロボロに破壊されていてイヤな予感しかしない
「シファ様!!!!」
「あら、少し遅かったんじゃないかしら」
「っ!?そ、んな」
部屋の中心部で6本の剣に刺され血を流しているシファがそこにいた




