名前を呼ぶよ
「王。失礼致します」
「なに」
「国民からたくさんの手紙が届いております」
「そう。置いて……おいて」
側近がおいた手紙が一枚落ちてシファの手元へとやってきた。開けてみると
“おうさまへ
おうさま ひめさま
おとうさんとおかあさんを
たすけてくれてありがとう”
と心のこもった言葉が書いてあった。思わず微笑み、リンが思い描いている国になっていっていることを再確認する
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「いいのか?」
「うん。私が行きたいの」
「……分かった」
2人が入っていくのはベルとエルがいる地下牢。ちゃんと2人とも向き合わなければならない。あの時はベルを前にしてもなんともなかったが、今は怖い
それに気付いたのかシンが肩を抱き寄せてくれる
「大丈夫だ。俺がいる」
「うん……ありがとう」
「なんだよ、冷やかしにでもきたのか」
「あ、あなたと話しをしにきたの」
「声震えてんぞ」
そんなこと自分でも分かっている。でも確かめたいこともあるし、これからのことも話し合いたい…そういえばベルとの始まりも鉄格子越しの会話だったな
「どうして、あなただけが……あそこに閉じ込められていたの」
「てめぇも知ってんだろ、昔大きな戦争があった…俺はその時の騎士だったんだんだよ。他のやつらは弱いからすぐ死んだ、俺は捕まってずっとあそこに閉じ込められてただけだ」
それがどうしても引っかかっていた。あれだけ大きな戦争で捕虜ならまだしも何百年も敵を生かしておくメリットはなんだろうか
「用が済んだなら出てけ。てめぇらの顔なんざ見たくもねぇ」
「ベル、私に力を貸してくれない?もちろんエルも一緒に」
その提案に3人が驚きを隠せない。シンはなにを言ってるんだと大きな声を出してくる
「てめぇ、バカか!?」
「ば!?バカとはなによ!せっかくここから出れるチャンスなのに!」
「誰がてめぇなんかに力貸すか!てめぇと仲良しやるぐれぇなら一生ここの方がマシだ」
「なによ!その言い方!」
「なんだよ!?」
「ハハハ」
思わずエルが笑い出す。おもしろくて我慢できなかったようだ
エルにも出ようと声をかけたが、ベルが貸すなら自分も貸す…と言った。そんなエルにベルがもう自分に縛られなくてもいいと言ったが、あくまで自分の意思だと言う
先ほどの緊張感はどこかへ行ってしまい2人に今すぐ答えを出さなくてもいいと言って地下牢から出る。自分には素直になれないと思いシファに意見を聞くことにした
シンはシファの自室までは付いていけないと言って外で待っててもらうことに。ノックをして中に入ればいつも通り、出迎えてくれた
「もう……傷は、大丈夫?」
「はい。ご心配かけました」
「あまり……無理は……しない、で」
「すみません」
「……君宛に……たくさん……手紙が……届いてる」
シファが持ってきたボックスにはたくさんの手紙が入っていた。一枚、一枚手に取って見ていると抱きしめられる
「こう……していると……安心、する」
「シファ様……お疲れですか?」
一週間くらいの外出を4日で終わらせたあげく、たまっている公務をこなしているようで少しやつれた気がする
「お疲れなら、また後日伺いますね」
「リン。君も……休むんだよ」
「はい。失礼します」
相談をしたかったが、無理して話しを聞いてもらうわけにもいかない
最近、名前を呼ばれることが増えた気がする。まだあまり慣れないけれど正式に王妃となったらもっと名前を呼ばれる日がくるはずだ。それにしても婚姻はしたのだが、いつになったら正式な式を執り行うのだろう…いまだに日取りなどは伝えられていない
考えごとをしながら廊下へ出る
「リン〜」
呼び捨てで呼ばれたため誰かと思ったらリィだった。リィは迷うことなく抱きついてくる
ここシファの自室前なんだけど…思わず言いそうになったが飲み込む
いや、ダメだ
「ちょっと……この状況はまずいのでは」
「なにかおかしい?」
当の本人はキョトンとしている。もしかしたら自分が間違っているのか?いや、そんなことはない……はず
「おかしいだろ」
シンによって引き剥がされる。やっぱり自分は間違ってなかった
「距離を考えろ、距離を」
「僕はリンに誓ったんだ!だから抱きつくくらい!」
「王妃だ。王の妻となる方だぞ」
シンにそう言われ、なぜかチクリと胸が痛む。本当のことを言われているのだが、今と昔では色々と状況が違いすぎている。それにシンに確かめないといけないこともあるし
「あ、姫様〜!」
「また面倒なのが」
「ちょ!?シン様!どういうことですか!?」
またいつものメンバーが揃う。あまり深いことは考えずに今を楽しむことにしよう
だが、ベルとエルが抜けた分の仕事をしないといけないためシンとリィは公務へ戻ることになった。いつも通り、メルとお茶をしていると時間は過ぎていく
夜になりみんなが戻ったことで静まる自室に寂しくなってしまい、普段はあまり来ることのない屋上へ来た
「うーん。やっぱり高いところは気持ちいいなー」
ここからは街がよく見えるし、遠くにある山だって見ることができる。だが、あまり来ないのは天界を思い出してしまうからだ
誰かの足音が聞こえ、振り返るとシンがいた
「ここにいたのか」
「うん。星が見えるから……天界にいた頃はよく空を見上げて星を見てた」
「そうか」
「……シンはどうして幹部をしてるの?」
「大切なものを護るため」
そうだろうな。みんな同じだと思う…自分も今は魔界でみんなを護りたい
風が吹くと少し肌寒く感じる。羽織るものを何も持ってきていなかったが、取りに戻るのも会話を遮ってしまうため失礼だと思い我慢をすることにした。するとシンが自分の上着を脱いで肩にかけてくれる
「あり、がとう。150年も一緒にいるからかな……シンには私の考えてることが全部分かっちゃうみたい」
「……そうだな」
あの日埋まったピースのことを今、口にだしてもいいのか分からない。もしかしたら自分の勘違いだったかもしれないし…シンから話してくれるのを待とう
「ねぇ、シン。ベルたちを出そうと思うの」
「なに言ってんだ!?あいつらがお前に何したか」
「分かってる。けど、2人ともとても優秀なんだ……明日、シファ様にも言うつもり」
「本当にいいのか?」
「うん。なにかあったらシンが護ってくれるんでしょ?」
「当たり前だ」
シンは優しく抱きしめてくれた。今はこれでいい、この関係を壊すようなことはしたくない
「お前は俺が護る。ずっとそうしてきたんだ、これからも変わらない」
「うん。ありがとう」
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豪華な一室に集まる6人。全員が白いローブを身につけていて表情などは読み取ることができない。だが、不穏な雰囲気なことは分かる
「はぁ……平和すぎてつまんない」
「平和ボケしちゃうよね〜」
「そんなこともないみたい。大天使様が呼んでる」
「それって仕掛けるってこと!?」
「では動きましょうか」
「楽しみすぎて今すぐにでも行きた〜い!」
漸く国の問題が解決しつつあるが、ひと息をつく暇もなく次の勢力が襲いかかろうとしていた




