それぞれの葛藤
ある程度の避難誘導が終わり、あとはぶつかり合っている人たちのみとなったので、少し休憩をしていると隣にリオンが飛んできた
「なんで姫側に」
「姫は正しいから。君も本当はそう思ってるんじゃない?」
図星なのか何も答えなかった。リオンはただただ目の前でぶつかり合っている人たちを見ている
「なにが君を中立にしてるのか知らないけど、一度だけ姫を信じてみたら?」
「私は中立でなければならない。そうあろうと決めた」
「あっそ。じゃあそのままでいれば」
それだけ言うとまたぶつかり合っている人たちのところへ向かって飛んでいく。リオンの気持ちは分からなくはない…自分もそうであったのだから
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「どうしたぁ!反応が遅くなってんぞ!」
「くそっ」
防ぎきれなかった斬撃が傷を増やしていく。これ以上、劣勢になればシンが負けてしまう。どうにかしようと考えていると、シンの後ろから短剣を刺そうとしている叔父の姿が目に入った
「ダメ!!!!」
考えるより先に動いた体はシンと叔父の間に入り短剣は腹部に深く刺さった
その瞬間、この場が爆弾でも放たれたように爆発する。煙が晴れるとそこには叔父を片手で掴み持ち上げているシファがいた
「リンを……傷つけたのは……お前、か」
「おた、お助け……を」
シンの時以上の剣を周りに出すと叔父に向かって放とうとする
「ダメ、で……す。殺さ……ないで」
「リン」
シファはリンの言葉を聞き入れ、叔父を投げ捨てるとこちらへ近寄ってきてくれた
「痛む?」
「大、丈夫……です」
言葉とは裏腹に腹部から流れている血は床を赤く染めていった。シンも近くにきてくれて、シファに護れなかったことを謝罪するがシファはシンを咎めることはしなかった
「リンを……頼む。国民を……鎮めて、くる」
それだけ言うとシファは飛んでいってしまった。天使にも一つだけデメリットがあり、自分自身を回復することができないのだ。シファも元天使なら知っているはずなのだが…もう忘れてしまったのかもしれない
体から血が抜けていくのが分かる。ここで眠ったらいけないのに眠くて仕方ない
ふいにシンが腹部に手をあてると懐かしい暖かさを感じる。これはよく知ってる、忘れるはずがない
「この、光り……シン、あなた」
「リン、今は眠れ」
そうか、そうだったのか。自分の中にあった全てのピースが漸く埋まった。眠らないようにしていたが、安心感から意識を手放す
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「みな、なにを……している」
急な王の帰還にその場にいた者、全員が驚き跪く。シファは中心部に降り立つと悲惨な有様にグッと唇を噛む
「この醜き街はなんだ!今まで数々の争いを起こし、たくさんの犠牲をだした。それなのにまた繰り返すつもりか!」
「で、でもよ!あの姫さんが来てから国は変わっちまった」
「悪くなったのか?城にある程度入れるようにしたのは誰か。学校や医者を増やしたのは、食に関して不自由なく平等にしたのは誰か。今一度、思い返すといい!」
「そうよ!姫様がいなかったら私たちは死んでいたのかもしれないのよ!?」
「王様がいない間にも街にきて、色々と教えてくれたのは姫様だろ!?」
姫派の人たちが言ったことに納得したようで武器となるものを次々と捨てる
それを見てもう大丈夫だと思ったシファはリオンにこの場を任せる。自室へと戻る途中、咳き込むと大量の血が出てきた。大きな声で早口に喋ってしまったため、後遺症がでてしまったようだ
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「はっ、殺せよ」
爆発に巻き込まれベルはかなり負傷をしたようで動けないようだ
「あの日、大切な姫さんをここに連れてきた俺を殺せよ!!!!そのせいでお前まで堕ちることになったんだからよ!!!!」
いつもなら冷静でいられるのだが、リンが負傷したことで平常心でいることが難しく持っていた剣をベルめがけて振り下ろしてしまう
“ダメ!”
どこからかそんな声が聞こえた気がしてベルに当たる前にピタリと止める
「……なん、だよ!?なんなんだよ!?早く殺せよ!!!!」
「リンは……それを望まない」
「てめぇにとって俺は憎い存在じゃねぇのかよ!?」
「そんな感情はなくなった。今はこうしてリンの側にいれるだけでいい」
はっ…?あの時、気絶したコイツを使えると思って連れてきた。コイツが誰かを傷付け全てを知ったリンの絶望する表情が見えると思ったが、もう憎しみなどの感情はなくなった…だと?意味が分からない
「直に王が処罰を下す。それまで大人しくしてろ」
それだけ言ってリンを抱き上げると去っていく
「なん、だよ。みんなして、姫、姫って……俺だって」
“お兄ちゃん!”
「ちくしょう」
誰にだって大切な人がいて、大好きな家族がいる。ベルにも妹がいてその妹がイジメられていたことを知り、このままではダメだと暴君になることにしたのだった
自分が強くて恐れられる存在となれば妹をイジメるやつはいなくなると思ったし実際なくなった。だが、リンのいう平等な国になってしまったらまたイジメられるしれない…これがベルを動かしていた大きな理由だった
あれから騒動は無事に収まり、街の再建が行われている。城の者も積極的に手伝い、みんなで手を取り合って前よりも良いものを作ろうとしていた
コンコンと控えめなノックが聞こえ返事をするとメルが気まずそうに入ってくる
「メル!お帰りなさい!会いたかった!」
思わず抱きつくと驚きながらも抱きしめ返してくれた
「もう怪我はいいの?」
「ったく、まだ安静にしてろよ」
リィとシンも入ってくる
メルは家族を盾に脅されていたが協力者として前の仕事場へ3日間の追放をされていた。リィも協力者として3日間の謹慎。たった3日だったけれど寂しかった
「もう治ったから平気!」
「あんなに血を出しといてよく言うぜ」
「シン様ものすごい勢いで入ってきて、早く治療師を呼べーってとても焦っていたのに」
「なっ!?あれはすぐに呼んだ方がいいと思ったからだ!」
「素直に心配したって言えばいいのに」
いつも通りの日常が戻ってきたことに嬉しく思っている。まぁ自分の部屋に集まるのはどうかと思うが…
あれからベルとエルは王妃暗殺の首謀者として地下牢に隔離されている。処罰は地下牢いきのみ
叔父はシファから向けられた殺意がトラウマとなったようで悪夢を繰り返し見るようになりパニック状態となったため入院し治療している
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リンの自室が見える反対側の塔の上に頭からローブを被った2人の姿があった
「ふ〜ん。あれがシファちゃんのお気に入りかぁ」
「手をだすなよ」
「分かってるよぉ。さすがにシファちゃん怒らせたくないからねぇ〜でもかーわいーなぁ」
「もういいだろ、見つかる前にいくぞ」
「また遊びにくるねぇ〜それまでにシファちゃんのモノにならないで、ねっ!」
指鉄砲を作り、リンに向かって発射する。2人はローブを翻すと消えた
なんとなく気になって外を見るとシンが声をかけてくる。本当になんとなく外を見ていただけなので、なんでもないと言うとリィから食事の誘いを受け、みんなで食堂へと向かう




