人間らしさ
「失敗しました、だと!?ふざけるな!!!!」
リィは叔父に殴られ蹴られ踏みつけられる。今までどんなに下品な命令ですら必ずこなしてきたため、今回も失敗することはないと思っていたが、まさかこんな重要な命令を失敗するなんて…どうすれば自分の地位が守れるだろうか
「わぁお、荒れてんねぇ」
「これはこれはベル様。お見苦しいところを」
挨拶をしようとする叔父にそのままでいいと言って、床に倒れているリィの側にしゃがむと髪を持ち上げ、なぜ殺さなかったか問うも無言を貫き通される
「質問を変えるか、なんで殺さなかった」
「彼女は……強かった」
「そうか、お前はもう必要ねぇ。消えろ、いいよな?」
「は、はい!ベル様がそうおっしゃるのであれば!お前は必要ない!今すぐ消えろ!」
叔父にそう言われれば、リィはフラフラとフラつきながら部屋から去っていった
「ったく、使えねぇな」
「これからどう致しますか?」
「次の手はすでにうってある。なんとしても王が戻る前にあいつを消す」
「リィは始末しなくともよろしいでしょうか?」
「別にいいだろ、あいつが戻ってきた時点で俺らの計画は伝わってるだろうし」
問題はリンの力だ。予測できないことばかり起こして一筋縄でことが進まない
これだから厄介なんだ…天使の力ってーのは
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今日の出来事を思い返していたら、また眠れなくなってしまった。リィから聞いたことを考えるに内部で反逆が行われている…今はシファがいないため自分がどうにか解決するしかないのだが、どうしたらいいのか分からない
窓が開けっぱなしだったため閉めようと近付くと、ヨロヨロとよろめきながら地下室へと向かうリィの姿が見えた。なにをしに行ったのか気になり後を追って地下室へと入ると、そこには真っ暗な部屋で銀色に怪しく光るものを喉元に突き立ているリィがいた
「ダメ!!!!」
刺そうとした剣が急に消え驚いているリィを抱きしめる。その体はあちこちに赤黒く目立ったアザがたくさんできていて、あの後なにをされたのかがよく分かった。地下室のみんなは救えたのに一番助けてくれたリィを救うことができなかった
「ごめん、ごめんなさい……リィ。傷付けてごめんね……私が消えなかったから!だからリィがこんな酷い目に……お願い!私と一緒にいて!あなたの力を貸して!」
「こんな目にあったから?」
「それもある。あの時、無理にでもリィの手を握っておくべきだった!失敗したから、もう必要ないって言われたんでしょ!?だったら私と一緒にいて!この国を変えていくにはみんなの力が必要なの!そのみんなにリィも含まれてるんだから!」
「関係ない」
「あるよ!私は王妃としてあなたを殺さない!殺させはしない!一人の人として!」
「僕が……人?」
信じられないという表情をしている。きっと今まで人間のように扱われてこなかったんだろう…叔父の言うことをよく聞く手足のような存在だったはず
「リィは人だよ。傷付いたら痛いし、悲しいなら泣いていいの。叔父様たちとは対峙しちゃうことになっちゃうけど……でも、ここで死なせることは絶対にしない!お願い!リィ!私と一緒にきて!」
“リィ。いつか一緒に過ごせる日が来るかもしれないわね”
誰かに優しく頭を撫でられたような…脳裏に蘇る懐かしい記憶。失った記憶はもう思い出すことはないと思っていたけれど、こうして少しずつ取り戻していくのも悪くない
差し出した手を今度は拒否されることなく握ってくれた
「姫を全力で護らせていただきます。力をお貸しください」
「喜んで!」
「お前が覗き見なんて珍しいな」
「シンか」
シンはたまたまリンが地下室へと走っていくのが見えて、ここにきたらリオンが壁から2人の様子を見ていた
「この国が2つに別れようとしていることくらい、長年いるお前になら分かるだろ」
「私は中立なので、どちらにつく気もありません」
それだけ言うとシンの横を通って階段を登っていく
「本当にいいんだな。そうやってずっと肩書きにハマってて」
「私には関係ありませんから」
翌朝
メルはいつも通り朝食を運んでリンの部屋を訪れる。ノックをして挨拶をすると中から騒がしい声が聞こえる。こんな早くから誰がきているのか疑問に思った時
「だ、ダメ!」
と、リンの焦る声が聞こえた。慌てて扉を開けて中に入る
「姫様!?」
「こんな感じでどう?」
そこにはリンの髪の毛をいじっているリィがいた。あれ?2人ってこんなに仲良かったっけ?と思っていると
「あ、メル!おはよう。どうしたの?勢いよく入ってきたけど」
「あ、いや、その……姫様の声が聞こえたので」
「僕が何かイヤらしいことをしてると勘違いしたんだ〜」
図星で言い返すことができない。きっと今、顔が真っ赤なはずだ
それにしても目の前で面白そうに笑っているのがいつも無表情でまるで人形のようだと思っていたリィと同一人物だとは思えない
「ありがとう。私は大丈夫だよ」
「こんな早くにリィ様がみえるなんて珍しいですね」
「僕だって姫を護る身だからね!」
座っているリンを後ろから抱きしめている。本当に同一人物なのか……まぁいい
メルは手際よく朝食を机に並べるとリンがいつも仕事をする机に前々からお願いされていた資料をおく
「さすがメル。仕事が早い」
朝食よりも先に積み重なった資料の方を手に取るとリィが覗き込んでくる
「なんの資料?」
「魔物化をどうすれば減らすことができるか方法を探してるの。それぞれの闇は取り除くことはできなくても、原因であるものを変えることができれば少しは良くなるかなって」
「それについて、とても言いにくいのですが」
大半は国や王に対する恨みや憎しみなのは分かっている。だからこそ、この国を変えて少しでも前に進もうとしているところだ
「生まれながらに決まってる道を歩むんじゃなくて、選択していけるように……まだまだ遠い道のりだけど、今はみんながいるから」
そうだ、最初の頃に比べればみんながいる。困った時は助け合って、悩んだ時には意見を出し合って、そうやってみんなで国を作っていきたい
「さっ!まずは朝食にしましょう!」
メルが2人分の朝食しか準備してこなかったことに文句を言うリィだったが、すぐに食堂へ取りに行くと同じテーブルで3人一緒に食べる
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「リィまで」
「これからどうする?」
「使えねぇやつは要らねぇよ。それはお前が一番よく分かってんだろ」
国民を管理しているエルには必要の有無はよく理解しているはずだ。それにしても次から次へとリンの味方になっていき、調子にのられるのは流石にうざったい
「次はどうする?」
「もう少し火種が必要だ。街を襲わせる、か」
「魔物でも放つか?」
「いや、今の国に不満をもってるやつら同士をぶつける。そうしたらあいつは必ず国民の前に立つはずだ」
「だが、それで騒動が落ち着いたらよけいに好感をもたれるんじゃ」
「反乱の人数によるだろ、闇が大きければ大きいほど護りたいと思っている国民があいつを潰す。取り戻すんだよ、俺らの国を」
今では貴族の下の下のやつらですら城の中へ入って来れるようになっている。このままいけば、城の外にいる一般のやつらすら城の中を自由に出入りできるようになるだろう
少しでも貴族や王族のやつらと仲良くして自分の地位を上げようとしてくるやつらを見るのは反吐がでる