繰り返す悪魔ー②ー
なかなか2人して時間が合わず、一緒に部屋へ入るのに3日の時間が経ってしまった。あれから一度も部屋から出ることはなく、食事すらもとっていないとのこと
王の話しでは少しでも刺激したら爆発してしまう状態だとか
「それでも俺は入る。あいつに救ってもらったからな」
「私も姫様にはたくさん救って頂きました!なのでいきます!」
覚悟を決めて、2人でリンの部屋へ入るとその場にはたくさんの結晶でできたイバラが部屋のあちこちにあり、空気にも電気が混ざっているのか肌がヒリヒリする。なるべくイバラには触れず近付かず奥へと進んでいくと一番イバラが絡まってるところにリンはいた
「姫様!」
「待て!」
走り出すメルを急いで止める。メルはどうして止められたのか分かっておらず怒っているが、シンにはこれ以上近付くのは危険だと長年の勘がいっていた
「うん。危ないよ」
「危ないって……姫様、どうしてこんなこと」
いつものリンではない。その様子にメルは同様してしまう
誰も近寄らせないほどのイバラを自身の周りに作って、これじゃあまるで自分に誰も干渉させないようなものだ
今までのリンなら自分から相手に触れていたのに
「そう、いえば……2人とも私が天使だって、知ってたっけ」
「そう、ですけど」
「さっきの……堕天使は……私の……私、の」
「言うな!!!!言ったら……認めたことになる」
急に大きな声をだすシンに2人してビクッと驚けば、なぜかシン自身もとても苦しそうな表情をしている
「……でも……そう、だもの。やつれて痩せて、見た目は変わってしまったけど……忘れるはずがない。忘れたことなんて一度もないの」
「らしくねぇな。いつもなら助けるとか救うとか言って、一番に飛び出すのに」
「分からない。本当に……救ったら、幸せ……なのかな」
「姫様」
本当にらしくない。いつものリンなら一番にどうにかしようとするはずなのに、今のリンは自分がおこしてしまった悲劇に心を閉ざし誰とも関わらず一人殻にこもってしまっている
すると、危険なことを察知していたはずのシンがリンへと手を伸ばす。やはり勘は当たっていたようでバチバチと音を立てシンの手を拒絶する
「シ、シン様!危ないですよ!」
「お前が動いてからこの国は変わりつつある!国民たちもお前のことを慕ってるんだぞ!」
リンの腕を掴もうともっと奥に腕を入れようとするとバチバチと電撃が走り腕に傷ができていく。それでも構わず進めた手は出血し、血が流れる
「ダメ!シン!」
「これがお前の受けた痛みなら俺が一緒に受け止めてやる!!!!」
シンに触れられないように腕を引こうとしていたが、その言葉にハッとする
「お前が天使だろうがなんだろうが関係ねぇよ!俺はお前だから……こうして側にいる」
「そう、ですよ!最初は天使だって知って驚きましたけど……姫様が姫様だから私はお側にいます!あの時、私を救ってくださったのは姫様ですから!」
シンに続いてメルまでもイバラの中へと手を入れてきた。このままでは2人とも怪我をしてしまう、出さなきゃ。この部屋から出ていってもらわないと
そう思えば思うほどイバラは強く光り2人の腕を傷付けていく
「お前は一人じゃねぇ!!!!」
「私たちがいます!!!!」
2人の手が両手に触れる。その瞬間、とても暖かいものが体の中を駆け巡った
あぁ……まだ側にいてくれる人がいるんだ
涙が溢れイバラに落ちたら結晶化が一瞬で解ける。それは自分の体内と戻っていた
「シン!メル!どうしてこんな無茶を」
そう言いながら涙は流れ、2人に癒しの力を使う。傷だらけで出血し、火傷のようになっていた皮膚は綺麗になった
「それ、お前が言うか?」
「本当ですよ!いつも無茶をするのは姫様じゃないですか!」
メルから渡されたハンカチで涙をふくと2人にお礼を伝える
そうだ、私は一人じゃない。メルとシンがいつでも側にいてくれる
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「リンー!リンはどこ!?リン!!!!」
そう言って暴れ特別室であっても衝撃が伝わってきて床や天井はえぐれる。そんな様子を外からシファは見ていた
「ずっと……こんな、感じ?」
「はい。魔物化が進んでいますのでバケモノになるのが近いと思われます。意思疎通は難しいかと」
「150年前まで……大天使の座に……いただけの……ことはあるね」
地下20階にある結界が施してある特別な牢に入れてもこれだけの力があるのだ。さすがは大天使と呼ばれていただけのことはある
「姫が……面会に、きたら……拒否せずに……入れて、あげて」
「よろしいのですか?」
「うん。落ち着いた……みたいだから」
「承知致しました」
翌日
メルと2人で久々に食事をとっている。3日間、誰も近寄らせなかったことで食事をとることはなかったし、もってこられても手をつけることはなかっただろう
「姫様?まだ調子が戻りませんか?」
「うーうん。体は大丈夫なんだけど……」
あれだけのイバラを一気に吸収したのだ。多少なり、体に負担がかかっているように感じることもあるような…ないような。だが、一番気になっているのはやはりお母様のことで
「メルは堕天を何回も見たことがあるの?」
「私たちは上までいけませんので遠くからしか見ることはできませんが、数回ほどはあります」
「どこに連れていかれたのか知ってる?」
「もっている力によって入れられる牢が違うことくらいしか」
堕ちてきたのが母親だと昨日、言っていた。初めて堕天を見るだけでも2、3日その姿を忘れることはできないと言うが身内ともなればよけいに忘れられず、今どうしているのか気になるのは当たり前だ
「そっか」
お母様がどこにいるのか知りたい。知りたいけども会いにいくことができるのだろうか。場所を聞いたとしても気を利かせてその場へ連れてってくれる人もいるだろうから、なかなか踏みだすことができない
「まーたなにか悩んでんのか」
いつのまにか部屋に入ってきたシンは流れるように空いてる椅子に座る。いつもの騎士の格好ではなく甲冑などは全て外していて私服姿のようだった
「もうお仕事は終わったのですか?」
「あぁ。それよりも、気になるんだろ」
「うん……でも会うのが怖い」
すぐに行きたいと言わなかったため、怖気付いているのかと思っていたが、やはりそうだった。こうなれば一歩踏みだす勇気が必要だとシンは思った
「よし、見にいくか」
「シ、シン様!?姫様はやっと落ち着かれたばかりなのに!」
「じゃあずっとこうしてんのか」
「ですが、まだ本調子ではないのに」
「……いきます」
せっかくシンが誘ってくれたし、ここでまた受け身になっていても何も進まない。いつかは会わなければならないのなら早い方がいいはずだ
「救えるのなら……救いたい」
そう言ったリンからはしっかりとした覚悟を感じた2人
メルも一緒についてきてくれようとしたが、あえて部屋で待っててもらうことにする。自分が戻ってきた時に安心したい
「お2人とも、お気をつけて!」
メルに見送られ、シンと手を繋ぎながら歩いて行く。ブレスレットをつけてくれていることが嬉しくて思わず聞いてしまったシンに対し、もらったものだから。なんてそっけなく言い返すが本当はお守りのように思っていた
エレベーターに乗って今まできたことがないほど下へと降りていく。地下20階に着き扉が開いた瞬間から感じるお母様の力
「母親がいるのはあそこだ。今ならまだ引き返せるが、どうする?」
「会いにいく」
「分かった。なにかあれば全力で護る」
前を歩くシンを見て、なんとなくだがこの背中を知っている気がした。懐かしいような、頼れるような…そんなことを思っているとどこからか自分の名前が呼ばれている
この声はお母様の声だ
「あぁやってずっと呼んでるらしい。意思疎通は難しいようだ……姫が中に入る。王から許可は出ているはずだ」
「はい。今、開けます」
見張り役の騎士が鍵を開けると中に入れるようになり、再びシンに手を繋いでもらって中へと入ると、ずっと自分の名前を呼んでいるお母様が鉄格子をゆすっていた
「お母様!」
シンの手を離し走って牢へと向かうと、お母様の手足には鎖が繋がっていた。その光景に一瞬ハッとしたが
「お母様!お母様!」
「……リン……?リンなの?」
「そうです!お母様!」
あれだけガタガタと鉄格子をゆらしていたがピタリとおとなしくなる。それにホッとしたのも束の間
「違う!あんたなんか違う!!!!」
再び暴れだしてしまった。どうして、なんで、目の前にいるのは本物の私で、あたなの娘なのに…
「リン!リンはどこ!あんたが!あんたが連れてったんだ!返して!リンを……私の娘を返して!!!!」
そっか…お母様の時間は150年前で止まっているんだ。だから200歳になった私はお母様の娘ではなく、魔界へと連れていった人になっている
そう思ってもやっぱり否定されたことは辛くて悲しい
その様子を見て、シンが戻ろう。と肩を抱いて連れてってくれる。自室へと戻ると
「あ、お帰……なにか温かい飲み物を淹れてきますね」
メルが察したようで退室し、2人きりになる。シンがベッドまで連れてってくれて、座らせる
「少し休め」
「お母様があのまま魔物化したら……誰が殺すの」
「その時、近くにいた俺らか王だ。今はそれよりも休め……なにかあったら呼べ、すぐくるから」
自分から離れていくシンの服を掴む
「一人に……しない、で」
その手は震えていて、それを知ったシンは隣に座ると抱きしめてくる
「泣きたかったら泣け。我慢しなくていい」
再び感じる懐かしさと安心感。一度溢れてしまった涙を止めるのことはできなかった
ヨシヨシと優しく背中を撫でてくれる
「生きててくれるだけで、良かったのに!なのに、あんな姿、見たら!嬉しく、思えなかった!お母様の、時間はっ、150年前で、止まっちゃってる!私が……っ私が、リンなのに!娘なのに!お母様はっ!違うって!」
魔界にきて初めてこんなに泣いた。それはまるで小さい頃に戻ったかのようで
天界に帰りたいと毎日泣いていた時よりもしゃくりをあげながら大泣きする。シンはそれを受け入れるように何も言わず、ただただ優しく抱き締め続けた
部屋の前の廊下でメルは座りながら入るタイミングを伺っていた。誰かの前であんな風に泣いたリンをみたことがなくて、150年間世話をしてきたシンの方が信頼されているんだと思った
淹れてきたハーブティーがすっかり冷めてしまった。淹れ直すために立ち上がると扉が開かれる
「寝た」
あのリンが泣き疲れて眠るなんて想像ができなかったが今、目の前で起こっていて
シンの顔を見ればなんとも言えない表情をしていた。それはきっとお互い様だろう
また後で訪ねようと思いティーワゴンを引いて戻るとシンが一緒に歩いてきた
「シン様はやけに姫様のことを知られているのですね」
「150年間見てきたらだいたいのことは分かる」
「私も早くそうなりたいです」
「お前にはまだ早い」
所々、おちょくってくるこの感じはなんなのだろうか。けど、あの一件以来こうしてシンとリンのことについて話すことが増えたのはいいことだ。前までの国のやり方ではこんな風に話すことすらできなかった
やはり姫様はすごいお方だ。改めて思ったのだった