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反逆者は裏切らない

「姫様」

「あぁ……いつ見てもお美しい」

「まさに王に相応しいお方だ」


 夜になり、晩餐会に参加しているといつもと同じように決まった言葉を何度も言われる。シファの機嫌を損なわないようにしているのか言葉は自分に向けられているが、視線はシファを見ている人が多い


「大丈夫?」


「はい。少しは慣れたようです」


「良かった……疲れている……んじゃないかって……心配した」


「お気遣いありがとうございます」


「また……そんなに……かしこまって」


 そうは言われてもまだ実感はないし、魔界の王妃になったらと言って、天界のことを全く考えないということはない

 急に黙ってしまったからかシファが言葉を続ける


「君は……この国を……どう、変えて……いきたい?」


「私は、一人の人としてみんなを支えていきたいです」


「一人の……人?」


「王族だから、貴族だから、騎士だから、一般人だから……ってことは関係なく人柄を見ていきたい」


「そう、したら……争いは……なくなる?」


「争いごとはなくならないと思います。人には欲望があるから……でも、一人の人としての価値はうまれます!生まれながら決まっている道を歩くんじゃなくて、たくさんの選択肢の中から選んで歩けるように」


 これこそがずっと引っかかっていたことだった。お城の内側も外側も関係なくお互いに助け合うことができれば…きっとより多くの人が笑える


「私の意見に賛成してくれますか?」


「どう、かな……僕、自身が……肩書きに……ハマってる、から。君の……意見を……取り入れるのは……時間が、かかりそうだ」


「シファ様が色々と大変なのは分かっております。ですが、どうか見守ってくれませんか?」


「そう、だね。君は……僕にとっても……国にとっても……必要な……存在だから」


 暫く王族や貴族の人たちと会話を交わし、多少は慣れたことで笑うこともできていた。そのおかげか晩餐会が終わるのもいつもより早く感じた

 自室に戻り、椅子に座りながら今日の出来事を思い返す


「姫様?どうかされましたか?」


 難しい表情でもしていたのか、メルがハーブティーをもってきてくれる


「ありがとう。なんだか今日は色々とあったなって思って」


「考えるのもほどほどにしてくださいね。今日はもう遅いのですから……では、失礼します」


 時計を見れば1時を過ぎていた。メルの言う通り今日はもう休もうとベッドに入れば、ベルから助けてくれたシンにお礼を言っていなかったことを思い出す。体調も気になるし、会いに行ってみようと自室から出たのはいいがそもそもシンの部屋を知らなかった

 シファに聞いてみようと歩いていると暗くて誰だか分からないが、ヨロヨロとシファの部屋へ向かっている人物を見つける。誰だろうと思っているといきなり剣を抜き、シファの部屋へと入って行った

 止めないと!と思い、急いでシファの部屋へと入っていくとそこにはシファに剣を振るうシンがいた


「お前さえいなければ!!」


「闇に……飲み込まれた、ね」


「シン!!!!」


 突然、現れたリンに一瞬驚くがすぐに結界を張るシファ。結界は球体と同じようで簡単には解くことができなさそうだ


「君を……巻き込み……たく、ない」


「またそうやって……そうやって!奪ってく!!!!」


 シンは何度も何度も斬りつけるがシファに触れる前に刃が弾かれる。なんとかしてこの状況を収めたいのだが、なぜ急にシンがシファに向けてこんなに強い憎悪をぶつけているのか全く理解ができない


「次、攻撃したら……反逆と……みなす」


「黙れ……黙れ!黙れ!!!!」


 シファに反逆扱いをされても止まることなく攻撃をし続ける。気付けばシンの顔半分にまで広がっているアザ。あの術のせいでシンがこうなってしまったのは間違いない

 だからと言って、2人が戦うところなんて見たくない


「や……めて」


「お前が……お前がー!!!!」


 シファの手から自分には見えない何かが放たれたようでシンは壁に押し付けられる。その力が強いようでメリメリと音をたて壁にヒビが入るが、それでも必死にシファへ攻撃をしようとしている


「……残念だ。君は……とても……優秀だった」


 本気で殺すつもりなのだろう。シファの周りにはたくさんの剣が現れた。動くことができないシンに全部刺すことは容易いだろう

 シファが上にあげていた手をおろすと剣はシンに向かって次々と飛んでいく。いやだ、こんなの間違ってる


「ダメーーーーーーーー!!!!」


 いつの間にか結界から飛び出したリンがシンとシファの間へと入り込む。シファは咄嗟に剣を消すも一本が左頬をかすめ血がでる


「どう……して」


 あっという間に目の前に来たシファの瞳からは一筋の涙が流れている


「なぜ……傷付く……ことを」


 血が出ている左頬を優しく拭うと抱きしめてくる。その体は震えていて、本当に傷つくことを恐れているようで


「シファ様……シンが理由もなくこんなことをするはずがありません。あなたならその理由を知っているはずです」


「なぜ……?」


「言葉をかけていたから……本当に反逆者ならあなたはすぐに消すはずです」


「そう、だね」


「お前の……せい、で」


 シファの拘束が緩んだからかシンは動き出す。だが少なからずダメージを負っているようでヨロヨロと立ち上がろうとしたが、うまく立ち上がれず膝をつく


「シン!もうやめて!」


「俺の……家族を、奪って!!!!」


 シファの腕から抜け出し、シンのもとへと向かおうとするがシファに腕を掴まれ止められる


「彼は……今、術で……心の底にある……闇に……蝕まれている、ようだ」


「じゃあシンは、シファ様を」


「殺したいほど……憎んでいる……ようだね」


「俺の……かぞ、家族、を」


 なぜだか分からない。シファを嫌っていたように感じたことはなかったし、むしろいつも感謝を告げられていた。それに繰り返すように言っている[家族]と言う言葉

 シファに家族を奪われていたのならば、こうして幹部など引き受けることはしないはずだ。再びシファに剣を向ける


「シン!ダメ!そんなことをしてもなににもならない!もうやめて!」


「無駄だ。解けない……かぎり、彼は……僕を……殺そうとする……っ!?待て!!!!」


 シファに掴まれた腕を振りほどき、シンのところへ行く。もしかしたら斬られるかもしれないが、今はシンを落ち着かせる方が先だ


「シン!しっかりして!自分を保って!」


 地下牢で聞いた言葉をまさか自分が言うことになるとは思わなかった。下手をすればこのまま魔物化が進んでしまうかもしれない

 あれ…?あれだけ暴れていたのにこちらには攻撃をしてこない…


「もう……これ以上……彼を……このままには……しておけない」


「待ってください!シンは自分自身と戦っています!」


「なぜ……?」


「あなたを殺したいのであれば、目の前にいる私が邪魔です。でも斬りかかってこないということは自分の意思と戦っているからではないのですか!?」


 リンの言う通り、シンはアザのある部分を手で押さえており自分自身と戦っているように見える


「でも……このままには……しておけない」


「私がシンを連れ戻します!!!!」


「例え……戻ったとしても……もう、今までの……ようには……いかない。反逆者に……かわりない」


「わかっています!でも、そこから先は彼が決めることだから」


「君に……危害を、加える……ようなら……すぐ殺す」


 その目は本気で絶対に失敗をすることは許されない。もしかしたら、シンは自分の意識が戻ることを望んでいないかもしれない…けど、しっかりと話しを聞きたい

 悩んでいるのならば一緒に解決したい


「シン……私の声は届いてる?」


「殺、す。殺す!!!!」


 今まで見たことのない狂気的な目。それに怖くなるがここで立ち止まるわけにはいかない。名前を何度も呼びながらアザが広がっている顔へと手をのばす


「シン……私がわかりますか」

 《ーーーーーーーーーーーーーー》


 一瞬、シンの動きがピタリと止まり、うまくいったと思ったが再び狂気的な目に戻ってしまった。シンから伝わる苦しみがなんなのか分からず、どうしたら助けられるのかも分からない…思わず涙がこぼれる


「シン、私はあなたを……助けたいのです」


「な、み……だ」


「あなたがどうしてシファ様に刃を向けているのか分からない!でも私はあなたを……シンを助けたい」


 《ーーーーーーーーーーーーー》

 《ーーーーーーーーーーーとう》

 《ーーーーーーーーー約束だよ》


 血が滲むほど強く握られた手から少しずつ力が抜けていくとやがて剣は床に落ちた


「シン!!!!」


 シンの顔から徐々にアザが小さくなっていく。彼の闇がなくなり始めているのだろうか…?

 意識が戻ってきたらシンは急にリンを突き飛ばした。そして床に落ちている剣を掴むと自身の首元へもっていく


「やめて!ダメ!」


「俺が俺でいるうちに消える!!誰かにやってもらうなんて……そんなことごめんだ!!!!」


「シン!!!!」


「彼はそれを望んでいる」


 再びシンのところへ走って行こうとすると止められる。掴まれた腕は強い力で握られていて痛いくらいだ


「王。この失態、この命をもって償います」


 それに対して言葉は返さず頷くとシンは勢いよく剣を引こうとする。原因は術なのにシンは悪くないのに…こんな別れ方、絶対にいやだ


「ダメーーーーーーーーー!!!!」


 リンを中心に光の輪が広がるとシンの持っていた剣が消える。眩しい光のはずなのに目はチカチカせず、どこか暖かくて心地が良い


「シン、命を経つのは簡単です。でもそれはただの逃げにしかなりません……幹部として、騎士としてではなく一人の人として生きるのです」


「だが、俺はもう……」


 優しくソッとシンの頬に触れると、術者を消さない限り消えないはずのアザが癒えていき綺麗になくなる。ニコリと微笑むリンなのだがいつもと雰囲気が違う


「これであなたを縛るものはありません……王、これからも彼を側においてくれませんか?」


「彼が……いいので、あれば」


「これからあなたにとってたくさんの問題がおこるでしょう……それを乗り越えることはできますね?」


「……俺は」


 シンが悩むのもわかる。何度も言うがこれがシンにとっていいことなのかは分からないし、これから先、彼がどのような目で見られるのかも分からない


「自信がないのなら誰かを頼ってください。あなたには支えてくれる人がいるのですから」


「はい。分かりました」


 それだけ聞くと、体から力が抜けていく。倒れる寸前でシンが受け止めた


「久々に……力を、使って……疲れた……んだろう。部屋で……休ませて……あげて」


「あの……王」


「君は……今まで通り、仕事を……すればいい。君が……僕を、殺したい……理由は……よく、分かってる……から」


「ですが」


「姫と……僕が……決めた、ことに……なにか?」


「いえ……失礼します」


 シファの部屋から出てリンの部屋へ入る。スヤスヤと眠っているリンをベッドへ寝かせると髪に引っかかって自身の首元からペンダントがでる。これは自分の命よりも大切なもので、手に取って中心にあるシロツメグサの押し花をジッと見つめてから再び服の中へと戻し、退室する

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