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なんのための救える力か

 シンから許可をもらい、リンの元へ向かったメルだがバルコニーに居ないことに気付く。周りを探してみたが、全く見つけることができず不安と焦りから足が速くなる

 シンの後ろ姿が見えたため、引き止め事情を説明し一緒に探すこととなった



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ーーーーーーーーーーーーー


「すみません。盗み聞きをするつもりはなかったのですが」


 リンが姿を現すとその場にいる全員が驚く。王妃となろう方が誰もよりつかないこんな所にいるんだ、当たり前の反応と言えば当たり前だが


「あなたはここがどのような場所かお分かりでしょう?」


 女性にそう言われるがここがどのような場所か予想はできるがハッキリとしたことは何も知らない


「ですが見られた以上、黙って帰すわけにはいかない」


「ダメ、だ!」


「でも!でも!!!!私たちを陥れた国の姫なのよ!」


「いけない!自分を保つんだ!」


 目の前の女性の形が急に変わっていく。猿を2メートルほどにした大きさになり、豚のように鼻や口が伸びて大きな牙が生えた。手足の爪が鋭く長くなり、蝙蝠のような翼が生える……人間とかけ離れたその姿はまるでバケモノ

 いくら魔界とはいえ、こんなモノが外を歩いていたら問題になってしまう


「くっ……堕ちて、しまったんだね」


「堕ちる……?」


 “にぐいぃぃいー!!!!”


 そう叫んだかと思ったらこちらへと走ってきた。今ここで天使の姿を見せるわけにはいかない……どうすればいいのだろうか、考えているうちにすぐ目の前にまで迫ってきた右腕

 刺される、と思ったが何かに弾かれバケモノはよろめいて後ずさる


「シン」


「ご無事ですか?」


「私は。ただ状況がよく分からなくて」


 魔界ではこういうバケモノがいるのだろうか?シンは特に焦った様子もなく、再び襲ってくるバケモノの行動を見定めている。そして、迷うことなく心臓を刺すとバケモノはバラバラと崩れ灰になった

 人の形に戻ることすらなく、さっきまで女性だったモノはただの灰となり消えてしまった。もうなにがなんだかよく分からない


「戻りますよ」


「ま、待ってください!」


「ここはお前が居ていい場所じゃない」


 手を引いて戻らせようとするシンに待ってと言えば、今まで聞いたことがないほど大きくキツい言い方をされた。それに一瞬だけ怖くなったがここで引き下がるわけにはいかない


「ですが!姫として知る権利はあります!堕天使なのに堕ちるとはなんですか!?それにここは一体どういう場所なんです!?」


「姫さん。ここは堕天使からさらに堕ちたモノが隔離されるところです」


 無言のシンに代わって、先ほど女性と話していた男性が説明してくれる


「さらに堕ちる…?」


「堕天使は堕ちるとさっきみたいに魔物化する。あぁなったら最後、戻れはしない」


 それだけだ、と言わんばかりにここから出そうとするシンに抵抗をしていると


「もう…十分でしょう。ここには恨みや憎しみをもったモノしかいません……姫であるあなたを、殺してしまうモノもいるはずです。なにより、あなた方を見るのが……辛いモノもいます」


 そう言われ、周りを見れば下を向いている人や明らかに憎悪をもった目つきでこちらを見ている人もいる


「分かっただろ?ここはお前が近付いていい場所じゃねぇ」


 もっとこの国のことを知らなければならないと思った。こうなってしまう原因はなんなのか、彼らを救うことはできないだろうか…?色々と教えてくれた男性の牢へと近付き、また来ることを伝えると拒否はされなかったが呆れたようだった


「あなた方を救える方法があるかもしれません。探してみます…それまではどうか、どうかご自分を忘れないでください。せめてこの鎖だけでも外せるように」


 繋がれている鎖にソッと触れれば、驚かれる。そしてやっと目を合わせてくれた


「あなたは……今までの方とは違うのですね」


「私は天使ですから」


 一瞬、ほんの一瞬だけ真っ白の羽根を広げすぐに消す。シンがその行為に慌てて止めに入るが時すでに遅し、この場にいる全員が驚いた


「……では、また。シン、行きましょう」


 二人が階段を登っていくのを見て、思わず本音がもれる


「ハハハ。天使が魔界の王妃なんて……なんだろう、ほんの少しだけ希望がもてた気がする」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ーーーーーーーーーーーーーーー


 階段を登り終え、扉から出ようとしたところをシンに止められる


「なんで天使だなんて言った!!!!」


「私はこの国を護ると決めた。そのためには色々と知らなければいけない……そして、救える命があるのならばどんな命でも救いたい」


 今までリンからこんなにも真っ直ぐな目を向けられたことがなかったため言葉につまり、なにも言えなくなる

 シファは自由にしていいと言った。きっとここに入ったことも分かってたはずだ。だが姿を現すことはなかった、シンが助けに入ることを予測していた?


「王は今、どちらに?」


「自室にいる」


「いきます」


「色々と公務を終えられ戻られたばかりだ」


「私なら入れてくれます」


 スタスタと一人でシファの部屋へ向かうとシンが追いかけてきた。隣について歩いてくれるけどもお互いに先ほどの気まずさから一言も話すことはなかった

 終始無言でシファの部屋に着くと扉は勝手に開いた。はやり行動が見透かされているようだ


「来ると……思って、たよ。シン、付き添い……感謝する。助けて……くれて……ありが、とう」


「……失礼します」


 シンは去っていき、2人で部屋の中へと入る。前回と同じソファーに案内され、座るとシファも隣に座る


「君から……来てくれる……なんて……嬉しい、よ」


「王。ここへ来た理由はご存知のはずです」


「王、なんて……よそよそしく……呼ばない、で」


 そう言って撫でてくれる手つきは優しく、どこか懐かしいものを見ているように感じた。思わず聞きたくなったが、今は目の前の問題を解決しなければ


「シファ様、お聞きしたいことがあります」


「……魔物化のこと……だろう?」


「救える方法はないのですか!?バケモノになったら何も残らないなんて……そんなの、寂しすぎます」


「そうだね……ないことも、ない。でも……それなりの……犠牲が……必要だ」


「犠牲?」


「なぜ……魔物化すると……思う?」


 その問いかけにすぐに返事ができなかった。魔物化…堕天使がさらに堕ちる。元々、堕ちているものがさらに堕ちてしまうなんて聞いたことがなかったし、シファはこの状況を知っていて犠牲が必要だと言った


「誰しも……心の中に……闇を、抱えている。その闇が……表に……出たのが……魔物化だよ」


「では、その人の闇を払いきることができれば」


「そう、だね。でも、負の力は……とても、強い。君も……身をもって……感じた、はず」


 確かにあの時シンが来てくれなければ負傷していたか、羽根を広げて今頃騒ぎになっていただろう。ただの魔物ならば何も思わずに天使の力を使って浄化することができたかもしれない。だが、元々は人だったと知ってしまったらむやみに攻撃することはできない


「闇をもつ……理由なんて……それぞれ、だから。一つずつ……解決して……いくつもり?」


「それであの人たちが悲しまなくてすむのならば」


「甘い、ね。あそこには……僕に、僕たちに……恨みを……もってる……モノばかり。君は……王妃なんだ……また、襲われる」


「それでも……それでも救えるなら救いたい!魔物化するまで閉じ込めておいて、殺されるのを待っているのは間違ってます!」


 歓迎されていないことなんて先ほど痛いくらい感じた。だからと言って、いつ魔物化するかも分からないのに下手をしたら何十年と牢に入れられるのは間違っている。まだ何も分からない状態だけど、もしかしたらなにか方法があるかもしれないのに


「君に、負を消す……力が……あるとでも?」


「分かりません。けど私は天使だから!もしかしたら浄化ができたりするかもしれない……闇を全て綺麗に消すことはできなくとも何もしないで魔物化を見ているだけなんてできません!」


「分かったよ……君の……好きに、したら……いい」


「シファ様。あなたが考えている方法とはなんですか?」


「魔物化を……戻すには……その原因を……消せばいい。例えば……原因に……なっているものを……殺す、とかね」


「させません。私はこの国をみんなを護ると決めました。一人でも多く救ってみせます」


 それだけ言うと立ち上がり、リンは部屋から出ていった。シファは何かを考え込んでいる様子だったが、側近が現れると報告をきく


「なにか……つかめた?」


「内側で少しずつ動きがみえます」


「そう。向こうも……すぐには……動かない……はずだから。もう少し……様子を、みよう」


「御意」


 リンが王妃宣言されてから、こそこそと動くものが増えた。分かってはいたことだが、予想よりも数が多く休む暇さえない。リンがいまだに無事でいられるのはシファの働きがあったからだとは本人は知るよしもない

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